ナインシグマ・グループ
顧問 渥美 栄司
前回は、欧米・日本のヘルスケア企業のオープンイノベーション動向を、ナインシグマ活用事例を元に分析・紹介しました。その結果を元により深く日本企業と欧州企業とのオープンイノベーション並びにビジネス開発の方向性に関して分析を進めたいと思います。
業界問わず、一般的にオープンイノベーションの多くは、「Technology(技術探索)」と「Process(プロセス探索)」を目的にして行われます。しかし、ヨーロッパのヘルスケア企業(製薬企業)が実施したオープンイノベーションのうち、実に25%が「Added Value Products(付加価値創造)」と「Business Models(ビジネスモデルの創造)」を目的にしています。この25%という数字は、他の地域のヘルスケア企業や、他業界のそれを大きく上回り、ヨーロッパのヘルスケア企業(製薬企業)のオープンイノベーション活動が非常に成熟している状態であることが分かります。これは、業界の変化や消費者のニーズに応えるため、付加価値創造やビジネスモデルの創造に特化したオープンイノベーション活動に戦略を切り替えた結果といえるでしょう。
実際に、ヨーロッパのヘルスケア企業(製薬企業)は、オープンイノベーションを用いて、コアビジネスの創薬のほかに、インターネットやGPSを使ったヘルスケアソリューションを開発したり、社外ネットワークを構築し、新規ビジネスに繋がる異分野の最先端技術を探索したり、ビジネスモデルの拡大を実現しています。
一方で、日本のヘルスケア企業(製薬企業)によるオープンイノベーションはどうでしょう。これまでナインシグマが支援をした日本の製薬企業のオープンイノベーション活動を分析したところ、そのほとんどが「Technology(技術探索)」を目的に実施されていたことが分かっています。「Added Value Products(付加価値創造)」や「Business Models(ビジネスモデルの創造)」を目的としたオープンイノベーションは、ほとんど実施されていません。
では、なぜ、日本とヨーロッパでこれほどの差異が生まれるのでしょうか。市場規模やニーズの違いがあるにしても、日本企業は、技術の向上に特化しすぎる傾向にあると思います。つまり、日本の製薬企業は、技術起点での製品開発に特化しすぎていると思うのです。日本企業は世界的に見ても基礎研究に力を入れています。グローバルスタンダードでいえば、基礎研究はアカデミアに任せて、企業は製品化に専念しています。海外企業は、もっとニーズ起点での製品開発に特化しているのです。
こうした「技術の向上に特化しすぎる傾向」は、製薬企業だけでなく、健康食品企業でも顕著にみられます。日本には「特別用途食品(トクホ)」が1000品目以上存在しますが、それらはすべて企業の基礎研究の功績によって生まれています。日本人の繊細さが為せる技であり、誇るべき点です。確かにトクホに該当する基準は海外にも存在していますが、必ずしもその取得を目指しているわけではありません。海外企業は、日本ほど高機能食品の開発に尽力しません。食品の「機能や効能」よりも「幸福な体験の提供」に価値があると考えているからです。さらに、人間が体感できる機能には限界があると考えているのです。市場のニーズを汲み取るマーケティング活動に注力し、顧客が幸福になれる製品を開発する方に、価値を見出しています。
日本のヘルスケア企業も、ヨーロッパ企業に習って「技術起点の製品開発」から「ニーズ起点の製品開発」へシフトする必要があると考えています。
次週は、グローバルにオープンイノベーションを支援しているナインシグマだからこそ見えてきた、ビジネスモデル構築成功の秘訣をお伝えします。