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オープンイノベーションの新潮流
第2回「SDGs解決のためのオープンイノベーション活用法」

ナインシグマ・グループ
CEO 諏訪 暁彦

ナインシグマのグローバルネットワークの事例からオープンイノベーションの応用編を紹介する「オープンイノベーションの新潮流」。第二回目は、SDGs解決のための活用事例を紹介します。

地球規模の問題解決をしたい、それがナインシグマの原動力

話は少し逸れますが、ナインシグマがお手伝いをしたエレンマッカーサー財団主催『海洋プラスチック問題解決のためのコンテスト』の具体的な内容をお話する前に、私自身が現在のナインシグマのようなビジネスの必要性を感じたきっかけについてお話をさせてください。

私が中学3年生の時です。それまではスポーツばかりで、あまり図書館などに立ち寄る子供ではなかったのですが、ある日偶然『地球白書』という本を手に取り、その一冊の本がきっかけでエネルギーや食料の地球規模の課題を認識したのです。

元々科学が好きだったこともあり、将来は世界のエネルギー問題を解決するような科学者になりたいと思いたち、アメリカ留学を志しました。地球規模の問題解決には材料のブレークスルーが不可欠だと考え、MITの大学院では材料工学を選びましたが、結果的にここで大きな挫折を経験したのです。

MITでははるかに頭のよい、天才的な学生がたくさんいました。自分程度のレベルでは、とても世界を変えるほどの研究はできないだろうことも、痛感しました。ただ同時に、その人たちのなかには中長期の目標や、特に目指しているものがない人たちも多く居る事にも気がついたのです。

私は元々代替エネルギーの科学者になりたかったわけですが、自分が研究や開発をやらなくても、もっと頭の良い技術者を、技術を必要としている企業と結びつけることができれば、自分が科学者になるよりもさらに大きな社会的インパクトを起こせるのではないかと考えました。

それで博士課程には進まず、マッキンゼーで6年ほど働いて主にマーケティング領域の経験を積み、より技術的な仕事に関与するために日本総研に移りました。その時にアメリカで10人もいない、小さな会社だったナインシグマと出会いました。当時はオープンイノベーションという言葉もなく、技術仲介業(technology broker, technology intermediary)と呼んでいたと記憶しています。

そんなアメリカの片田舎の小さな会社が3M, GE, GMなど、そうそうたるアメリカの大手企業の技術課題に対して、解決策を世界中から集める仕事をしていたのです。これはまさに私が学生時代に考えていたビジネスモデルだと気づき、日本オフィスを開いたのがオープンイノベーションの世界に入ったきっかけです。

 

社会課題解決のために、オープンイノベーションだからできること

前述した私自身の少年のころの夢もあり、解決困難な社会問題の解決の一助となることは、たいへん意義深いことだと感じています。

繰り返しとなりますが、世の中の必要とされる技術が高度化していくなかで、1社単独でできることは限られています。社会的な課題としてニーズが非常に高いものであっても、問題が大きくなれば単独では解決できません。SDGs(持続可能な開発目標)で求められるニーズは、技術的にもビジネスモデル的にも難易度が高く、複数企業が協業して取り組むのが世界の潮流です。またその際には世界的な幅広い分野の研究者のネットワークが不可欠であるため、私たちのような企業がパートナーとして選ばれているのでしょう。

今回連載の第一回の事例として、エレンマッカーサー財団が開催したコンテストについてご紹介したいと思います。

New Plastic Economy Innovation Prize by エレンマッカーサー財団(Ellen MacArthur foundation)

世界の海に漂うプラスチックごみの量は、各国が相当積極的なリサイクル政策を実施しない限り、2050年までに魚の量を上回るという驚愕のレポートはご記憶でしょうか。

当時、各種メディアで大きく取り上げられましたが、あの調査は単独ヨット世界一周航海で知られる英国人エレン・マッカーサー(Ellen MacArthur)がマッキンゼー・ビジネス環境センター(McKinsey Center for Business and Environment)の協力で行った世界規模の調査結果を、2016年のダボス会議に合わせて発表したものでした。

この、海洋プラスチック汚染問題のような課題の場合、差別化技術でいつのまにかすべてが解決することはありえません。いくつかのプロセスがあって、そもそも包装をなくす、ゴミになりにくい包装をつくる、リサイクルしやすい材料にする、分解しやすい材料にするなどさまざまな段階の解決策を考え、複合的に取り組まなくてはならないのです。

海洋汚染を食い止めるためには、何をどれくらいやれば十分なのかというのは現時点では明確にはわからないので、こういう広い問題を解決するとなると、従来の差別化技術とは違った難しさがあります。

そこで、エレンマッカーサー財団では広く、サーキュラーデザインとサーキュラーマテリアルという2つのテーマでコンテストを実施しました。
今後20年間でプラスチックの需要は2倍になる見込みがあるものの、現状ではたったの14%だけがリサイクルの対象になっていて、世界的に見ると800-1200億ドルが無駄になっています。ほとんどのプラスチック製品は一度使われただけで捨てられてしまいます。このままだと2050年にはゴミの量が魚の量を上回ってしまうので[1] 、何かしら解決策を募集しようという趣旨で開催されたコンテストです。
ユーザーにとってより便利で、かつ排出されるゴミの量が少なくなるようなパッケージデザインを作れるかを提案するのがサーキュラーデザインコンテストです。
既存の13%のパッケージは複数の材料を使ってできています。そのほうが食品の鮮度を保つのに適しているためです。一方で複数の材料をあわせて使うことで、リサイクルしにくくなっています。リサイクルしやすい、もしくは自然で分解されやすい材料を提案するのがサーキュラーマテリアルコンテスト です。[2]

複雑な課題に世界中から応募を集めるため、デザインに関わる課題解決はIDEOが、そして技術や素材開発に関する部門(サーキュラーマテリアルコンテスト) の運営はナインシグマが担いました。

このようなコンテストを成功させるためには、いくつかのポイントがあり、このニュープラスチックエコノミー・イノベーションプライズもうまくそのポイントをクリアして設計されています。今後このようなコンテストを企画・開催される場合にはぜひご参考になさってください。

 

1) 主催者を明確にし、運営者のネットワークを活用する

どんな組織が運営しているのかが見えていると、信頼されやすく提案が集まりやすくなります。差別化技術は匿名で相手を探すこともありますが、特にアイディアを集めるためには主体を明確にすることが大切です。相手が見えるとイメージがわきやすいし、本気度が伝わります。また主催者を明確にしながらも、難しい課題の際は特に、主催者とは別のネットワークを持っている組織に運営をまかせることも、ひとつのポイントです。その点エレンマッカーサー財団は、課題の大きさを熟慮したうえでコンテストを2テーマに分け、それぞれ得意なネットワークをもつ組織に運営をゆだねました。

コンテスト[3]に世界中から多くの良質な応募者を集めるためには、既存のネットワークを超えて、適切なネットワークを持ったところと組むのが大切です。エレンマッカーサー財団のコンテストでは、サーキュラーデザインは世界規模でデザイナーのネットワークを持つIDEO、サーキュラーマテリアルは世界最大の研究者・技術者ネットワークを持つナインシグマに運営を委託して、自らではアクセスできない層の応募者を増やしていました。

 

2) 何がプライズなのか、見合う対価を明確にする

コンテストの応募者は、提案したときに自分の技術や発想を無料で提供するだけになるのではないかという懸念を持っています。そこで魅力的な懸賞金を設定し、優秀な応募には見合う対価を支払うようにするのは当然のことです。加えて、採用するものには懸賞金を払い、採用しない提案は利用しないで返すことを明言します。

今回のコンテストでは、Google元会長のエリックシュミットとパートナーのウェンディシュミットが設立した財団が200万ドルの懸賞金を提供しており、2つのコンテストそれぞれの懸賞金が100万ドルでした。100万ドルは一人の受賞者に与えられるわけではなく、各部門で受賞した5団体に公平に分けられました。それも単純に賞金として与えるのではなく、その技術を実用化レベルに高めるための開発資金として提供されたのです。この懸賞金の授与方法は、アリーステージの技術やアイディアを求めるコンテストを開催する際にとても大きなポイントになります。

応募者は、自分のアイディアや技術が採用されるイメージがわかないと手をあげる人がでてきません。また、今回のようなイノベーションコンテストに応募してくる技術は全く世の中では知られていないものであり、量産化の目途がたっていない技術が集まります。世の中に求められている水準と今の技術のレベルにはかなりのギャップがある状態です。そんな技術に対して開発資金を提供することでギャップが埋まり、実用化ステージに近づき、世の中に広まる可能性が高まるのですから、これは応募者にとってもとても魅力的な要件になります。

 

ダボスから始まるアクセラレーションプログラム

この海洋プラスチック汚染課題を解決するためのコンテストには、世界中から63の提案があり、30を世界的な企業が中心となった審査員団に提出し、そのうち13が選ばれて詳細なデューデリジェンスが行われ、6の最優秀提案と2つの良い提案が選ばれ、そのうち5つが受賞し、実装ステージにむけての1年間のアクセラレーションプログラムが始まりました。

私自身ダボス会議中に行われた表彰式に参加し、コンテスト受賞者や参加者と会話して驚いたことがあります。

今回の新素材の部門のコンテストには、ユニリーバのChief Supply Chain Officerなどの、世界中のパッケージ材料について、世界で最も情報を集めているはずの大手企業の幹部が集まっていたのですが、受賞者が開発した「気体をブロックでき、自然界で分解される天然由来のコーティング材料」、「木や植物から作り、使用後はバクテリアで分解し、またプラスチックにリサイクルできる材料」などに対し、彼らが「このような技術があることを全く知らなかった。今すぐ活用できそうなものもある」とコメントしていたのです。

政府や慈善家に加えて、ごみの元ともなるプラスチックを大量に使用しているコーク、ペプシコ、ユニリーバ、P&Gなど名だたるグローバル企業がともに支えている世界的プロジェクトだからこそ提案の実現性が高まり、また応募者がその魅力を感じとるわけです。

今回、世界の規模での社会課題解決のためのオープンイノベーション活用事例を紹介しました。

次回は、日本における社会課題の活用事例を紹介します。