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バイオものづくりの現状と展望:OIカウンシル調査レポート

背景と目的

昨今、脱炭素化、化石資源依存からの脱却、食糧危機といった地球規模の社会課題の解決を目指し、石油を使わず微生物学的に物質を製造できるバイオものづくり(バイオマニュファクチャリング)の存在感が増しています。

バイオものづくりについては特にゲノム解析やIT、AI技術の進歩と相まって、ゲノムの高度設計化や物質生産性を高めた細胞(スマートセル)の生産が重要な焦点となっています。スマートセルとは、細胞の生産能力を生かして工業製品の素材や医薬品をつくることができるよう人工的に改変した細胞を指します。このスマートセルを用いて培養・発酵などを実施し、その結果どのような機能・特徴を有する物質・製品を生産したかをフィードバックする(=DBTL Cycle)ことで、より効率的に目的の物質を生産できるようになるなど、さらなる高度化が可能となります。このような微生物設計のプラットフォーム技術こそが、今後のバイオモノづくりのサプライチェーンを変えうるとされており、付加価値を出す競争力の源泉になると言われています。

 

(出典:経済産業省「バイオものづくり革命の実現」、P.21)

そこで今回の調査では、現在世界中で取り組まれているバイオものづくりのユースケース、およびそれらを高度化する鍵となるDBTL Cycleを適用した場合の技術的な課題について、ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルを利用し、世界中の多様な業界のエキスパートに質問を投げかけることで調査を実施しました。

調査方法

調査内容: バイオものづくりのユースケースとスマートセル生産における課題の把握
調査方法: OIカウンシルを使用した調査(OIカウンシル:ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティ)
調査期間: 2024年2月

【質問】
Q1.あなたに関連する、またはあなたが知っているビジネスや会社で、微生物や細胞を使用したバイオものづくりへの取り組みはありますか?

  1. 私に関係のある事業または会社ではバイオものづくりに関する取り組みが始まっています
  2. 私に関係のある事業または会社ではバイオものづくりに関する取り組みが計画されています
  3. 私に関係のある事業または会社ではありませんが、バイオものづくりに関する取り組みが進行中または計画されています
  4. 私に関連する事業や会社にはバイオものづくりに関する取り組みや計画はなく、またバイオものづくりに関する取り組み事例も知りません

Q2.Q1でお答えいただいた微生物や細胞を用いたバイオものづくりの取り組みについて、具体的にご記入ください。

Q3. 微生物・細胞設計プラットフォームの技術進歩の中で、Q2でお答えいただいたバイオものづくりの高度化・生産性向上に以下のDBTLサイクルを適用した場合、どのサイクルが最も技術的に難しいと思われますか?

  1.  Design:ゲノムデザインと代謝経路の最適化
  2. Build:DNA合成とゲノム編集による微生物の創造
  3. Test:材料の生産とその効率の評価
  4. Learn:AIとIT技術を活用した学習

Q4.Q3で選択した理由を詳しくご記入ください。

調査結果

有効回答数:29件

■ 回答者の所属業界

■ 回答者の所属地域

 

回答者の全員がバイオモノモノづくりの取り組みを実感

Q1の回答結果では、エキスパートたちの約半数において、自身と関連する事業で取り組みが進行中・計画中であることが分かりました(Q1選択肢1+2、約45%)。また、残り半数のエキスパートについても、自身と関係ない組織において、バイオものづくりの取り組みが進行中、あるいは計画中であることは知っていると回答しており、バイオものづくりが既に多くの場面で使用されていることが伺えました。

Q1. あなたに関連する、またはあなたが知っているビジネスや会社で、微生物や細胞を使用したバイオものづくりへの取り組みはありますか? *

またQ2で実際の微生物や細胞を用いたバイオモノづくりの取り組みとして寄せられた事例をいくつかご紹介いたします。特に化学材料、医療分野で事業化段階の取り組みが挙げられておりました。

・サトウキビ等の炭素原料や、廃棄物やなどからバイオエタノール燃料を生産(Lesaffre、フランス、 バイオ分野)
https://www.lesaffre.com/industrial-biotechnologies/leaf/
・合成生物学を利用して、バイオベースの化学物質を製造(Amyris社、アメリカ、化学分野)
https://amyris.com/science-technology 
・植物由来の原料を元に繊維素材「Brewed Protein™」を生産(Spiber社、日本、化学分野)
株式会社スパイバー 
・インスリンの製造(Biocon社、インド、医療分野)
https://www.biocon.com/businesses/biosimilars/global-scale-manufacturing/ 
・コレステロールエステラーゼの製造(旭化成社、日本、医療分野)
https://www.asahi-kasei.com/news/2023/e230630.html 

 

DesignとBuildの段階で大きな課題感

Q3では、バイオものづくりの経験者に絞って、Q2で挙げてもらった具体的なバイオモノづくりに関する取り組みのどの段階で課題を感じているのかを、DBLTサイクルに沿って回答してもらいました。

結果を見ると、特にDesign 、Buildのステージにおける課題が多く挙げられており、生産段階の技術要件の難しさが伺えます。一方で、Learnの段階については課題を挙げる方がいませんでした。これはLearn段階の課題が無いということではなく、スマートセルの性能にダイレクトに影響するDesignやBuildの段階と比較して、ゲノム配列の効率化という直接的には課題が把握しづらい段階であることが影響しているのではないかと思われます。また、生産段階のデータをAIやITを活用してフィードバックをできるほどまだサイクルを回せるレベルに技術が発展していないとも見ることができます。

Q3. Q2でお答えいただいたバイオものづくりの高度化・生産性向上に以下のDBTLサイクルを適用した場合、どのサイクルが最も技術的に難しいと思われますか?

以下、それぞれの項目で寄せられた課題についてピックアップ致しました。

Design:ゲノムデザインと代謝経路の最適化

最終生産品に影響を与える要素が多く、予測が困難だという意見が多く寄せられました。特に代謝経路については、未知の部分も多く最適化が非常に困難であるとのコメントがありました。

  • 設計する際には、どの発現ベクター、使用するプロモーター、培養条件等の複数の要素を考慮して最良のセルを作成することは未だ困難である(UK, バイオ企業、Director、R&D)
  • 我々は代謝経路を解析しているが、その多くは未知のままである。その結果、一つの経路を編集する際に、他の経路への影響を予測することは、依然として困難である(Poland、大学・研究機関、Senior、medical doctor)

Build:DNA合成とゲノム編集による微生物の創造

ゲノム編集技術の複雑さに関する意見が多く寄せられました。特にゲノム編集の正確さが最終収量に大きく影響することを理由に、高い技術が求められるとのコメントがございました。

  • 微生物株の作成では安定性の維持が求められるが、生産形質への影響を考慮する必要であることから困難となっている。また基質の非効率的な変換は、発酵時間の長期化等生産性に影響を与える可能性もある(Italy, 製薬企業、Director、Consulting | Finance | R&D)
  • 微生物の創造は、扱う分子の不安定さから、最も時間がかかり、複雑なプロセスのひとつとなっている(India、製薬企業、CEO、Business Administration & Planning | Consulting | Plant Operations)

Test:材料の生産とその効率の評価

原料の入手やスマートセルの精製など製造面での困難を挙げる意見が多く寄せられました。また、評価や生産に伴い生じる、コスト面での負荷についてもコメントがありました。

  • 経験に基づけば、微生物による材料の生産および精製ステップの最適化または最大化が、全プロセスの律速段階となる(USA、バイオ企業、Senior、Other##Laboratory Scientific Research##)
  • 細胞の活性を計算するのが難しい。またELISAやその他の検査にかかる費用、プライマー、バッファーが高価である(Netherlands、食品企業、Senior、Quality Assurance | R&D | Customer Support)

まとめ

今回の調査では、医療や化学分野を中心に、世界では確実にバイオモノづくりの取り組みが進んでいることが分かりました。一方でDBTLサイクルに関するバイオものづくりの課題からも、技術的に解決しなければならない問題はまだ多く、微生物設計プラットフォームの構築・活用についても十分に進んでいない印象を受けます。国内企業としては、これらの課題解決に向け技術開発を積極的に進めることで、今後のグローバル市場で大きな存在感を得ることができるのではないでしょうか。

バイオものづくりなどのような新しい取り組みに関して、世界ではどのような技術開発が行われているのか、またその課題は何か、などを実際に取り組まれている方から直接聞くことでより実感を持って最新の状況を把握でたのではないでしょうか。様々な業界エキスパートが所属するグローバルなOIカウンシルというコミュニティでは、このように特定分野で専門的な経験を持ったエキスパート達から生の声を聴くことが可能です。ご興味がありましたら、是非お気軽にご相談ください。

 

関 真太郎

事業部 アソシエイト(ヘルスケア・CPG)

<担当プロジェクト>
・大手食品メーカーに対する新規事業領域における共同研究先の探索支援
・大手食品メーカーに対するヘルスケア領域での新規事業開発支援 など
<略歴>
東京大学大学院にて植物ホルモンに関する研究を推進後、大手食品メーカーにて食品開発業務に従事。ナインシグマ参画後は食品・ヘルスケア領域を中心に、共同研究開発のパートナー探索やマッチングを支援​