日本の食品・飲料業界では、少子高齢化による国内マーケットの縮小や製品ライフサイクルの短期化が続いており、従来のクローズドイノベーションでは、連続的な成長戦略を描けなくなってきています。このため、食品・飲料業界においてもオープンイノベーションが活発化しており、様々な目的で外部組織との協業を検討する企業が増えています。
また、1~2年i以内の製品開発に関連した短期的なアウトプットを目指すオープンイノベーションに加え、マイクロプラスチック問題等、SDGsに関する中長期的な課題に対してオープンイノベーションを実施していることも食品・飲料業界の特徴といえます。
今回、食品・飲料業界のオープンイノベーション事例を、製品開発という身近な事例とSDGsという中長期的な取り組みが必要になる事例の2つの観点から2週にわたってご紹介します。オープンイノベーションをやってみたいけれども何をすればいいのか分からないという方にも、始めるきっかけになるのではないでしょうか。
ナインシグマの公募プログラム「テクノロジーサーチ」の事例からみる製品開発に関連した短期的なオープンイノべーションの事例
グラフ1:食品・飲料業界における探索技術内訳
グラフ1をご覧ください。このグラフは、ナインシグマのテクノロジーサーチ(公募形式で世界中から技術ニーズを満たす技術・パートナーを求めるプログラム)を活用いただいた食品・飲料業界のお客様がどのような技術を求めたかをまとめたものです。(2018年1月~2019年3月にナインシグマ・アジアパシフィックにて実施した公募より集計)
求めた技術としては、「生産技術」「新規成分・素材」「分析・評価技術」の3種に分類され、生産技術を求めた事例がやや多くはなっているものの、3種がほぼ同程度の割合であることが分かります。このことは、新製品開発にあたって、「生産技術」「新規成分・素材」「分析・評価技術」が等しく重要と考えられていることが示されました。
少し食品・飲料業界のことをご存知の方なら、「分析・評価技術」のようなまわりくどいことをせず、「新規成分・素材」を求める方が新製品の開発が早く進むのでは?と思われるかもしれません。確かに、求める対象を「新規成分・素材」とし、公募でまさにその成分が見つかった場合には、すぐに事業化が可能になるというメリットはあります。
ただ、既に同業他社が様々な同様の研究・探索をしている中で、そう魅力的な「新規成分・素材」が簡単に見つかるということは確率的に低いと考えられます。また、「新規成分・素材」をオープンイノベーションで求めた場合、パートナーとの権利調整が難航する可能性もあります。
求める技術を「分析・評価技術」、すなわち「素材のスクリーニング技術」とすることで、事業化までのタイムラインは長くなるものの、独自性の高い素材が見つかる可能性が高くなり、かつ自社単独での権利化も可能になるというメリットがあります。
このように、オープンイノベーション実施に際しては、自社のビジネス・事業戦略を踏まえた上で、「何をオープン」にし「何をクローズ」にするかも含めた「オープンイノベーション戦略」を策定することが重要となります。
グラフ2:オープンイノベーション実施の目的
次に、グラフ2をご覧ください。このグラフは、公募によるオープンイノベーション実施の目的を分類したものです。求める技術を用いて達成したいことの多くが、美味しさ・外観の更なる向上になっており、依然として美味しさを追求することが食品・飲料業界における重要なテーマであることが伺えます。
次いで、ヘルスケア・環境保全といったテーマに関する募集も多く実施されています。これは、昨今各社がSDGsへの取り組みに注力していることを反映している結果と考えられます。SDGsに関わるテーマは、食品・飲料メーカーがこれまで得意としてきた技術領域だけでは解決困難な場合が多いため、外部技術を導入するオープンイノベーションとの親和性が高いと考えられます。
では、製品開発に関連した具体的なオープンイノベーションの事例を紹介していきます。
ナインシグマで実施した技術募集事例の紹介
①発酵槽からの連続的なアルコール除去技術
売上数兆円規模の大手食品メーカーが、発酵液中に副生されるエタノールを連続的に除去する技術を求めている。発酵プロセスへの適用を目的としているが、提案技術の発酵プロセスへの適用実績は問わず、追加開発も可能である。
※募集要項の詳細:https://www.ninesigma.com/s/RFP_2019_0034
②美を願う生活者の悩みを解決できる食品素材
売上数千億円規模の国内大手ヘルスケアメーカーが、美を願う生活者の悩み(肌トラブル、その他女性特有の悩みなど)を解決できる食品素材を求めている。最終製品の形態として、特定保健用食品(トクホ)・機能性表示食品といった食品・飲料を想定している。
※募集要項の詳細:https://www.ninesigma.com/s/RFP_2019_0135
③食品原料のナノスケール粉砕技術
売上高兆円規模の大手食品メーカーが、食品原料(コーヒー、茶葉、柑橘類の果皮)のナノスケール粉砕技術を求めている。
※募集要項の詳細:https://www.ninesigma.com/s/RFP_2019_0214
いずれも高い技術レベルが求められるプロジェクトですが、こういった難易度の高いテーマこそ我々のような技術仲介業者を利用していただき、自社だけでは見つけられなかった素晴らしい技術に出会うきっかけを得ていただきたいと思います。
次回は、食品・飲料業界におけるオープンイノベーションの動向2として、SDGsに関連した国内食品・飲料業界のオープンイノベーションの取り組みを、ナインシグマのマルチクライアント型コンテストプログラムであるリアルテック・ピッチの事例を元に紹介します。
藤原 広樹 |
ナインシグマ・アジアパシフィック株式会社 |
京都大学/農学研究科 修了、キリンホールディングス株式会社/ R&D本部を経てナインシグマ入社。 |