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合成燃料(e-fuel)の製造に関する課題:OIC direct調査レポート

<背景と目的>

カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の達成に向けた政策が打ち出されるにつれて、自動車業界では2035年前後をめどに、世界中でEVを推し進める政策や規制が導入されていく見込みです。現在、各国や地域で非電動車の新車販売禁止にまで踏み込んだ政策が強制力を持つ形で打ち出されています。そんなトレンドの中、2023年3月、2035年以降は禁止としていた乗用エンジン車の新車販売について、合成燃料のみを使う場合に限って、新車販売を認めるとの方針転換をしたことが話題になりました。

EU、エンジン車容認で合意 合成燃料限定で35年以降も(日経新聞)

合成燃料(e-fuel)とは、水素と二酸化炭素を原料として製造される人工的な原油であり、CO2の排出が実質ゼロとされる燃料です。生成過程で工場などから回収・貯蔵した二酸化炭素や、再生可能エネルギーによる電気で水を分解して生み出したグリーン水素を利用するため、温暖化ガスの実質的排出はゼロとみなされています。

エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは(経済産業省資源エネルギー庁)

合成燃料は、製造効率の向上や現状では化石燃料よりも製造コストが高いなどの多くの課題がありますが、脱炭素燃料としての商業利用へ向けた研究開発が進んでいます。グローバルで事業を展開されるお客様から多くの技術的なテーマをご相談いただくナインシグマとしても、合成燃料のような次世代技術のトレンドは注視しております。そこで今回は、合成燃料の製造における課題について、ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルへ質問を投げかけ、素早く幅広い知見が得られるOIC directを使って調査を行いました。OIカウンシルでは、グローバル企業や研究機関の現役の経験豊富なマネージャー以上の層を中心に構成されており、技術に精通したエキスパートから「生のフィードバック」を得ることができます。今回の合成燃料の取り組みにおける課題の調査を通じて、脱炭素は未来へ向けた重要なキーワードでありつつも、その実現へ向けた技術的なハードルの数や高さを広く知っていただければと思います。

<調査方法>

調査内容:合成燃料(e-fuel)の製造における技術課題
調査方法:OIC direct(業界エキスパートコミュニティへ質問1問を直接問いかけていただくサービス)
調査期間:3日間(2023.2.10 ~ 2.13)

質問内容

Q1:合成燃料(e-fuel)の製造における課題について具体的に記述してください(記述式)

<調査結果>

■有効回答数:20件(N=非公開、化学/エネルギー/再エネ/自動車など合成燃料に関連した業界エキスパートにアンケート送付)

■Q1回答

現在の化石燃料と比べた際の製造コストについて回答者全員から指摘が上がりました。製造効率の悪さも結果として製造コストに反映されるとの指摘も多かったです。

・現在、合成燃料の製造コストは、従来の化石燃料に比べてまだ高い。これは、再生可能エネルギーの電力コストが高いことと、電力を液体燃料に変換する際に生じる効率的な損失が原因である。
(Germany、航空宇宙、Manager)

・合成燃料の製造工程は基本的に非効率で、電力に含まれるエネルギーの50%以上を液体燃料や気体燃料にすることはできない。水を水素と酸素に分離するための電解槽は、コストが高いことで有名である。
(Korea、大学研究機関、Professor)

また、合成燃料に関わるサプライチェーンやインフラにおける課題も挙げられました。

・合成燃料の生産と流通には、生産施設、流通網、給油所などの新しいインフラへの大きな投資が必要である。このため合成燃料が既存の化石燃料のインフラや流通ネットワークと競合することは困難である。(Ireland、航空会社、Manager)

・合成燃料の製造プロセスにおける水素や二酸化炭素はエネルギー密度の低い気体であるため、原料の段階で効率よく貯蔵するために、追加でエネルギーを供給して圧縮・液化する必要がある。(USA、大学研究機関、Senior Researcher)

合成燃料の製造は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが利用できるかどうかにかかっている。地域によっては、これらのエネルギー源が不足していたり、利用できなかったりする場合もあり、合成燃料の製造はより困難なものとなる。(USA、大学研究機関、Research Associate)

これらの回答を下図のように整理しました。合成燃料のサプライチェーンにおいて、特定のフェーズにボトルネックがあるというよりは、まだまだ多くフェーズで様々な技術課題が挙げられていることが分かります。その中でも特に多くのエキスパート達から回答が集まったのは、原料(特に水素)の製造コストと合成燃料の製造をスケールアップさせて大量生産するための課題であり、今後の研究開発動向が注目されます。

OIC directでの調査結果に基づいてナインシグマにて作成

<まとめ>

以上、いかがでしたでしょうか。

今回は合成燃料の製造技術の課題について、敢えてオープンに質問することで広く意見を求めました。結果、合成燃料の普及には、合成燃料の製造効率を上げて大量生産できるまでにスケールアップさせる技術課題の解決はもちろん、エキスパート達はグリーン水素の普及に対しても同程度の課題感を持っていることが伺い知れました。また、H2やCO2の貯蔵や合成燃料の供給網といった合成燃料のサプライチェーン上の課題についても、各エキスパートの実務経験に基づいた知見を得ることができました。このように、OIカウンシルではWeb検索や市場調査会社の資料にはない、背景を踏まえた手触り感のある生の情報をご活用していただけます

 

緒方 清仁

事業部 部長(ヘルスケア・CPG、マテリアル・エレクトロニクス)

・最終学歴
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻
・前職
食品メーカーの基礎研究部門で5年間、腸内細菌の解析手法の研究開発、ならびに開発手法を用いた国内外の研究機関との共同研究に従事していました。