2023年に業界エキスパートコミュニティーへ最も問いかけられた分野やキーワードとは?
EVへの移行、生成AIの登場、mRNA技術の開発、代替肉の広がり、核融合発電の実用化に向けた動きなど、多くの技術的な革新があった1年でした。本コラムでは、ナインシグマが2023年に実施した多くの技術的なトピックに関するアンケートを分析し、昨年の調査の傾向をまとめました。
技術・業界に精通した世界中のエキスパートが集うコミュニティ、OIカウンシルを2023年も多くのクライアント様における調査でお役立ていただきました。今回は2023年に実施した約1000件のOIC SuveryとOIC Directの調査内容のキーワードを分析し、どんな分野での調査依頼が多かったのか、どんなキーワードが注目されていたのかをまとめました。
調査依頼分野のTOPは化学・素材分野
依頼いただいた調査内容の分野では、化学・素材分野が最も多く、次にエレクトロニクス分野が続き、2022年と同様のTOP1,2の依頼分野でした。これらの分野では、クライアント様がお持ちのシーズ技術の新しい用途アイディアを見つけるために、他分野のエキスパートからの回答を募るなど、調査の範囲を広く設定いただきました。エキスパート達からはそれぞれの専門性やこれまでの経験を踏まえた用途アイディアの提案が数多くありました。
なお、最も多い化学・素材分野においてはポリマー関連、エレクトロニクス分野においてはセンサー関連の調査が多くみられました。前者は、高機能化による付加価値を付けた新規材料に関する調査が多く、生分解性やバイオ由来といった環境寄与の訴求のトレンドは今後も続くと見られます。後者では、ロボティクスやファクトリーオートメーションなどで求められる高度なセンシング技術へ応える技術開発が多く進められているのではないかと考えられます。
一方、調査目的はこのような用途のアイディエーションに留まらず、
・有望だと考えている用途アイディアの検証
・市場から必要とされている追加機能の洗い出し
・市場ニーズ仮説の検証、必要性や緊急度の把握
・社会情勢や地球環境を踏まえた将来の技術トレンドの分析
・自社のコア技術を起点とした新しい事業領域の探索
など、クライアント様の課題解決のためにOIカウンシルをフル活用した新しい使い方を見出すことができた一年でもありました。
ホットなキーワードは“製薬研究”と“食料開発” 。 “AI・深層学習”は微増。
2022年と比較して、2023年に大きく増えた調査キーワードは、“製薬研究”と“食料開発”でした。
OICには医師や医療に関する専門性を持ったエキスパートも登録しているため、製薬やバイオ分野からはドラッグデリバリーなどの技術に関連した”製薬研究”における、薬剤やその投与方法に関する調査がありました。こちらは2022年比で約4倍の案件数でした。特に、欧米を対象とした調査数での増加が見られました。
また、”食料開発”は2022年比の案件数で約3.5倍増加し、”フードロス”や”プラントベース”といったSDGsに関連した調査が多く実施されました。さらに細かいキーワードで見ると、”微生物”や”発酵”、”培養”などの観点から、バイオ技術やプロセスと絡んだ取り組みへの注力が窺い知れる結果になりました。
一方、2023年はChat GPTなど生成AIの台頭も目覚ましかった1年でしたが、“AI・深層学習”といったキーワードでの案件数は、1.4倍の増加に留まりました。兼ねてよりこのキーワードは注目されており、ご依頼いただくクライアント様にとっては多少織り込み済みのイベントだったのかもしれません。注目度合いの大きいキーワードでもあったのでこの結果は意外でしたが、AI・深層学習については関連技術のトレンドや、将来予測に役立てるためといった目的で、エキスパートからのコメントが活用されていました。
おわりに
世界が多様性を増し、変化のスピードも加速していく中で、それに応えることができる技術も変わっていきます。TOP1,2となった化学やエレクトロニクスの分野での調査で多くみられる“センサー”や“ポリマー”などにおいても、最新の技術トレンドを踏まえ、より高度な目的達成のための検討が各社において進められているようです。調査対象分野やキーワードも年々多様化・細分化されており、様々な分野で技術革新が求められている様子が今回の分析からも見て取れます。ナインシグマでは、専門性を踏まえた解像度の高い情報をOIカウンシルから得ていただくことで、技術にもっと活躍の場を与えるイノベーションを起こすべく、2024年も取り組んでまいります。
緒方 清仁
事業部 部長(ヘルスケア・CPG、マテリアル・エレクトロニクス) |
- ・最終学歴
- 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻
- ・前職
- 食品メーカーの基礎研究部門で5年間、腸内細菌の解析手法の研究開発、ならびに開発手法を用いた国内外の研究機関との共同研究に従事していました。
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