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アフターコロナ時代のオープンイノベーションとは 

目次

ナインシグマによる「COVID-19が及ぼす研究開発活動への影響」調査(2020年4月実施)の結果、COVID-19は研究開発やサプライチェーンなど企業活動の多くの面で多大な影響を及ぼしており、さらに回答者の約80%が、COVID-19終息後も働き方や外部組織との付き合い方が変化したままとなると考えていることが明らかになっています。

Covid-19への有効な医薬品およびワクチンが確定するまでに依然として時間がかかるとみられている中、単にCovid-19が企業活動へ与える悪影響を最小限にするという考え方ではなく、今後はビジネスモデルそのものの転換や、バリューチェーンの確保が重要となるでしょう。

人々の生活様式が変わるというパラダイムシフトが起きた時、従来のバリューチェーンは機能しなくなるため、これを避けるためには様々な組織とできるだけ幅広くパートナーを組み、新しい知識・技術・人材を取り入れる必要があります。そのためには、ますますオープンイノベーションを上手く推進することが求められるようになります。

この様な変化の時代にどのようにオープンイノベーションを使い分け、推進していくか、改めてアフターコロナも見据えたオープンイノベーションの仕組み、ツール、考え方を総括したいと思います。

オープンイノベーションの定義

2020年現在の日本では,研究開発や新規事業開発のみならず、サービス業まで含めた全産業に全産業においてオープンイノベーションという言葉が広く知れ渡っています。「オープンイノベーション」を冠したイベントがいくつも開催され、新聞各紙にもオープンイノベーションという単語が当たり前のように登場するようになりました。

関連する活動が大きな広がりを見せたことで「オープンイノベーション」という言葉の使われ方も変化してきていますが、実際のところどこからどこまでが「オープンイノベーション」なのでしょうか。

実は「オープンイノベーション」という言葉を初めて世の中に提唱したヘンリー・チェスブロウ教授(現UCバークレー校)自身が、その言葉の定義を進化させています。

2003年の著書「Open Innovation」では「意図的に内部と外部の知識の流出入を活用することで組織内部のイノベーションを促進し、そのイノベーションを展開する市場機会を増やすこと」と定義し、主に研究開発における企業のクローズドイノベーションに、外部のアイデアや技術をいかに活用するか、また内部の技術資源を如何に外部へ切り出すかに主眼を置いていました。つづく2006年に出版された「Open Business Model」においては、イノベーション創出のための研究開発活動は各組織のビジネスモデルに基づく必要があるという視点を提供しました。2017年の定義では「組織のビジネスモデルに沿った仕組みを作り、意図的に知識の流れをマネジメントする分散型イノベーションプロセス」としています。また、それぞれの著作の中で「知識の流れ」の2つの方向性として、「アウトサイドイン」「インサイドアウト」を挙げています。

「アウトサイドイン」としては、P& G社が Connect and Develop プログラムを立ち上げ、世界中のパートナーとの共同研究を募った事例が、「インサイドアウト」ではAmazon社が外部顧客のウェブサイトや IT ニーズのために社内の IT インフラストラクチャを提供した事例などが良く知られています。

このようにオープンイノベーションの提唱者自身がその定義を進化させていますが、一連の流れからオープンイノベーションにおける重要なポイントを以下三点挙げることができます。

  • 組織外部の知識・技術を意図的に活用すること
  • 組織のビジネスモデルに基づいた仕組み・プロセスであること
  • 知識の「アウトサイドイン」「インサイドアウト」のいずれかまたは両方を含むこと

しかしながら、オープンイノベーションの定義やその内容は、時代とともに変わることから、現在はまさにオープンイノベーションそのものの在り方が変わりつつあるパラダイムシフト期にあると言えます。

オープンイノベーション活動の種類は非常に多岐に渡るため、大手事業会社が実行主体となる場合について、「組織・仕組みとしてのオープンイノベーション」「ツール・手法としてのオープンイノベーション」の2つの観点から近年の主要な活動の種類をまとめたいと思います。

事業会社におけるオープンイノベーション活動の種類

組織・仕組みとしてのオープンイノベーション

オープンイノベーションを推進する組織の名称は様々ありますが、組織の主目的がR&D機能の拡張・加速なのか、新規事業創出なのかによって必要とされる機能が異なります。どちらの場合も最終的な目的は、組織外の知識・技術を活用して本体の事業につなげることですが、この2つの違いを理解することにより、世の中で行われているオープンイノベーション活動を理解しやすくなります。

・オープンイノベーション推進室/イノベーションセンター

イノベーションの源泉となる知識や技術について、インサイドアウト、アウトサイドインおよび社内の交通整理を行うための組織がオープンイノベーション推進室です。既存の技術・製品企画室などがその役割を担うことも多いでしょう。また、近年では“Partner of Choice(選ばれる企業)”としてのアピールが重要になってきているため、自社のコア技術や開発段階の技術を社外組織に提示することで協創テーマを創出したり、キーオピニオンリーダーや協業パートナーに入居してもらい協創を行う物理的な場所としたりするため、イノベーションセンターを設立する企業も増えています。オープンイノベーション推進室やイノベーションセンターが担うもう一つの重要な役割としては、社内に対してもオープンイノベーション活動をアピールし、従来のやり方からの逸脱が求められる場合にどこまでやってよいのかを示すことで風土改革を促進することも挙げられます。なお、イノベーションセンターについて、従来は社員や外部の組織との物理的な接触が利点となっていましたが、アフターコロナ時代には、ソーシャルディスタンスの確保に努めた上での活動拠点とし、、バーチャルな活動と組み合わせた形での運営が求められるようになります。

・コーポレート・ベンチャリング

自社との事業シナジーの期待できるスタートアップに事業環境・メンターシップなどの提供や出資することで、スタートアップの成長を促し、そのリターンとしてスタートアップの技術・ビジネスモデルを事業協創に生かしていく仕組み。事業会社本体から切り離した出島環境でベンチャーの新規性、実行力を活用できる、スタートアップの生の情報やアクセラレータ・ベンチャーキャピタルコミュニティとの協力関係を通した情報入手が可能といったメリットがあります。近年では複数のスタートアップを連続して構築するためのとして、エンジニアリング、デザイン、マーケティング、リクルーティングなどのオペレーション機能と資金調達手段を合わせ持つスタートアップ・スタジオと呼ばれる組織を立ち上げるケースも見られます。直近の動向としてはCovid-19が経済活動に及ぼす影響が不透明として、大手事業会社によるスタートアップへの投資活動の件数、金額ともに減少しているという調査結果が出ていますが、むしろアフターコロナ時代に求められるビジネスモデルが変容することを織り込み、積極的にスタートアップを支援する動きも見られるようです。

大手事業会社がオープンイノベーションを推進する際の具体的な手法や使い分けについて、「テクノロジースカウティング」「アイディエーション」「スタートアップとの共創「自社技術の用途探索」の4つのカテゴリ毎に紹介したいと思います。カオスマップと合わせて参考にしていただければ幸いです。

ツール・手法としてのオープンイノベーション

・テクノロジースカウティング

「アウトサイドイン」型オープンイノベーションの典型例が、外部技術の獲得を目的とした、テクノロジースカウティングや技術マッチングプログラムの実施です。世界中のスタートアップや大学・研究機関から、自社が抱えるギャップを埋めるためのベストな技術、研究スキルを取り込むことで自社のR&D活動や新規事業活動を推進します。多くのケースでは対象組織への出資は伴いませんが、近年のスタートアップが必ずしも資金を求めているわけではないことに着目し、むしろ大手事業会社が持つ商流の開放や、シード期のスタートアップの成長にとって必要不可欠な「初期の顧客」になることを提供価値とする活動(例えばBMW社のVenture Client)なども近年知られるようになってきています。

グローバル技術マッチングでは弊社ナインシグマの他、yet2社、Innocentive社がオープンイノベーション勃興期からの仲介者として知られています。国内技術マッチングではリンカーズ社や経済産業省所管組織が運営するJ-GoodTechなどが利用されています。また近年では技術のニーズ開示側とシーズ開示側がウェブプラットフォーム上で情報を交換可能なソーシャルネットワークサービス型の技術マッチングも立ち上がっており、パーソルイノベーション社などによって提供されています。

・アイディエーション

新規事業創出のためのアイデア出しや自社が抱える技術課題のソリューション、技術シーズの新規用途を生み出すなど、様々な目的で実施されます。日本ではあまり普及が進んでいませんが、アイデア出しやアイデア収集を効率良くマネジメントするためのソフトウェア(例えばQmarket社やHype社など)も欧米では活用されています。

社外から幅広くアイデアを集める手法としては「イノベーション・コンテスト」が知られています。
革新的な技術開発テーマや社会課題テーマを対象に、アイデアの取り扱い方法、アイデア収集の責任者および応募者へのメリットを明確にすることで質の高いアイデアを多数集めることが可能です。また、自社が当該テーマに対して本気であることを世界中に発信することにもつながります。ナインシグマが提供するマルチスポンサー型コンテストにおいては、役割の異なる同業種や異業種企業が参加することで直接的な競争関係を回避しつつ、自社だけでは気づけないチャンスやリスクを見出すことができるといったメリットがあります。

持続可能な開発目標(SDGs)や社会的課題の解決を通じた新規事業のアイデア創出、ビジョン策定のためには、「フューチャー・セッション」という手法があります。フューチャー・セッションにおいては、未来に向けた問いを設定し、多様な立場の参加者が対話をすることで新たなアイデアを生み出します。ワールド・カフェやシナリオ・プランニングなどの様々なディスカッション手法の中から目的、参加者に合わせた適切な手法を組み合わせることでアイデア創出効果を高めます。国内ではフューチャー・セッションズ社がサービスを提供している他、多くの企業で独自に実施されています。

・スタートアップとの共創

自社コア事業の周辺領域や新規参入を目指す領域、地域のシード期スタートアップに対して、事業環境・メンターシップの提供ないし金援助によりスタートアップのビジネス拡大を支援することで、スタートアップの新規性、実行力などを自社新規事業へつなげることを目的としています。投資事業会社本体へのリスクを管理できるため、新規事業立ち上げの際には重要な手法となります。
具体的なプログラムとしては、アイデア段階のチームやシード期のスタートアップの支援を主目的とするインキュベータープログラムや、期間を限定してスタートアップ事業を加速させることを主目的とするアクセラレータ・プログラムが存在します。国内ではゼロワンブースター社やCreww社などによってコーポレート・アクセラレータ支援プログラムが提供されています。

成長ステージのより進んだスタートアップに対してより踏み込んだ支援や事業領域での協業、または投資リターンなどを目的としてベンチャー投資を実施する事業会社も近年は増えています。投資スキームは様々な形がありますが、自社でCVCを立ち上げるか、VCに委託する形の大きく2つがあります。国内では、プラグアンドプレイ社、500スタートアップ社などがコーポレートベンチャーキャピタル支援プログラムを提供している

・自社技術の用途探索

インサイドアウト型オープンイノベーションとして、自社が保有する技術の新規用途探索や市場調査を行うことが可能な、専門家やアドバイザリーへのアンケート、インタビューを行うための専門家・アドバイザリープラットフォームを活用する企業が増えています。世界中の多種多様なスペシャリストへスピーディーにアクセスできることがメリットとなります。国内ではビザスク社が専門家へのインタビューサービスを提供しています。ナインシグマにおいては、グローバル企業のマネージャー層のBtoBの生の声を素早く収集するOIカウンシルというプログラムを提供しています。

他、独立系ベンチャーキャピタルと提携する企業も見られます。

アフターコロナ時代にはこれまでと異なるバリューチェーン必要となる分野が多く発生することから、オープンイノベーション活動の目的の違いを理解しながら適切に使い分けていくことが今後ますます重要になるでしょう。

 

緒方 清仁

事業部 部長(ヘルスケア・CPG、マテリアル・エレクトロニクス)

・最終学歴
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻
・前職
食品メーカーの基礎研究部門で5年間、腸内細菌の解析手法の研究開発、ならびに開発手法を用いた国内外の研究機関との共同研究に従事していました。