弊社では、機能性、利便性を高めるためCookieを使用しています。
お客様は、「Cookie設定」で詳細を管理することが可能です。Cookie使用に同意される場合は「同意する」をクリックしてください。

オリンピック・パラリンピックに影響を与えた技術的なブレイクスルーに関する調査:OIカウンシル調査レポート

”8月11日にパリオリンピックが閉幕し、日本人選手の活躍やメダル獲得に日本中が沸きました。メダルの獲得や競技レベルの向上、レコードの更新は、選手自身の想像を絶する努力があることはもちろんですが、競技をサポートする様々な技術的な進歩があることも事実です。今回の調査では、どのような技術的なブレイクスルーがオリンピック・パラリンピック競技に影響を与えたのか、また今後影響を与える得るのかについて調査を行いました。”

パリオリンピックが行われ、世界中の人々が選手達の活躍やメダル獲得に沸きました。オリンピック・パラリンピックでは、人間の限界に挑むアスリートたちの姿を通じて、驚きと感動を味わうことができます。しかし、その背後には、競技の進化を支える数々の技術の進歩が存在しています。これらの技術は、選手のパフォーマンスを向上させ、公平な競技環境を確保し、観戦体験を一層豊かにしてきました。

例えば、水泳競技で使用されたハイテク水着「LZR Racer」は、抵抗を減少させることで選手のスピードを劇的に向上させました。この水着は、NASAの技術を利用して設計され、2008年の北京オリンピックでは多くの選手が着用し、多くの世界記録を樹立しました。しかし、その後、この水着が与える不公平なアドバンテージが議論を呼び、使用が禁止されるに至りました。

また、ビデオを使った判定技術は、競技の公正さと正確さを確保するために重要な役割を果たしています。これにより、誤審を減らし、リアルタイムでの判定が可能となり、選手や観客にとってより透明性の高い競技環境が提供されています。今回のパリオリンピックでも、チャレンジやリクエストなどと呼ばれる判定や採点などの確認をVAR(Video Assistant Referee)で行うケースが目立ちました。

この調査では、オリンピック競技におけるこのような技術的ブレイクスルーがどのように影響を与えてきたのかを探りました。世界中のエキスパートから寄せられた意見をもとに、競技の進化とその未来について考えました。どの競技でどのような技術の恩恵を受けているのか、どのような技術が今後さらなる革新をもたらすのか、を考察していきたいと思います。

 

今回のヒアリング対象の母集団

ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルへアンケートを投げかけるOIC surveyを使って調査を行いました。回答いただいたエキスパートの組成は103名でした。アジア・ヨーロッパを中心にグローバルの様々な地域のエキスパート達の多くの声が集まりました。

■ 回答者の地域

 

選手・審判・観客のそれぞれに技術的な恩恵

では、エキスパート達から挙げられた具体的なブレイクスルーについて紹介します。今回は、よりイメージを持って回答してもらえるように、過去20年間で最も技術的なブレイクスルーの影響を受けたと考えるオリンピック競技を選択してもらった上で、その内容を回答してもらいました。

ここでは、技術的なブレイクスルーについて、選手、審判、観客の3つの立場でまとめてみました。

 

1.選手

LZR lacerの例のように、それぞれの競技で使う用具に関するコメントがありました。より軽く、より強いなどの特徴を持った様々な新素材の開発が行われてきました。このような用具の進歩は、選手のパフォーマンス向上がつながったとする意見だけでなく、選手の疲労の蓄積やケガのリスクを軽減させることができる点に注目した意見も多く寄せられました。

■ カーボンファイバー製ランニングシューズ(陸上)
  • 特に長距離走において、ナイキのヴェイパーフライシリーズやアルファフライシリーズのようなシューズは、大きな推進力と疲労の軽減をもたらし、数々の記録更新に貢献した。2019年にエリウド・キプチョゲがマラソンで2時間を切ったのもその一例だ。
■ グラファイトやカーボンファイバーなどの高度な複合素材を使ったラケット(テニス)
  • 最新のラケットは軽量で耐久性に優れ、プレーヤーはより少ない労力でより大きなパワーとコントロールを生み出すことができる。例えば、ウィルソン・ブレード・シリーズは、グラファイトと玄武岩の組み合わせにより安定性と打球感を向上させ、プレーヤーがより正確でパワーのあるヒットを打てるようにしている。

また、競技の際だけでなく、トレーニングの際のデータ分析や服用するサプリメントにおいても、技術的な恩恵を受けているとするコメントがありました。

■ ウェアラブルセンサーやモーションキャプチャーシステム
  • これらは、リアルタイムで詳細なバイオメカニクスデータを提供し、アスリートがトレーニングやテクニックを最適化するのに役立つ。例えば、短距離走やジャンプ競技では、アスリートがデータを使ってフォームを微調整することでパフォーマンスが向上し、ケガの発生率も減少している。(陸上競技)
■ スターティングブロック(水泳)
  • 反応時間センサー付きスターティングブロックには、スイマーの反応時間を測定するセンサーが搭載されている。この技術は、レーススタートの精度を向上させるだけでなく、選手がスタートテクニックを磨くための貴重なフィードバックを提供している。
■ プロテインなどのサプリメント
  • 選手によって摂取されたプロテインなどのサプリメントは、パフォーマンス強化のために重要な役割を担っている。例えば、クレアチンによって、高強度の筋肉を維持するスポーツにおけるパフォーマンス向上や筋肉量の増加、疲労回復の効果がある。(体操競技)

2.審判

高性能なカメラと高精度なセンサーを使って、審判を支援する技術的な進歩も目覚ましいです。人為的なミスやバイアスを可能な限り少なくし、公平で公正な判定や採点が行われるために様々な技術が使われています。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)は多くのエキスパート達が注目すべきブレイクスルーと考えており、今回のオリンピックではどの競技でも使われていたのではないでしょうか。

■ スマートボールシステム(サッカー他、各種球技)
  • 正確な位置をリアルタイムで追跡できるセンサー(NFCチップ)を組み込んだボールを使って、ボールがラインから出たかどうか、ゴールを決めたどうかなどを判断する。

3.観客

VARのようなカメラとセンサーを使ったイメージング技術は、スポーツ観戦体験も向上させているという意見が多くありました。レースの指標をリアルタイムで更新するライブ・データ・フィードや、没入型の観戦体験を提供するARやVRの導入によってよりエキサイティングな方法で観戦することができるようになりました。

 

将来の技術的なブレイクスルーが及ぼす影響

さらに、「今後のオリンピック競技において、どのような技術の進歩が新たなブレイクスルーを生み出すと思いますか?また、これらの技術がスポーツのルールやパフォーマンスにどのような影響を与えると思いますか?」との質問を行いました。既存技術の延長線上にある進歩と、さらにIoTやAIを組み合わせた考えが寄せられました。

  • スポーツの本質には人間的な要素があり、ミスは避けられないと思う。スポーツを可能な限り有機的なものに保つためには、テクノロジーは判断を下すものではなく、判断を助けるものであり続けるべきだと思う。しかし、最大のブレイクスルーは、アスリートのパフォーマンス測定やトレーニングの改善といったスポーツ科学の側面だと感じている。さまざまな測定技術やデバイスは、アスリートが最高のフォームでプレーするのに役立つだろう。
    (UK、Automotive、Senior)
  • スポーツは特殊な条件下で新しい解決策や素材をテストするための最高のトレーニング場のひとつである。私はまた、同じ理由から、医薬品によるドーピングを禁止すべきではないと考えている。
    (Poland、Other service、CEO)
  • 将来的には、VR、AR、AIの技術を利用して、引退した、あるいは、亡くなった元選手が、そのスポーツ/ショット/リアクションをどのようにプレーしたかを暗示させるビジュアルを作ると面白いのではないか。
    (UK、Oli & Energy、Senior)

AIがスポーツにどう関わるべきなのかという点は、ルールの見直しまで遡って対応が必要になってくるでしょう。一方で、今後もスポーツが行われる環境ほど用具の技術力を高め、競い合える場に適したシーンはないでしょうし、技術と掛け合わせることでエンターテインメントとしてより魅力的なものにしていけるでしょう。

 

我々は進歩するスポーツ技術をどう使いこなすのか

将来のオリンピック競技における技術的なブレイクスルーを考えてもらいましたが、進歩が目覚ましいAIに判定や採点をすべて任せる、という意見が1人もなかったのは意外な結果でした。競技を行うのはあくまで人間であるように、それを管理するのもまた人間であるべき、とする意見があるように、AIや技術が進歩してどんなに完璧な判定や採点をするようになっても、AIが審判を行う競技に人は感動しないのではないでしょうか。時として、勝負の分かれ目になったり、のちのち話題になったりする人間味のある判定や採点に、観客は一喜一憂することがスポーツの醍醐味の一つと言えるかもしれません。もちろんVARなどの技術が導入されてきた背景も忘れてはいけません。進化する技術は、主役である選手のパフォーマンスを向上させ、試合の公正性を保つものであり続ける必要があります。その意味では、いまこのような進歩に一番追い付けていないのは観客のモラルではないでしょうか。今回のオリンピックでもSNS上で試合や選手に関する批判や誹謗中傷が繰り広げられましたが、観客が様々な技術によってプレーを詳細に見られるようになったからこその悪影響ともいえるでしょう。選手、審判、観客の3者が進歩する技術に頼り切らず、自身で適切な使い方を考えることが、今後もオリンピックが世界最高峰の競技が見られる場であり続けるために必要なことではないでしょうか。

様々な業界エキスパートが所属するグローバルなOIカウンシルというコミュニティでは、彼らの知見をフル活用した技術的な調査はもちろん、社会トレンドの現状やニーズの中で求められる技術を考えるといった調査も可能です。ご興味がありましたら、是非お気軽にご相談ください。

―――

調査内容:オリンピック競技に影響を与えた技術的なブレイクスルーに関する調査

調査方法:OIC survey(業界エキスパートコミュニティへあるテーマに基づいた複数質問のアンケート調査を実施いただくサービス)

期間:2024年7~8月

質問内容

Q1: 過去20年間で、最も技術的なブレイクスルーの影響を受けたオリンピック競技はどれだと思いますか?以下の選択肢から選んでください。 (単一選択式)

サッカー/水泳/陸上競技/バスケットボール/バレーボール/テニス/体操/その他

Q2: Q1 において、あなたが選択したスポーツにおいて、具体的にどのような技術的ブレイクスルーが起こりましたか?これらの技術がスポーツにどのような影響を与えたか、例を挙げてください。(記述式)
Q3: 今後のオリンピック競技において、どのような技術の進歩が新たなブレイクスルーを生み出すと思いますか?また、これらの技術がスポーツのルールやパフォーマンスにどのような影響を与えると思いますか?(記述式)

 

    Nobuhito T

OIカウンシル推進室 Manager

大学院にて機械工学を専攻後、空調機器メーカーにおいて、商業ビルなどの業務用の空調機の研究開発に従事していました。
ナインシグマ入社後は、OIカウンシルの事業開発やエキスパートコミュニティーのマネジメントに携わっています。