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オープンイノベーションの新潮流
第3回「日本の社会課題にも、オープンイノベーションを活用する ③」

ナインシグマ・グループ
顧問 渥美 栄司

ナインシグマのグローバルネットワークの事例からオープンイノベーションの応用編を紹介する「オープンイノベーションの新潮流」。第3回は、日本国内における事例を3週に亘って紹介します。

第3週目は、コンテスト設計の際のポイントをご紹介します。

 

ナインシグマからの5つのポイント。もしコンテストを、設計するとしたら…

「土木建設現場における人手不足」という社会課題の解決と「中小企業の活性化」に向けたオープンイノベーションを実施しました。あくまで、オープンイノベーションは手段にすぎず、成功するかどうかは、運営側のクリエイティビティに大きく依存します。ここでは、本プロジェクトを成功に導くため、ナインシグマが重視した5つのポイントについてお話ししたいと思います。オープンイノベーションの実施を検討されている企業や、技術コンテストの開催を予定されている方々の参考になれば幸いです。

1)中長期的な視点で、広く利益となるテーマを。

本プロジェクトの目的は、社会課題を解決することでした。ですから、公平性が担保された技術テーマを設計する必要がありました。一部の団体や一部の企業のみの利益に繋がる技術テーマであってはならないのです。中長期的な視点で、土木建設業に携わるすべての関係者が幸せになれるような技術テーマを設定できたことが、成功の鍵であったと思います。また、経済産業省関東経済産業局といった行政が主体となって運営できた点も重要なポイントであったといえます。あえて中立的な立ち位置がとれる行政や公的機関、あるいは大学等との協働でオープンイノベーションを実施することで、社会的、産業的に役立つ技術開発を行うことができるでしょう。

精密計測・微細加工プラットフォーム

 

2)直接意見を交わす仕組みは、リアルとバーチャルの両面。事前説明会の開催。

そもそも多くの技術公募では、募集技術の性能値や理論が詳細に決められているため、書面のみで募集をかけても、一定数の提案を集めることができます。しかし、本プロジェクトは、非常にニッチな分野の技術かつ、募集する技術の詳細が決められていなかったため、書面のみでは提案が集まらないと予測しました。そこで、ナインシグマと大成建設は、説明会を実施したのです。説明会では主催者と提案者が直接意見を交わすことができました。今回の場合は国内での限定募集であったため東京と大阪の2都市で説明会を開催しましたが、全米にまたがるプロジェクトやグローバル開催のものであればWebinerというシステムを使って説明会を開催し、質問を受けたり意見交換を行ったりする場合も多いのです。またこの直接対話型の説明会は、私たちのこれまでの経験上、リアルでもバーチャルな環境での開催であっても、提案者の理解を深めるには同等に有意であると言えるのです。

今回もこの説明会の開催は、我方々主催者にとっては、社会課題の深刻さやプロジェクトの背景を誤解なく説明できたというメリットがありましたし、一方提案者には、提案の質を高めるために技術に関して細かくヒアリングすることができ、よりモチベーション高くコンテストに参加してもらえました。そうして結果的には、全国各地の優れた技術を有する企業と繋がることもできたのです。

 

3)提案者のビジネスメリットもクリアに。

募集の段階から「本プロジェクトを通して開発された技術は、大成建設が独占して使用するわけではない」ということを、明確に提言しました。大成建設はあくまでも共同開発パートナーであり、出来上がった技術は、レンタル機器メーカーや型枠メーカー等へ展開し、建設現場全体での使用を想定していることも発信しました。また、試作開発の共同開発フェーズでは、経済産業省の補助金サポートを設けました。さらに、開発した移動機構が、横移動だけでなく垂直面にも適用できた場合には、ダム以外の架設工事等の建設現場でも使用できるように、と使用用途も限定しませんでした。提案者の機会を可能な限り広げ、ビジネスメリットをクリアにすることが肝要です。

 

4)実体験し、共感する場を創造する。

ダムの建設現場における技術課題を、具体的かつリアルに周知するために、既存技術のデモンストレーションを実施しました。協力してくださったのは、大阪の中西金属工業所株式会社です。仮設環境ではありましたが、クレーンを用いた足場移動を動画で撮影し、WEBサイトの募集ページで配信しました。その結果、すべての提案者が、既存技術に関する共通イメージを持つことができました。中西金属工業所のような協力者、共感者をいかに増やすかも、イノベーションの創出に欠かせないポイントでしょう。

 

5)アイディアに対価を払うという発想。

本プロジェクトに限った話ではありませんが、詳細設計に予算をつけられるかどうかで、提案数や提案内容の質が向上するということもあります。一般的に言って欧米企業では、アイデアそのものに対価を支払うという考えが浸透していますから、詳細設計の段階から、ある程度予算をつけます。提案者の労力を考慮すれば、予算がつけられた募集の方が魅力的に映ります。とくにアイディアレベルからのオープンイノベーションの活動をより活性化させたい場合は、詳細設計の予算を検討する価値は、大いにあると思います。

 

さて、この第3回では、社会課題の解決と中小企業の活性化を目的とした日本のオープンイノベーションの事例を取り上げました。次回は、「いのちを守る分野でのオープンイノベーション」というテーマを取り上げたいと思います。

 

※2018年度には関東経済産業局の精密計測・微細加工事業内にて、
JR西日本、山九が有する課題に対するコンテストを実施しました。