弊社では、機能性、利便性を高めるためCookieを使用しています。
お客様は、「Cookie設定」で詳細を管理することが可能です。Cookie使用に同意される場合は「同意する」をクリックしてください。

EVシフトで自動車部品メーカーが考える今後の事業戦略に関する調査:OIC direct調査レポート

”EVシフトにおける自動車部品メーカーの今後の事業戦略を追求する中、完成車メーカーへの供給だけでなく、Tier1に依存しない独自の戦略を展開している実態が浮かび上がりました。本調査では、進行中の事業戦略や直面する課題に焦点を当て、EVシフトの実情に迫ります。”

<自動車部品メーカーを取り巻く環境>

自動車業界は今、100年に1度と言われるパラダイムシフトの渦中にあります。世界規模でのカーボンニュートラル推進を背景に自動車の電動化は加速し、エンジン車から電動車(EV)に生産が移行していくと予想されています。各国や地域で非電動車の新車販売禁止にまで踏み込んだ政策が強制力を持つ形で打ち出され、影響は完成車メーカーだけに留まらず、それを構成する自動車部品メーカーにも及んでいるのです。エンジン・トランスミッションなどエンジン⾞に搭載されていた部品は不要になり、EVではモータ・バッテリーなどが重要性を増してくるなど、部品構成の変化や搭載される部品点数の減少は大きく、多くの自動車部品メーカーが事業戦略の見直しを迫られています。国内でも、経済産業省がEVシフトの影響を受ける中堅・中小自動車部品サプライヤーの業態転換や事業再構築を支援する「ミカタプロジェクト」を立ち上げるなど、サプライチェーンの隅々まで影響が及んでいることがうかがえます。

そこで今回は、EVシフトが進む自動車業界において、サプライヤーとして部品を供給する自動車部品メーカー(Tier1)の取り組みや事業戦略について調査しました。ナインシグマ独自の業界エキスパート・コミュニティである「OIカウンシル」へ質問を投げかけて知見が得られる「OIC direct」を使って、実際に自動車部品メーカーや自動車業界に所属するエキスパート達の生の声を聴いてみました。

<調査方法>

調査内容:EVシフトの中で自動車部品メーカーが考える今後の事業戦略に関する調査
調査方法:OIC direct(業界エキスパートコミュニティへ質問1問を直接問いかけていただくサービス)
調査期間:2023年8月

質問内容

Q1: あなたが事業として携わっている自動車部品はどれですか?最もよくご存知のものをお選びください。(単一選択式)

1.エンジン部品
2.駆動・伝導・操舵装置部品
3.電子制御、電子部品
4.照明器具
5.サスペンションとブレーキシステム部品
6.車体部品
7.消耗品
8.情報関連部品
9.その他(ご記入ください)
10.完成車メーカー
11.自動車部品業界とは無関係

Q2: 貴社の事業戦略について、あてはまるものをお選びください。(複数選択式)

1.次世代の自動車部品(EV部品、自動化部品など)のサプライヤーになること
2.システム・サプライヤーになること
(部品サプライヤーから複合モジュールのアセンブラーになること)
3.M&Aによってより大きなサプライヤーとなり、競争力を高める。
4.地場のサプライヤーになること
5.ビジネスフィールドを他業種に広げること
6.モビリティ業界のサービス・プロバイダーになること
7.その他(ご記入ください)
8.現在のビジネスを変える計画がない。

Q3: Q2の事業戦略の詳細を共有できる範囲で教えてください。(記述式)

<調査結果>

■有効回答数:23件(N=非公開、自動車部品業界エキスパートにアンケート送付)

今回回答を得ることができたエキスパートたちが関わっている/関わったことがある自動車部品のカテゴリと、各部品における事業戦略は以下のような結果になりました。

ここでは特に、

A.今後EVに不要になる部品としての“エンジン部品”の事業戦略

B.今後EV化によりさらに重要性の増す部品としての“電子制御・電子部品”の事業戦略

C.既存部品であるが、EV向けに高機能化などが必要な部品としての“車体部品”の事業戦略

EVシフトによってA, B, Cの3つの異なった立場になり得る自動車部品において、それぞれに関わっているエキスパート達の生の声に注目してみました。

A.今後EVに不要になる部品としての“エンジン部品”の事業戦略

まず、今後不要になっていくであろう「エンジン部品」に関わっている/関わったことのあるエキスパート達の所属する会社では、いずれもEVシフトへ舵を切っていることがQ2, Q3の回答からうかがえました。「エンジンの製造拠点を永久的に閉鎖した」(US、Vitesco Technologies、Senior、Quality Engineer)ことや、「現在の戦略は、ディーゼルに代わる動力として電動車両および水素推進システムの研究開発においてリーダーとなることである。ただし、これらの移行が進行中でも現在のディーゼルベースの車両の市場シェアを維持しながら生産を続け、電動車両とそのコンポーネントの需要が増加するにつれてその量を減少させる必要があることが課題である」(US、Volve Group関連メーカー、Manager、Quality Manager)などの動きがあることが分かりました。実際、2021年9月にContinentalからの分社化したVitesco Technologies(ヴィテスコ・テクノロジーズ)では、2025年までのエンジン開発からの撤退を示しおり、生産拠点の見直しが実際に進んでいることが確認できました。同様に、EVへ移行する中での既存事業への経営資源の割り振りも課題と捉えているが分かりました。スムーズな移行を行う上で、既存事業の撤退や段階的な移行の難しさを感じるコメントでした。

B.今後EV化によりさらに重要性の増す部品としての“電子制御・電子部品”の事業戦略

Q2の結果を見ると、”次世代自動車向けの部品サプライヤーになること”とする回答が最も多く、多くのエキスパートが所属する企業でEVに特化した事業戦略に転換を図っていることがうかがえます。また、“現在のビジネスを変える計画がない”としたエキスパートも、Q3の回答を見ると「すでにEVの戦略で動いているからだ」とそもそも前提の戦略がEVであるとする方や、“その他”としたエキスパートも「将来のEVの顧客向けに欧州で強固な充電サービスを構築している」や「EV業界向けのアフターマーケットの開拓を進めている」と回答しており、Q2の結果の集計以上に自動車部品業界の事業の中心はEVであると言えます。さらに、Q1の選択肢10 ”完成車メーカー”の方からも

・新型車として設計されている車両はすべてEVである。方向性は明らかにEVに向かっており、内燃機関を完全に捨てている。
(UK、Tata Motors Group関連メーカー、Senior、ADAS Engineer)

・今現在、私のビジネスは近い将来EVのみを提供することに完全に集中しており、PHEVからEVへのシフトからその目標に大きく投資し、長いEV航続距離とカーボンニュートラルな車両を提供するために高い努力をしている。
(UK、Volkswagen Group関連メーカー、Staff member、Engineer)

といったコメントもあり、業界全体のEVシフトを感じ取れました。

EVの普及により今後さらに重要性の高まる電子制御・電子部品に関わっている/関わったことのあるエキスパートの所属する企業の戦略としては、EVという自動車の枠に留まらず、システム・サプライヤーやサービス・プロバイダーを目指す動きに関するコメントが多くありました。

・戦略は主に、ユーザーのニーズに応じてサービスを有効にしたり無効にしたりする方法、複数の入力からデータを処理するインテリジェントな方法を考え出すこと、そしてそのデータを外部に提供することで、さまざまなユースケースのためにデータを使用する創造的な方法を考え出すことに重点を置いている。さまざまなユースケースに基づいて開発されたこのアプリケーションは、自動車メーカーによって検証され、市場にリリースされる。
(UK、Mercedes-Benz Group関連メーカー、Senior、Diagnostic Lead Architect)

・自動運転や車両運動制御、コネクティビティの各領域にフォーカスしている。
(US、ZF Group、Manager、Engineering Supervisor/Lead)

CASEと言われるように、電動化以外にも自動化などで必要となる電子制御・電子部品の需要は多くあるため、自動車から取得できるデータやインフラまで取り込んでいきたい思惑が感じられるコメントもありました。

C.既存部品であるが、EV向けに高機能化などが必要な部品の今後の事業戦略

既存部品ではあるがEV向けに高機能化などが必要な部品の例としてあげた、“車体部品”に関わっている/関わったことのあるエキスパート達のコメントをご紹介します。

・バッテリー電気自動車の設計と製造リサイクル材料と軽量複合材料を使用した自動車車体部品の設計と開発を行う。
(India、Tata Elxsi Limited、Senior、Lead Engineer)

・マグナ・インターナショナルは、イネオス・オートモーティブの製造ラインアップを確立することで、まったく新しい電気自動車のラインアップに着手しました。マグナはイネオス・オートモーティブの戦略的パートナーに選ばれ、車両エンジニアリングにおけるマグナの既存の関係を基盤に、新型の電気オフロード車のエンジニアリングと完全な車両製造を行います。生産は2026年にオーストリアのグラーツにあるマグナの工場で開始される予定です。
(Canada、Magna International、Staff member、Manufacturing Quality Engineer)

一般的に、EVはエンジン車に比べて航続距離が短いため、解決策の1つとして車体の軽量化が求められています。また、部品製造時のカーボンニュートラル実現のため、リサイクル材料の採用も進んでいます。EVが抱える課題の解決に向けた取り組みについて私たちが目にする機会は多くありますが、本記事でご紹介したような技術開発に実際に取り組むエキスパートのコメントはより手触り感がある情報ではないでしょうか。

自動車業界では今、様々な企業が技術提携を行っています。中でもマグナ・インターナショナルがイネオス・オートモーティブの新型EVを製造する提携についての報道は、自動車業界が今置かれている環境を象徴的に言い表しているといえるでしょう。スイスの大手化学メーカーのイネオスから2017年に子会社として設立された新興企業のイネオス・オートモーティブが、自動車部品サプライヤー世界5位でありながら独立系として完成車の生産も行うマグナ・インターナショナルに製造委託するというこの事例は、異業界からの新規参入や既存の事業領域からの拡大の渦中に自動車業界が置かれていることがよく分かる事例の1つだと感じました。

<まとめ>

今回の「EVシフトで自動車部品メーカーが考える今後の事業戦略に関する調査」では、EVに求められる自動車部品の供給といった完成車メーカーのEVシフトに追随することをコアな戦略と考えつつも、自動車を含むモビリティ領域への部品・サービスの提供といった、Tier1のポジションに依らない決断を着々と進めていることが分かりました。EVシフトの事業戦略はすでに現場まで具体化されて落とし込まれており、その中で解決すべき課題に、今まさに取り組んでいるOIカウンシルのエキスパートからの生の声を聴くことができました。こういった当事者の声は、整理された調査レポートや関連書籍よりもEVシフトの実情を知ることができるのではないでしょうか。

様々な業界エキスパートが所属するグローバルなOIカウンシルというコミュニティでは、特定分野で専門的な経験を持ったエキスパート達を探し出して、複数の方に質問することが可能です。ご興味がありましたら、是非お気軽にご相談ください。

 

森田 直祐

事業部 部長(モビリティ・インダストリー)

<担当プロジェクト>
・大手自動車メーカに対する新規事業開発用の技術導入支援
・大手自動車部品メーカに対する次世代製品開発用の技術導入・提携支援
など
<略歴>
京都大学大学院にてプラズマ物理に関する研究を推進後、大手製造業において半導体部品の品質評価技術開発、新規部品の品質管理基準の策定に従事。ナインシグマ参画後は製造業を中心にオープンイノベーションを活用した技術開発・製品開発の促進を多数支援