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オープンイノベーションの新潮流
第5回 「身の回りにあるオープンイノベーションの成果③」

ナインシグマ・グループ
顧問 渥美 栄司

 

前回は、身の回りにあるオープンイノベーションの事例として、Hallmark社、PepsiCo社等の事例を紹介しました。
今回も、引き続き身の回りのオープンイノベーションの成果を紹介します。

 

【事例4】某チョコレートメーカー:くっつかないチョコレート

4つめは、某チョコレートメーカーの事例です。この企業は、粒状のチョコレートを大袋にパッケージングして販売していました。しかし、チョコレート同士がくっつく「凝集」に課題があったのです。凝集を改善したいけれど、コストパフォーマンスのよい大袋のパッケージングを変えるつもりがなかった同社は、「凝集防止のコーティング方法を一新する」という選択肢を選びました。

従来のコーティング方法は、フライパンのような装置でチョコレートを転がしながらコーティングを施すというものでした。これは、チョコレートが球体の場合には有効でしたが、形状に平面が含まれる場合には、均一にコーティングできず、処理中に複数個の凝集が発生するなど、課題が残っていました。

そこで我々は、様々な分野に対して、既存の方法に捉われないコーティング技術を募集することにしたのです。実際に「装置設計」、「コーティングにまつわる先進材料」、「スプレー」、「インクジェットプリンター」など多岐の分野に募集を呼び掛けました。結果として、最適なパートナーを得て、実用化に進み、商品への適用に漕ぎつけることができました。

本件の成功の鍵は、異分野に働きかけたことでしょう。これまで食品業界との関わりがなかった電子部品や半導体系の装置関連企業が解決の一助になるなど、異分野とのコラボレーションが、課題解決を促進するのです。

【事例5】 某製紙メーカー:温度と湿度を制御するパッケージ

5つめは、ある製紙メーカーの事例です。フルーツや野菜など、生鮮食品のパッケージを製造するこの企業は、輸送の遅れや温度変化による品質劣化を防ぎたいと考えていました。当初は、輸送時や店頭での冷蔵技術に対する改善策を考えていましたが、コストが過剰にかかるため、断念せざるを得ませんでした。最終的に、パッケージ自体に中身の温度や湿度を制御する機能を搭載することにしました。

新たに開発するパッケージには、「中の生鮮食品を長持ちさせられる機能」と、必要に応じて輸送方法や陳列方法が変更できるように「中の状態が可視化できる機能」が求められました。ナインシグマは、「電気や化学物質に反応するセンサー・表示機能」、「物理的な衝撃を検知する機能」、「湿度の制御機能」、「微生物の失活機能」「香りを吸収・置換する機能」を研究・開発する組織に声を掛け、世界中から解決策を募りました。

結果として、カナダのスマートポリマーと呼ばれる高分子を開発する企業との協業が決まり、試作品の開発・評価に進みました。2社の協業活動により開発されたパッケージは、「生鮮食品」ではなく、まず「血液輸送用途」に展開するようです。当初の予定からは異なりましたが、競合他社との差別化戦略に優位な新製品が開発されていることに変わりありません。開発経緯と市場の展開を、今後も追いかけていきたいと思います。

 

上記では、主に海外の事例を紹介しましたが、ナインシグマ・アジアパシフィックがお手伝いした公募から生まれた製品も出てきました。

ユーザーズボイス vol.1テクロスへの応募がきっかけで、 使用用途の掘り起こしに成功。 ビジネスチャンスが広がりました。

このように、短いサイクルで消費者の購買意欲を喚起する多数の製品を上市し続けなければいけない食品・日用品業界にとって、オープンイノベーションは必須であり、また同時にオープンイノベーションと相性がいい業界とも言えます。

次回は、食品・日用品業界においてオープンイノベーションを実行するにあたって、外部からの「アイディア」「技術」の求め方、また得られた「アイディア」「技術」をどのようにイノベーションに結実させるためのオープンイノベーションのポイントをご紹介します。