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日欧ヘルスケア企業の動向から見る
オープン・イノベーション活動の適用先の展開

グローバルにオープンイノベーション(OI)活動を支援しているナインシグマ社にて、ヨーロッパのヘルスケア企業と日本のヘルスケア企業のOI活動を比較したところ、ヨーロッパ企業では技術寄り・ビジネスモデル寄り双方のOI活動が含まれるのに対して、日本企業は技術寄りのOI活動がほとんどを占めることがわかりました。企業の長期的な発展のためにビジネスモデル寄りのOI活動の可能性を含め、オープンイノベーション活動をより効果的に活用いただきたく、本コラムにてこれらの動向をご紹介します。

1 ヘルスケア企業のOI活動の4つのカテゴリー
ナインシグマ社にてこれまで支援したヘルスケア企業の技術探索・パートナー探索プログラムの特徴を分析すると、OI活動は大きく以下の4つのカテゴリーに分類できることがわかりました。

1.Technology:新規技術を獲得する
◦ 新しい分子化合物
◦ ドラッグデリバリー
◦ 安定性向上技術
◦ 臨床モデル
2. Process:プロセス向上や新規機能を追加する
◦ プロセス設計
◦ 製造技術
◦ オンラインモニタリング
◦ 優秀なCMOやCROの探索
3. Added Value Products:製品やサービスへ新しい価値を付加する
◦ 家庭内診断やパーソナライズされた診断
◦ ヘルスモニタリング
◦ プログラム可能なウェアラブル送達デバイス
4. Business Models:薬やデバイスのみの販売から脱し、売上を劇的に向上させる
◦ ウェブ技術やモバイル技術との融合
◦ ビッグデータを利用した処方支援や経過モニタリング
◦ 負荷の小さい治療

下図では、これら4つのカテゴリーをBusiness ValueとBusiness Efficiencyという2軸を定義して以下の様にマッピングしました。同時に、それぞれのカテゴリーに、これまで支援したヨーロッパ企業のOIプロジェクトの割合を示しています。約50%のプロジェクトがTechnology、約25%がProcessに分類されており、技術探索・プロセス探索に関するプロジェクトが多いことがわかります。

 

2 OI活動の成熟度や戦略によって変遷するカテゴリー分布
企業ごとにどのプロジェクトがどのカテゴリーに属しているかを詳しく分析していくと、OI活動の成熟度はどの程度か、どのような戦略をとっているかが、カテゴリー分布に影響を及ぼしていることがわかりました。A社からF社までの6社を例に、その違いを見ていきます。

 

• A社の分布は、OI活動をはじめたばかりの企業特有の分布を示しています。OI活動のほとんどはTechnologyに分類され、新しい技術や技術を持つパートナーを探索するプロジェクトです。
• B社の分布は、OI活動に慣れ成功体験ができはじめた段階で、プロセス向上に活動の幅を広げています。
• C社の分布は、OI活動によって外部の新規技術やプロセス向上技術へアクセスできるようになり、それらをビジネスへつなげていく段階です。この段階ではC社の既存の製品やサービスを補完する技術やパートナーを求め、より幅広いサービスを提供することで利益率を高めようとしています。技術ライセンシングやパートナーシップ、ジョイントベンチャー等が協業の手段となっています。
• D社の分布は、OI活動を使いこなしている企業の分布です。彼らの製品のロードマップや技術ニーズに応じてプロジェクトを進め、4つのカテゴリーを満遍なく利用していることがわかります。年によって変わる企業戦略に応じて多少は変動しますが、おおよそはD社のような分布を示します。

ここまで、A社からD社までの分布の変遷はOI活動が企業内で普及し成熟していくにしたがって、技術→ プロセス→ 製品への付加価値→ ビジネスモデルへと分布が広がっていくことが読み取れました。しかし、最終的に全てがD社のような分布になるわけではなく、異なるアプローチを取る企業も存在します。

 

 

例えばE社では、新規技術の探索と新しいビジネスモデルの開拓に注力しています。創薬の他にも、インターネットやGPSを使ったヘルスケアソリューションをターゲットにOI活動を進めています。
F社では、社内のプロセスの合理化とコアビジネス外での最先端技術の探索を目的にOI活動を進めています。この戦略により、F社はその時々のニーズに応じた社外ネットワークを構築し、また同じ技術を再開発するために多額の投資をすることなく最先端技術を得ることを可能にしました。

 

 

3 日本の製薬企業の現状と展望
これまで、ヨーロッパのヘルスケア企業、特に製薬企業のOI動向を見てきましたが、 日本の製薬企業のOI動向はどのようなものでしょうか。
弊社にて支援した日本企業のOIプロジェクトをまとめますと下図のようになり、ほとんどがTechnologyに関する事例であり、A社の分布にあてはまることが分かりました。

 

 

海外企業と日本企業でこのような差異が生じる背景としては、オープンイノベーション活動の成熟度が異なること、市場・社会のニーズが異なることが挙げられます。多くの日本企業はグローバルでは中堅の位置付けであり、Technology寄りの、成果の出やすい短期的な目標に注力してしまっていることも想定されます。

また、弊社からの印象として、日本企業は技術面に注力してしまうがあまり、自社の能力や資産を技術の点のみで考える傾向があるように考えています。Added Value ProductsやBusiness Modelsのステージへと進むためには、「自社の何が活かせるか」を考え、一度技術から離れてみるのも有効かもしれません。例えば、医療機関やそれらに紐づく患者とのネットワークや病気に対する知識なども大きな資産になります。その上で、「ニーズに応えるためには何ができるか」を考え、最適な形を探索することで、Added Value ProductsやBusiness Modelsへの展望が開けるのではと思います。

4 まとめ
本記事では、4つのカテゴリーをもとに、ヨーロッパ企業のOI活動の動向と日本企業のOI活動の動向をご紹介しました。4つのカテゴリーによるOI活動の分布を確認する本分析は、OIプロジェクトを各カテゴリーに分類し各カテゴリーの分布を見るという、比較的簡単な方法で企業のOI活動の動向を把握できます。各企業のOI活動の成熟度の指標の1つとして、また企業の事業戦略が反映されているかの確認手段の1つとして、参考にしていただければ幸いです。
TechnologyやProcessは自社の取り組みを補完し、自社の戦略に照らし合わせた評価も容易な領域であるため、オープンイノベーションの取り掛かりとしては最適です。しかしながら、10年後や20年後を考える、継続的な発展を目指すのであれば、Added Value ProductsやBusiness Modelsへ踏み出す必要があるのは事実です。その際、自社がどのようになりたいか、または社会からどのようになってほしいと思われているかという点を検討すると、自社が持っている資産は何か、足りないものは何かを棚卸しすることで、おのずと必要なオープンイノベーションの領域が見えてくると考えます。
今回は、ヘルスケア分野・製薬分野に限定したOI活動の動向を紹介しましたが、他の産業分野でも同様の考え方で自社の活動を見つめなおすことはオープンイノベーションの成熟だけではなく、企業の発展のために有用であると考えます。

※本コラムはNineSigma EuropeのDirector, Stephen Clulowによる記事 「Open Innovation Strategies in the Healthcare Industry」(ヘルスケア業界でのOI戦略)でのヨーロッパのヘルスケア企業の動向分析をもとに、ナインシグマ・アジアパシフィック社による、日本のヘルスケア企業の動向分析や考察を加えました。

 

 

 

吉川 岳

ナインシグマ・アジアパシフィック株式会社
東京大学大学院 航空宇宙工学専攻 修了 博士(工学)

シュルンベルジェ株式会社を経てナインシグマ入社