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成功する、オープン・イノベーションの始め方。 〜鍵は組織づくりと、推進者〜

村上 まり恵

「オープン・イノベーションって流行っているけれど、実際に何をすればいいの?」

「当社だったら、どんなことができるだろうか?」

「オープン・イノベーション推進室を作ったけれど、なかなか上手くいかない・・・」

実際に私が意見交換をさせていただいた経営陣や技術部門の方、またオープン・イノベーションの推進者の方からも、こんな声を伺いました。

オープン・イノベーションは一過性のバズワードではなく、競合優位を確保するために必要不可欠なものとなりました。ただ、特にこれから始めようという皆さんにお伝えしたいのは、オープン・イノベーションは決して簡単に成功できるものではないということです。トップを巻き込み、組織として労力をかけて取り組まなければ、中途半端な結果で終わるといってもよいでしょう。競合優位を確保するために、組織一丸となって取り組んでいただきたい。そのために、企業のトップや推進者が何をすべきか。これまで日本のオープン・イノベーションの黎明期から800社以上の企業のお手伝いをしてきた経験をもとに、そのどうしても外せないポイントをご説明したいと思います。

 

組織づくり編

オープン・イノベーションを実践する前に、どのような組織を立ち上げるべきか、そのポイントをお伝えします。ポイントは5つです。

 

1、自前主義からの脱却と、変革リーダーの選定

オープン・イノベーションを組織的に上手く機能させている企業は、大抵、トップ自らがコミットし、自前主義の考えを改めています。「自前主義とどう戦うか」が、最初の障壁といえるでしょう。もし、このコラムを読んでいるあなたが組織のトップなら、今すぐに世の中で起こっている技術、ビジネスモデルの変化に目を向け、自前にこだわる意味を問うてみてください。自社ビジネスを成長させるうえで、イノベーションの創出が重要と考えるのであれば、オープン・イノベーション活動の軸となる「変革リーダー(推進者)」を定めて、新たな組織を立ち上げてください。

 

「変革リーダー」に適している人材の条件は、

●「なぜオープン・イノベーションが必要なのか」というビジョンを語ることができる

●人を巻き込みながら、強いリーダーシップを発揮できる

●活動全体の方針(大枠)を定めることができる

●ビジョンや方針を社内に伝える力がある(社内コミュニケーション力)

です。

 

ナインシグマでは、外部のパートナーと提携し、こうしたリーダーの適正診断も行っており、これまでもなかなか興味深い結果が導き出されています。これまでの実績を知りたい、または自社の変革のリーダーを探したい場合はぜひ、ご検討ください。(適正診断に関するお問い合わせはこちら)

 

2、トップのコミットを取りつける

このコラムを読んでいるあなたが変革リーダー(推進者)であれば、オープン・イノベーションを成功に導くためにトップのコミットメントが十分かどうか、今一度確認してください。研究開発や新規事業の開発は、そもそも短期で成果が出るものではありません。中長期的に取り組むための後ろ盾は、知財や法務といった様々な部署を巻き込む上でも、予算を確保する上でも、必須と考えるべきです。

トップのコミットを取りつけるためには、オープン・イノベーションが、「自社のビジョンを達成するため、自社が拡大するために必要な武器であること」を、粘り強く訴えましょう。自社の中期経営計画などの経営方針に沿う戦略であることを訴えるのも有効です。また、推進リーダーと技術者が協力し、まずは小さくとも成果を示しトップのコミットメントを取り付ける場合もあります。御社の環境やあなたの置かれているポジションに合ったやり方は、必ず見つかるはずです。

 

3、自社におけるオープン・イノベーションの戦略を定める

オープン・イノベーションに取り組むことは、自社の技術開発のすべてをオープンにすることではありません。また、社員全員がオープン・イノベーションに取り組む必要もありません。会社として、どの領域をオープン・イノベーションで強化していきたいのか明確にすることが、まずは重要です。これは、推進者だけで定められることではないため、企業のトップが、外部と組むことで注力したい分野(例えば、新規事業など)を明確にする必要があります。

中期経営計画などにオープン・イノベーションという言葉が入っていても、戦略の具体性に欠けている場合は、社内の協力者にその危機意識を共有し、自社のオープン・イノベーション戦略策定の重要性を理解してもらいましょう。

 

4、現場の意識改革は十分か?

ここまでお話をしてきましたが、たとえトップが戦略や予算をコミットし、優れた変革のリーダーが存在し、組織や器が用意されたとしても、技術者・開発者が動いてくれなければ、オープン・イノベーションを実現させることはできません。

現場の技術者に、「自分でやること」が重要なのではなく、「いかに早く、市場に、世の中に良いものを届けるか」が重要だということを認識してもらいましょう。オープン・イノベーションはあくまでも現場の力を強化するものであり、グローバル市場で戦うために必然の選択肢であることを伝え続けることが肝要です。「オープン・イノベーション推進室」や「イノベーションセンター」を作ることも、社内外にオープン・イノベーションに対する自社の姿勢を明示し続ける一つの方法といえます。

また、企業は、たった一人であっても、現場の実行者がオープン・イノベーションという新しい取り組みにチャレンジし、小さくとも成果が表れた場合は、それをきちんと評価してください。小さな成功事例が、組織全体の起爆剤となり得るからです。弊社のお客様である日本企業でも、そのような例をいくつも拝見してきました。P&Gや世界有数の食品メーカーのMondelezでは、オープン・イノベーション部門を経験することが1つのキャリアパスとして位置づけられています。

例えば、以下のような人材が、現場の実行者としてオープン・イノベーションにチャレンジする可能性があります。こういう人材がいれば、ぜひオープン・イノベーション活動に巻き込んでください。

 

●自分の世界に閉じ籠らず、外の世界に対する好奇心を持つ人

●目標を実現させる強い思いと実行力を持ち、とにかく諦めず、粘り強い人

(外部組織と交渉し続けることは、想像以上に時間と労力がかかるため)

●新しい活動に価値を見出すことのできる人

 

5、現場の実行者をサポートし、推進組織はノウハウを蓄積する

オープン・イノベーションに取り組もうとしている実行者が出てきたら、トップや変革リーダーといった推進者が、必ずサポートするようにしてください。最初は、社内調整や外部とのやりとりなど、推進者にとっても初めてのことが多いと思いますが、実践を繰り返すことで、次第にノウハウが溜まっていきます。「推進組織には、予算とノウハウがある」ということが社内に周知できれば、オープン・イノベーションの実行者は自然と増えていきます。

 

実践編

オープン・イノベーションの推進組織が立ち上がったとき、もしくは、推進組織がなくても、現場の実行者がオープン・イノベーションに取り組もうとしたとき、どんな点に気をつけるべきか。4つのポイントをご紹介します。

1、一つひとつ、活動のゴールを明確にする

外部組織から技術やアイデアを求める際に気をつけていただきたいのは、外部組織の力を過信し過ぎないことです。新規事業のタネであれ、技術のミッシングピースであれ、ピタリと当てはまることはほぼありません。かするものがあればラッキーだと考えましょう。

どのような組織・技術を見つければよいか定義できない場合は、類似の技術や組織を分析し、自社のオープン・イノベーション活動のゴールを明確にするのが手です。

 

2、外部組織を見つける

スタートアップのイベントに行くもよし、学会へ行くもよし、文献を探すもよし。探したい相手の組織形態が分かれば、ある程度、既存のコミュニティの中からパートナーを探すことができます。しかし、どんな組織形態と組めばよいか分からない場合や、そもそも探し方が分からない場合は、技術仲介事業者を活用することを検討すべきです。プロは、どこに何があって、どのように探せばよいか、その手順を知り尽くしていますし、最短で最良の結果を出せる場合も多いのです。自前主義からの脱却は、このような手法一つをとっても実現できるといえましょう。

 

3、外部組織から興味を持ってもらうことが重要

これまでお付き合いのあるサプライヤーやネットワーク以外の外部組織を見つけたら、丁寧なコミュニケーションを心がけてください。異分野の人であれば、専門用語、業界用語は通じません。海外の人であればビジネスやコミュニケーションの常識が異なることもあるでしょう。平易な言葉で、分かりやすく置き換えることをお勧めします。

また、相手がスタートアップ企業であればあるほど、短期的なビジネスメリットがないと興味を持ってもらえません。これまでの自社の慣例からは離れるかもしれませんが、「予算をはっきり提示する」、「知財すべてを自社で囲い込むのではなく、部分的な使用に限る」など、相手が受け入れやすい条件を提示しなければ、なかなか交渉が進まないのが現実です。

 

4、懐深く、リスクをとる姿勢を

先ほども触れましたが、日本企業がよく陥るのは、一方的な条件を相手に押し付け、パートナー候補から嫌われてしまうというものです。大企業の論理・常識を、相手に求めてはなりません。むしろ、大企業こそ懐深く、リスクを取る姿勢がなければ、オープンイノベーションは進みません。互いにWin-Winの関係になれるよう、思いやりをもって接してください。また、知財や法務など、社内のいろいろな人を味方につけることも意識してください。

たった一人の想いから、オープン・イノベーションは始められる。

自社の閉塞感や市場に対する危機感から、必要に迫られてオープン・イノベーションを始めたという企業は、少なくありません。大きな予算がつかなくても、大きな組織ができなくても、たった一人でも熱意ある推進者がいれば、オープン・イノベーションを実践することは可能です。

一人の「変えたい」が、オープン・イノベーションを動かすのです。私たちナインシグマは、その一人の方の伴走者として、オープン・イノベーション活動を最大限サポートしていきたいと考えています。現状を打破したいと考えている方、課題に悩んでいる変革リーダーの方は、いつでもご相談ください。

 


村上 まり恵

北海道大学大学院 農学研究科修了 日本工営株式会社を経て、ナインシグマ・ジャパン入社。2017年より現職。ナインシグマ・ジャパンでは国内におけるオープン・イノベーション先進企業のプロジェクトを多く実践。また国や地方自治体と共に、大企業と中小企業を効率的にマッチングさせるシステム、場づくりを企画・運営を主導。新規サービス開発の実績を生かし、ナインシグマ・ホールディングスでは公共サービス系の新規事業開発を推進する。