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フェムテックに今後求められる技術進歩に関する調査:OIC survey調査レポート

<背景と目的>

世界各国で女性の社会進出が推進されることに伴い、女性が健康面やライフスタイルの選択をより自由に行える社会の実現が、より重要なテーマとして認識されています。そのような中、これまでタブー視される傾向にあった女性特有の健康問題も注目され始め、医療、健康管理、ライフスタイルに関連した技術の進歩とともにスポットライトが当たっている分野が「フェムテック」です。まだ新しい分野のため、現在は2021年に設立された日本フェムテック協会が女性の「こころ」と「からだ」を理解する社会づくりを推進したり、「Femtec Tokyo」のような展示会を通じてフェムテックの認知を広げる活動が行われています。

フェムテックとは
フェムテックは、「Femtech=Female +Technology」を掛け合わせた造語で、女性が抱える健康問題やライフステージの課題を技術で解決する製品・サービスのことを指します。「テック」というとAI(人工知能)やアプリなどのコンピュータ技術を想像しがちですが、現在はそういった技術が使われていなくても女性の健康を支えるものは「フェムテック」と呼ばれており、技術的な側面より、「女性のための」といった側面が強い言葉で使われることが多いようです。

そこで今回は、女性の日常の健康問題をより良く解決し、今後世界で広がっていくために、フェムテックに求められる技術進歩やブレイクスルーについて調査しました。ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルへアンケートを投げかけるOIC surveyを使い、グローバルな観点からの意見を集めています。

<調査方法>

調査内容:フェムテックに今後求められる技術進歩に関する調査
調査方法:OIC survey(業界エキスパートコミュニティへあるテーマに基づいた複数質問のアンケート調査を実施いただくサービス)
調査期間:2023年7月

質問内容

Q1:あなたの性別を教えてください (単一選択式)

男性/女性/その他/回答しない

Q2:あなたの年齢層を教えてください(単一選択式)

29歳以下/30-39歳/40-49歳/50-59歳/60歳以上/回答しない

Q3: 女性特有の日常場面に関する次のフェムテックのうち、どの分野での技術進歩がさらに必要だと思いますか?既に開発されているサービスや製品例を参考に選んでください。(複数選択式)

1.月経に関するフェムテック
(月経周期や排卵周期を記録するアプリ/月経カップ/吸収ショーツなど)

2.妊娠と不妊に関するフェムテック
(卵子凍結、遠隔不妊相談やカウンセリングなど)

3.産後のフェムテック
(ウェアラブル搾乳機など)

4.女性疾患(子宮筋腫など)に関するフェムテック
(無痛マンモグラフィなど)

5.更年期障害に関するフェムテック
(簡易女性ホルモン検査キットなど)

6.その他の状況でのフェムテック(詳しくご記入ください)

7.フェムテックに関連するサービスや製品は知らない。

Q4: Q3でお答えいただいた理由をご記入ください。今後、どのようなサービスや商品(Q3で例示したもの、まだ実現していないものを含む)が進歩やブレイクスルーすれば、女性の日常生活がより快適になるか、具体的に教えてください。(記述式)

<調査結果>

■有効回答数:65件(N=非公開、業界エキスパートにアンケート送付)

Q1&Q2

回答いただいたエキスパートの性別と年齢は下図の通りです。OIカウンシルは男性のエキスパートが多いコミュニティであるものの、パートナーや家族を念頭においたフェムテックに関する意見として、男性回答者からも多くのコメントがありました。また、女性のエキスパートからはご自身の経験も踏まえたコメントが集まりました。

OIカウンシルは現役のマネージャー層を中心としたコミュニティであるため30代や40代のメンバーが多い傾向はありますが、各自のライフステージから考えたフェムテックに関する意見が多く集まりました。

Q3 & Q4

本調査レポートでは、Q3の女性特有の健康に関する問題を、

  • 日常的に常に抱えている健康問題
    (性成熟期や更年期といった比較的長いライフステージで見た観点)
  • 日常の中でスポット的に抱える健康問題
    (妊娠や不妊、病気といったライフステージの中のポイントで見た観点)

で分けてコメントを整理し、分析しました。

Q3(フェムテックの技術進歩が必要だと考える女性特有の日常場面に関する質問)の回答の傾向として、日常的な問題では“1. 月経”と“5. 更年期障害”に関するフェムテック、スポット的な問題では“2. 妊娠と不妊”、“4. 女性疾患”に関するフェムテックに、多くの回答が集まりました。特に2つのスポット的な健康問題(2, 4)については、50%以上の回答者が技術進歩の必要があると考えています。一方で、特定の健康問題に突出して課題があるというよりは、女性のライフステージ全般でより良いフェムテックが求められていると言えます。

 

今回集まった回答をまとめると、フェムテックの技術的なブレイクスルーのポイントとしては、日常的に生体情報をモニターし、個人の生活習慣も含めたそれらのデータを蓄積してAIに学習させることで、女性特有の健康問題に関してより個別化した高精度な予測や早期発見ができることが求められている、と言えると思います。これは、フェムテックに関わらずすべての医療機器の理想だと言えますが、特にフェムテック特有の技術的なポイントとして、以下のような意見がありました。

  • 技術的なブレイクスルーのポイント

女性の月経周期についてのより正確でパーソナライズされた洞察を提供するために、連続体温モニタリングやホルモンレベル分析のような、より高度な生体センサーを統合することを含む可能性がある。機械学習アルゴリズムの進歩により、周期予測、症状分析、潜在的な健康問題の早期発見が改善される可能性がある
(Poland、医療サービス、20代男性)

・より正確なホルモン追跡と女性の健康問題に対する非侵襲的予測妊娠合併症の早期発見のためのウェアラブルデバイスが必要だろう。
(Nepal、エレクトロニクス、30代男性)

・月経と更年期は、女性が一生を通じて直面する最大の難関だと思う。女性の皮膚にセンサーを埋め込み、スマートウォッチをプログラムして接続することで、身体的変化から月経周期を正確に検知することだ。基礎体温(安静時体温)や性行為など、月経周期や生殖能力に関連するさまざまな健康シグナルを追跡できないだろうか。
(Ireland、製薬、40代男性)

・スマートウォッチや妊娠ベルトなどのウェアラブルデバイスの技術革新は、妊娠中のバイタルサインや胎児の発育をモニターするのに役立っている。さらに、遠隔医療の進歩により、健康状態や胎児の発育状況を非侵襲的にモニタリングできる。
(UK、エレクトロニクス、30代男性)

また、今回はフェムテックの技術面に着目した質問を投げかけましたが、社会的なブレイクスルーが求められるというコメントが多かったのも特徴的でした。女性が活躍する社会の変化に合わせた周囲の理解はもちろん、貧富の差なく生活必需品として誰もがアクセスでき、正しい教育を受ける必要があるとの意見がありました。

  • 社会的なブレイクスルーのポイント

・人生の大半をアフリカで過ごし、農村部で働いた経験から、質の高い医療へのアクセスは制限されることが多く、女性はさまざまな病気についてタイムリーで正確な診断を受ける上で困難に直面することがあると思います。適切なインフラを整備することは重要であり、農村部だけに限った話ではなく、先進国にも当てはまると思います。
(Germany、その他業種、30代男性)

・アメリカでは10代の若者の間で無計画な妊娠が問題視されています。彼らは学校でこのことについて教えられていますが、計画外の妊娠はまだタブーであり、親とオープンに話すことはありません。この技術には、このことについてのガイダンスや認識を与え、無計画な妊娠や中絶を防ぐことができるようなものが含まれるべきです。
(US、医療サービス、30代女性)

・産後は母子双方にとって重要な時期であるが、包括的な技術的解決策が不足している。今後の進展としては、産後の女性に医療的・心理的サポートを提供するバーチャルプラットフォーム、産後うつを含む産後の症状のより良い追跡調査、新しい母親が経験を共有しサポートを受けるためのオンラインコミュニティなどが考えられる。
(UK、ITソフトウエア、30代女性)

上記のようなフェムテックに今後求められるブレイクスルーについてまとめたものが下図になります。年代での回答の傾向を見ると、回答したエキスパート自身の年代に関連した日常的な健康問題が挙がっており、30代以下では月経、40代以上では更年期障害に関する意見が多い傾向にありました。また、妊娠や女性疾患といったスポット的に生じる健康問題については、年代別で見ても区別なく注目されており、まだまだ技術的・社会的にも改善の余地があることが伺えました。

<まとめ>

以上、いかがでしたでしょうか。

今回の「フェムテックに今後求められる技術進歩やブレイクスルーに関する調査」では、医療機器レベルの高い予測精度や個別化の技術が求められると同時に、女性特有の健康問題を正しく理解して受け入れられるようなグローバル社会になっていく必要があることが分かりました。フェムテック関連の技術は、ここ数年で目覚ましい進歩を遂げましたが、社会の理解促進を同時に行うことも、今後のさらなる技術革新へ向けた重要なポイントであると言えます。“技術”の支援に関わる私たちも、技術のスペックや提供価値だけに目を向けるのではなく、技術を享受する社会も考慮した上での支援を提供する必要があると感じた調査になりました。

様々な業界エキスパートが所属するグローバルなOIカウンシルというコミュニティでは、彼らの知見をフル活用した技術的な調査はもちろん、将来社会で求められるような技術やその社会自体を考えるといった調査も可能です。ご興味がありましたら、是非お気軽にご相談ください。

緒方 清仁

事業部 部長(ヘルスケア・CPG、マテリアル・エレクトロニクス)

・最終学歴
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻
・前職
食品メーカーの基礎研究部門で5年間、腸内細菌の解析手法の研究開発、ならびに開発手法を用いた国内外の研究機関との共同研究に従事していました。