<背景と目的>
世界で行われている食肉の生産は環境に大きな影響を与えており、温室効果ガスの排出、森林破壊、水質汚染などの原因になっています。また、世界人口の増加による食料危機の懸念や動物福祉、人々の健康意識の高まりなどもあり、既存の牛、鶏、豚など動物の食用肉に代わる代替肉の開発が注目されています。国内では、大豆やえんどう豆といった植物由来の代替肉はすでに市場に出回っています。(ネクストミーツ社:https://www.nextmeats.co.jp/)
代替肉は、従来の食肉生産方法よりも持続可能で倫理的な方法で食肉を提供できることから、その市場は近年急速に成長しています。現在では培養肉、植物や発酵由来の肉、昆虫肉など様々なタイプの代替肉の開発が世界で進められています。従来の肉と同じような栄養や味、食感を持つことや大量生産のための技術やコスト、アレルギーなどの安全性などといった課題は依然として多くありますが、今後注目すべき技術トレンドの1つと言えるでしょう。そこで、今後有望になり得る代替肉について、ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルへ質問を投げかけ、素早く幅広い知見が得られるOIC directを使って調査を行いました。
<調査方法>
調査内容:今後有望になりうる代替肉の製造技術
調査方法:OIC direct(業界エキスパートコミュニティへ質問1問を直接問いかけていただくサービス)
調査期間:3日間
質問内容
Q1:今後有望と考える代替肉の製造技術は次のうちどれだと考えますか?(選択式)
・培養肉:動物細胞を栄養液で培養して作られる肉
・植物由来の肉:大豆、小麦、豆、ナッツなどの植物性タンパク質を使用して作られた肉
・発酵由来の肉:微生物を使用してタンパク質を発酵させた肉
・藻類由来の肉:海藻などの藻類からタンパク質を抽出して作られた肉
・昆虫肉:蚕、バッタ、コオロギなどの昆虫から作られた肉
Q2:Q1で回答した理由を具体的に教えてください。(記述式)
<調査結果>
■有効回答数:15件
■Q1回答
エキスパート達の回答は培養肉と植物由来の肉に集まりました。
■Q2回答
培養肉と植物由来の肉それぞれ有望と考える理由をピックアップしたものは以下の通りです。
●培養肉について
本物の食肉に一番近いのは培養肉とする意見が多かったです。また、現在の食肉生産と比べて広い土地や水といった環境資源を多く使わないことで、環境負荷が少ないだけでなく、培養による生産リードタイムへの寄与についてもコメントがありました。
・従来の食肉生産と比較して培養肉は天候の変化などの環境要因を受けにくい。また培養による生産時間が短縮されれば需要に対する適応性が高まるので、食料安全保障において有益である。(Turkey、大学研究機関、Professor、Quality Control | Quality Assurance | R&D)
・培養肉以外の代替肉の課題として、植物由来の肉は人口添加物や調味料が含まれていて健康的ではなく、発酵由来の肉は菌類がベースのため本物の肉のような味がしないだろう。また藻類由来の肉はタンパク質などの栄養面が劣るだろう。(Australia、食品会社、Senior、Consulting | Product Management | R&D)
また、動物福祉を踏まえたコメントも多く、環境への意識同様に海外での意識の高まりが伺い知れます。
・細胞ベースの生産は動物の虐殺を必要としないので、動物福祉の観点からも大きな利点がある。(UK、製薬会社, Manager、R&D | Sales Engineer | Technology Scouting)
●植物由来の肉について
すでに実用化が進んでいて、他の代替肉よりも消費者が受け入れやすい傾向があり、また比較的安全であるとの理由で、回答が多く集まりました。
・選択肢の中で唯一商業的に実現可能で、健康を意識する消費者が支持する技術であり、店やスーパーで購入できるレベルまで製造コストを下げることができる。(UK、大学・研究期間、Fellow、Engineering (Hardware) | R&D | Technology Scouting)
・植物由来の肉は最良の選択肢のひとつだろう。多くの研究により、もし人類が植物由来の食事や肉に移行すれば、環境への悪影響が大幅に減少することが分かっている。さらに、植物由来の製品は長い目で見れば他のどの代替肉よりも栄養価が高く、健康上の利点がある。(Sweden、大学・研究機関、Senior、Business Administration & Planning | Consulting )
<まとめ>
以上、いかがでしたでしょうか。
代替肉の登場の背景にある動物福祉や環境に対する意識の深さは、日本国内でのそれとは異なる温度感でのコメントが多かったように思います。
Web検索や市場調査会社の資料といった既存の市場調査方法以外に、複数のエキスパートからの生の知見を踏まえて客観的に事業を考えることは、事業を正しく前進させるうえで一つの手段になるのではないでしょうか。
OIC directでは手軽に素早くこのような知見を得ることが可能です。また、ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルを使ったサービスでは、弊社のコンサルタントが手厚く調査設計をサポートさせていだだくアンケート形式のOIC surveyも提供しています。事業の確度を高めるフェーズでの調査でも外部知見を有効にご活用いただけます。
緒方 清仁
事業部 部長(ヘルスケア・CPG、マテリアル・エレクトロニクス) |
- ・最終学歴
- 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻
- ・前職
- 食品メーカーの基礎研究部門で5年間、腸内細菌の解析手法の研究開発、ならびに開発手法を用いた国内外の研究機関との共同研究に従事していました。
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