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2型糖尿病に関する最新の治療技術:OIC direct調査レポート

<背景と目的>

国が定める重要疾患の1つである糖尿病の中でも、特に注目されているのが2型糖尿病です。この慢性疾患は、現代の食生活や運動不足の影響によって急速に広がり、世界中の数億人に影響を与えています。近年、2型糖尿病の発症率が急速に上昇していることは明白です。国内でも2020年の調査では、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、男性19.7%、女性10.8%となっています。(出典:厚生労働省 「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」、P.20  糖尿病に関する状況)

高カロリーな食事、身体活動の減少、ストレスなど、現代社会の生活スタイルが2型糖尿病のリスク因子となっていると指摘されています。さらに、遺伝的な要因や加齢も病気の発症に関与していることが明らかになっています。

2型糖尿病の治療において、現在の治療法には限界があります。しかし、最新の研究では、新たな治療薬が2型糖尿病の病態に対して特異的な効果を持つ可能性が示唆されるなど、新しい取り組みも行われています。そこで今回は、2型糖尿病に関する最新の治療技術について、ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルへ質問を投げかけ、素早く幅広い知見が得られるOIC directを使って調査を行いました。

<調査方法>

調査内容:2型糖尿病の最新の治療技術
調査方法:OIC direct(業界エキスパートコミュニティへ質問1問を直接問いかけていただくサービス)
調査期間:3日間

質問内容

Q1: 2型糖尿病の罹患率は増加しており、今後も増加すると思われます。この病気を治すためにどのような新しい技術がありますか?(記述式)

<調査結果>

■有効回答数:25件(N=非公開、関連した業界エキスパートにアンケート送付)

本調査レポートでは、2型糖尿病の治療法について、薬物治療医療機器その他の治療技術の3つ観点でエキスパートからの回答を整理し、より新しい治療技術をコメントした回答をピックアップしました。

1.薬物治療

一般的に知られている2型糖尿病の薬物治療には、「GLP-1受容体作動薬」や「SGLT2阻害薬」などがあります。また、2022年9月に日本糖尿病学会から出されている「2型糖尿病の薬物治療のアルゴリズム」では、糖尿病治療薬として以下の9つの治療薬が挙げられています。

出典:一般社団法人 日本糖尿病学会 「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」, 2022年, P.425 Table 1

OIカウンシルのエキスパートの回答でも、これらの9つの治療薬に関して多く言及されていました。ここでは、比較的に知られたこれらの治療薬以外のコメントとして、下記の回答に着目しました。

・新しい2型糖尿病治療薬:チルゼパチド。チルゼパチドは、血糖値の調節に関与するホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)の両方の受容体を活性化するファーストインクラス薬です。(Canada、医療サービス、Senior)

チルゼパチドは2023年4月に日本での承認が降りたもので、既存のGLP-1受容体作動薬の“新世代”として関心を集めています。こういった最新薬は、もちろん医療分野の専門誌では日本での承認前から取り上げられていますが、常日頃から最新情報をキャッチアップしているエキスパートならではの情報ではないでしょうか

2.医療機器

2型糖尿病の治療を行う多くの医療機器がある中で、下記の継続的血糖モニタリングやインスリンポンプはすでに実用化も進んでおり、より患者さんの負担にならないような改良が進んでいます。

  • 継続的血糖モニタリング(CGM):リアルタイムで血糖値をモニタリングし、血糖変動を把握するためのデバイス
  • インスリンポンプ:インスリンを連続的に投与する小型の装置で、基礎投与量やボーラス計算機能などが備わっています。

また、これらを組み合わせたクローズドループシステムは現在臨床試験段階にあります。

  • クローズドループシステム(人工膵臓):CGMデバイスとインスリンポンプを組み合わせたシステムで、血糖値に基づいてインスリンの自動投与を行います。人工膵臓は、2型糖尿病に対しては入院患者や透析患者でしか検討されていませんでしたが、自宅で安全に利用できる技術へ向けた取り組みが行われています。(出典:糖尿病リソースガイド、「CGMとポンプを組合せた「人工膵臓」が2型糖尿病患者の血糖管理を改善 高血糖を半分に減少」 2023年2月2日)

ここでは上記以外の最新の2型糖尿病の医療機器として、以下のエキスパートの回答をピックアップしました。

・一定間隔で自動的にインスリンを投与する閉ループ制御システムとして、バイオニック膵臓の医療用埋め込み型デバイスが開発されています。この装置には、グルコースモニターとホルモンであるインスリンを供給するためのインスリンポンプが内蔵されています。(United State, 医療機器、Staff member)

このような体内に埋め込み式のバイオ人工膵臓の開発は世界で進められており、例えば、アメリカのSeraxias社SeraGraftというデバイスなどが挙げられます。また、一部のエキスパートからは、医療機器に関して「デジタルヘルス」や「ウェアラブル」などのキーワードが挙げられています。これらのキーワードから調査すると、2型糖尿病の医療機器を開発するスタートアップとして、イギリスのNEUROVALENS社が見つかりました。まだ臨床段階の技術になりますが、この企業では脳から神経を刺激して肥満を予防できるように体内の物質を調整できるウェアラブルデバイスの開発を進めています。

3.その他の治療技術

薬や機器を用いない治療法の開発も進められており、以下のような手法が知られています。

  • 膵島移植:臓器提供者の膵臓からインスリンを産生する膵島細胞を移植する手法
  • 遺伝子療法:患者の遺伝子を編集して、細胞の遺伝子発現を強めたり細胞に新たな機能をもたせたりすることで、患者の遺伝子疾患を根本的に治癒する手法

こういった手法については、エキスパート達からもそれぞれの国や地域での開発進捗などに関する最新情報が集まりましたが、中でも細胞治療の手法を紹介してくれた以下の回答に着目しました。

・現在臨床開発中の糖尿病に対する細胞治療アプローチがあることです。その一例が、ポーランドのPOLTREG社が開発したTREGs療法で、現在臨床開発のフェーズ1/2にある。このアプローチは、他の細胞療法と同様に、一度の治療で糖尿病を治すことを目的としています。(United Kingdom、バイオテクノロジー、Director)

このPOLTEG社は、2015年に設立された新しいバイオテクノロジーの会社で、自己免疫疾患に対する制御性 T 細胞 (TREG) ベースの治療法に取り組んでいます。POLTEG社は、1型糖尿病や多発性硬化症に関して確かに臨床開発のフェーズに入っており、また、新しい治療の技術の情報に付随して、各国・地域での新進気鋭のスタートアップを知るきっかけになりました。最新技術だけでなく、どんな企業がそれを保有しているかの情報も今後の技術調査を進める上で重要になると考えます。

<まとめ>

以上、いかがでしたでしょうか。

今回の2型糖尿病に関する最新の治療法に関する調査では、すでに広く知られている治療法だけではなく、特に新しい情報を中心にピックアップしてご紹介しました。Web検索だけではこのような最新情報を広く捉えるのは難しいケースも多いですが、外部の知見を有効に活用することで、最新情報を素早くキャッチアップすることが可能です。2型糖尿病については、承認されたばかりの新薬に関する情報や、先進的な取り扱みを行う企業の情報などについても短期間で素早く把握することができました

外部知見を有効に活用することで、多く溢れた情報の中ではなかなかたどり着けないような最新情報を素早く入手することができます。検討中の新規分野における情報収集や、自社の調査では時間がかかりすぎてしまうテーマなど、弊社ではOIカウンシルを活用したご支援が可能です。お困りの点等ありましたら、是非お気軽にご相談ください。

山崎 寛史

事業部 ディレクター(ヘルスケア・CPG)

・最終学歴
静岡県立大学大学院 薬学研究科
・前職
製薬メーカーの製剤技術分野で6年間、抗がん剤の製剤化・工業化や技術移管に従事していました。