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未来のモビリティを形作る材料開発とは:OIカウンシル調査レポート

”大きな変革期を迎えているモビリティ業界において、今後重要となる材料の開発動向を把握することを目的として業界エキスパートの意見調査を実施しました。BEVや水素自動車における材料など、モビリティの進化の方向性に大きく依存するものが挙げられた一方で、電子部品の小型化や塗装工程でのCO2削減といった、どのモビリティが主流となっても現れる課題に対応するものも挙げられました。
本コラムでは、調査結果から特に次世代のクリーンモビリティの一つとして期待が高まっている水素自動車に関連した材料についてのエキスパートの意見をご紹介します。その他の材料の動向についても詳細をサンプルレポートでご確認いただけますので、ぜひダウンロードしてご一読ください。”

 

<背景>

脱炭素の推進や急速な技術革新により、モビリティ業界は大きな変革期を迎えています。例えばEVに関して見ると、世界的なトレンドはあるものの、欧州では2035年以降は禁止としていた乗用エンジン車の新車販売について、合成燃料のみを使う場合に限って、新車販売を認めるとの方針転換をしています。また、中国においてはEVの販売台数の増加率にやや陰りが見え、PHVに経営資源をシフトしている傾向も見えます。モビリティ業界の市場状況は日々目まぐるしく変化していると言えます。

こうした環境下において、材料のサプライヤーとしては、モビリティ業界の顧客が抱える具体的な課題やニーズを収集し、それをもとに自社の研究開発を加速させる必要があります。

今回は「将来のモビリティにおける材料開発に関する意見調査」と題して、自動車関連業界の方からモビリティ向けの材料開発動向について意見を収集しました。業界エキスパートからの意見を収集できる弊社独自のプラットフォームOIカウンシルを使って調査を行いました。調査の全レポートは、下記よりダウンロードしていただけますので、ぜひご一読ください。

サンプルレポートダウンロード

 

<調査方法>

調査内容: 将来のモビリティにおける材料開発に関する意見調査
調査方法: OIC survey(業界エキスパートコミュニティへあるテーマに基づいた複数質問のアンケート調査を実施いただくサービス)
調査期間: 2024年6~7月

今回の調査では、自動車OEMと自動車部品サプライヤーのエキスパートらに下記の質問を投げかけました。

【質問(一部抜粋してご紹介):】
Q1.今後の材料開発の方向性に大きく影響するモビリティ進化のトレンドは何だと思われますか。

1. コネクテッドカー
2. 自動運転
3. BEV
4. 水素自動車
5. フライングビークル(空飛ぶ乗り物)
6. その他

Q2.Q1で選択いただいたトレンドによって、どのような機能が新たにモビリティに求められますか?あなたが最も重要と考える機能を回答してください。

Q3.Q2で回答いただいたモビリティ機能の実現を材料開発の視点から検討する際に、どのような性能を持つ材料の開発が新たに必要になると考えますか?

<調査結果>

自動車OEMやTier1サプライヤーの方から多くの回答を頂き、今後の材料開発の方向性に大きく影響するモビリティ進化のトレンドとしては、下表のような回答結果となりました。自動車分野のエキスパートの多くはBEVの開発動向が材料開発の方向性に大きく影響すると考えていることが分かります。続いてその他の回答には、「内装へのリサイクル材料の使用」や「自動車製造時のCO2削減」などが挙げられました。これらは、モビリティの進化の方向性によらない、カーボンニュートラルの実現に向けた材料開発といった観点での回答と見受けられます。

本コラムでは、次世代のクリーンモビリティの一つとして期待が高まっている「水素自動車」のトレンドを取り上げ、今後の材料開発に大きく影響があると考えているエキスパートの皆さんの回答をご紹介します。BEVを含めたその他の次世代モビリティに関する回答の詳細に関しては、サンプルレポートをご確認ください。

サンプルレポートダウンロード

 

水素自動車のトレンドと関連して求められる材料開発

燃料電池技術を活用し、水素をエネルギー源として走行する水素自動車は、排出ガスが水のみという特徴を持ち、環境負荷の軽減を目指す新たな選択肢として注目されています。2024年には、トヨタ自動車とBMWが燃料電池システムの共同開発を発表しました。これにより水素自動車技術の進化がさらに加速すると期待されており、こうした動きを支える材料技術の重要性が増しています。

業界エキスパートからは下記のような回答を頂きました。

「水素自動車化までの過渡期に、ICEエンジンの水素燃焼対応への改造が必要とされ、従来のガソリンエンジンとは燃焼温度が異なるために、特別なシリンダー材料やオイル、潤滑剤が必要とされる。」
(欧州/ポルシェ/Manager)

こういったOEMの要求に合わせた材料開発が求められているとする回答は水素自動車に限らず得られました。また、
「従来のアラミド繊維ベースのタンクでは肉厚なためスペースを大きくとってしまう。それに対して、ポリマー発泡体に変更するなどの革新的なアイデアが考えられるかもしれない。」
(欧州/自動車OEM/Senior)

という回答があり、様々な代替材料が考えられる中、なぜポリマー発泡体を取り上げたのか、それを利用する具体的なメリットは何かを聞いたところ、

「ポリマー発泡体を燃料貯蔵体として使用すれば、水素を発泡体の内部に取り込んだ気体状態で貯蔵できるため、自由な形状のタンク設計を行える。タンクをシャーシやボディの内側の保護された空きスペースに設置することができ、タンクを大型化できるため、より高い容量と走行距離を実現できる。ポリマー発泡体では、静水圧保持を利用してガスを貯蔵し、電磁インパルスへの応答として発泡体の指定領域から燃料供給ラインに放出できるのではないか

という回答がありました。

水素自動車普及の課題である走行距離を伸ばすために、水素をいかに多く貯蔵できる材料を開発できるかといった観点が重要になると考えられます。また、新たな材料の開発によって水素タンクの形状が変われば、インフラ側の水素供給ステーションも従来とは異なる安全基準や技術的対応が求められる可能性もあります。モビリティのみならず、それを取り巻くインフラに関しても材料開発の余地がありそうです

<おわりに>

本調査では様々なモビリティトレンドにおいて今後重要と考えられる材料の意見を集めることができました。水素自動車においては、エンジン改造に必要な耐熱材料や高効率な燃料貯蔵を実現する革新的なタンク材料に関する意見が挙がりました。一方、モビリティの進化の方向性によらないカーボンニュートラルの実現に向けた材料開発へも言及もあったことから、OEMの動向に振り回されない材料開発を進めていくことも重要と考えられます。同じ動きはEVシフトの渦中にある自動車部品メーカーでも見られましたが、さらに上流の材料サプライヤーにとっても同様の状況と言えるのではないでしょうか。
今モビリティ市場は変革期にあり、材料技術の進化が業界の未来を形作る鍵となります。いち早く業界の動向をつかみ、むしろリードするような材料開発に取り組むことが、競争優位性を持てるポイントになると考えられます。

本調査の詳細はサンプルレポートに記載しておりますので、ぜひダウンロードしてご確認ください。

サンプルレポートダウンロード

 

 

Takumi F

事業部 Senior Associate(モビリティ・インダストリー)

<担当プロジェクト>
・大手自動車メーカー:技術ロードマップ策定支援
・大手自動車メーカー:電気自動車の普及シナリオ策定支援
・大手機械メーカー:注力事業領域における事業構想支援
・大手電機メーカー:長期ビジョンの検証・評価支援
など
<略歴>
大阪大学大学院にて機械工学を専攻後、大手自動車OEMにおいて、ボディ部品の設計業務に従事。
ナインシグマ入社後は、自動車メーカー・機械メーカーを中心に、研究開発・事業開発領域のOI活動を支援。