ナインシグマ・グループ
CEO 諏訪 暁彦
日本企業のオープンイノベーション担当役員の方々とお話をしても、またネットなどのメディアでも、『オープンイノベーションごっこ』に陥らないためには・・というノウハウや、『ごっこ』からの脱却のためのポイントなどを見かけることが多くなりました。
しかしその内容はと言えば、厳しい見方かもしれませんが、これまでずっと現場の担当者の方々が実践されてきた、『わかりきった話』が多いように見受けられます。
本当に、これまでのやり方を踏襲するだけでよいのでしょうか?
真の危機感をお持ちの日本企業の皆様に向け、今こそ、警鐘を鳴らしたいと思います。
目 次
●新しいオープンイノベーションのカタチ
●強烈な危機意識を抱く、欧米トップ企業の役員たち
●社内のリソース、既存顧客、既存サプライヤーで実践するから、『ごっこ』に陥る
●『ごっこ』からの脱却の鍵は『コミュニティ』の活用
●多様性をこそ、異業種のコミュニティで補う
新しいオープンイノベーションのカタチ
2017年9月、ナインシグマ ・ホールディングスの代表に就任してから、私は、世界各地のトップ企業のオープンイノベーション担当役員と議論を交わし、気づけば、地球を7周していました。その中で今更ながらに実感したことは、「欧米と日本では、オープンイノベーションのスピード感がこんなにも違う」ということでした。
欧米企業のイノベーションのスピード感が全く違うのは、自社の生き残りに対して強烈な危機意識があるからですし、そのカギをオープンイノベーションが握っていると考えていたのです。またさらに彼らは、スピード感を追求するだけではなく、既に新たなカタチのオープンイノベーションに取り組み始めていることも、新しい発見でした。
未だ「オープンイノベーションごっこ」から抜け出せていないと悩み、また混沌とした現状から抜け出すことに苦慮している日本企業の皆様に、ぜひ、私の直接見て来た欧米の最先端の事例をご紹介し、本当の意味で『オープンイノベーションごっこ』抜け出して、日本企業が挑むべきオープンイノベーションの新しいカタチをお考えいただければと願っています。
強烈な危機意識を抱く、欧米トップ企業の役員たち
最初に、誰もが知る多国籍コングロマリット企業の事例をお話ししましょう。
その企業は、現在高い業績を達成しているにも関わらず、今、まさに2万人もの早期退職を募っています。これは、数年後に今の市場や製品の一部が無くなっているだろうという予測のもとで行われており、早期退職により投資余力を生み出し、新たな事業に対する投資を開始しているのです。現状に甘んじることなく変化に挑む理由の第一は、高い危機意識にあると推測しています。それは、この1社だけの、特例的な措置というわけでもないからなのです。
またある著名なティアワン・サプライヤー(一次下請け)の自動車部品メーカーでも、危機意識の塊でした。自社の顧客は、既存の自動車メーカーではなく、GoogleやUberに変わるかもしれないと、現在好調な複数の主な事業を、近い将来1~2つに絞る覚悟を持っており、「ここで判断を誤って準備を怠れば、自社の未来はない」とまで言い切るほどの、企業存続の局面にあるようでした。
オープンイノベーションの世界では最先端を走っているといっても過言ではない、世界を代表するあるメガファーマのイノベーション担当役員は、鬼気迫る面持ちで「世界中のVC(ベンチャーキャピタル)と付き合うためには、どうしたらよい?」と訪ねてこられたときは、ほんとうに私も驚きました。もはや、創薬のためのオープンイノベーションを求めていらっしゃるわけではなく、医療・ヘルスケア事業にテクノロジーを組み合わせ、新たな医療効果をもたらそうとする「Health Tech」の波に乗り遅れないよう、新しいアイデアを切望しておられたのです。
一方、厳しい見方かもしれませんが、この14ヶ月の間でお会いした日本企業の現場のリーダーの皆さまは、上記のような海外のご担当者と比べると比較的のんびりと構えていらっしゃる印象を持ちました。頻繁に海外へ出張されている役員の面々は、ある意味危機意識をお持ちのようでしたが、企業としてみると海外企業の様に何か特別な策を講じているかというと、決してそうではありません。
まずはこれらの例を聞いて、日本企業と欧米企業が抱く危機意識の違いに愕然とされる方が、いらっしゃってほしい。そしてその方々が、一刻も早く企業としての取り組みを考える時期であると警鐘を鳴らしてもらいたいのです。
そのためのお手伝いであれば、私は喜んでさせていただきたいと思っています。
社内のリソース、既存顧客、既存サプライヤーで実践するから、
「オープンイノベーションごっこ」に陥る
そもそも欧米企業は、「自社で成功したビジネスモデルを海外に展開する」というグローバリゼーションを得意としていました。しかし、中国などの新興プレイヤーによる追い上げが始まり、これまでのように競争優位性を維持することができなくなりました。そこで、オープンイノベーションに優位性奪還の活路を見出し、社内外で様々なアイデアを求めるようになったのです。
ところが、「社内のリソース」「既存顧客」「既存サプライヤー」の間で実施されるオープンイノベーションは、所詮これまでの延長線上に過ぎないと、彼らは気づきました。確かに、世界中でオープンイノベーションが行われ始めた当初は、「まずは社内からオープンイノベーションを」と言われていたのです。しかし、自前で実践するオープンイノベーションでは、どこまで行っても「ごっこ」止まりであると理解し始めたのでしょう。
そこで欧米企業は、「自社だけでは到底思いつかないような領域のアイデアに、システマチックにアクセスする必要がある」と考えるようになりました。この考え方の変化こそが、欧米企業によるオープンイノベーションを加速させた要因といえるのと考えられます。
『ごっこ』からの脱却の鍵は『コミュニティ』の活用
「社内のリソース」「既存顧客」「既存サプライヤー」の間で実施されるオープンイノベーションは、所詮これまでの延長線上に過ぎないのなら、『ごっこ』を脱却するためにはどうすればよいのでしょうか。彼らの新しい施策の一つに、日本企業の皆さまにもぜひ検討していただきたい方法があります『コミュニティ』の活用です。
一部の欧米企業は、オープンイノベーションによって、企業や専門家と一対一で繋がることよりも、広い領域の複数の専門家と繋がりを模索するようになりました。その方が、イノベーションのスピードが圧倒的に速いことや、非常に効率良く結果が得られることを見出したのです。こうした背景からも、ナインシグマが抱える250万人もの技術者や研究者といったネットワークを、今までの様に向き合って技術を探す相手というよりは、有益な技術情報や、ビジネスアイディアのインフラとして求める企業が増えているのです。
そこで、私たちナインシグマ自身も、考え方をシフトすることにしました。これまでの様に、ごく一部の技術や開発の担当社員の皆さまが、選択的にオープンイノベーションを実施する際にサポートを提供する・・というナインシグマの従来のビジネスモデルだけでは、新しいオープンイノベーションのカタチをサポートするための、スピード感も、拡がりも革新性も不十分だと考えました。
つまり、社員の誰もが、いつでも、簡単に、オープンイノベーションを実施できるような新しい環境が必要なのです。私たちはそのために、新たに「OIカウンシル」というサービスを開発し、2018年11月末からは日本のお客様にもサイト上でもご案内を始めました。
OIカウンシルは、簡単にいえば、「スペシャリストが所属しているコミュニティ」です。一流企業のミドルマネージャー以上のスペシャリストが、数千人規模で参加しています。OIカウンシルを利用すれば、世界中の多種多様なスペシャリストに、スピーディーにアクセスすることができ、意見を求めることもできます。技術的なアドバイスはもちろん、ビジネスモデルや事業に関するアイデアも、広く求められる点が特徴なのです。
冒頭で私は、「既存事業だけでは、企業は競争優位性を維持できない」とお話しました。企業は、自社ビジネスから一旦離れて、全く新しい方向性を模索する必要があります。だからこそ新たな方向性を探る際にも、様々な領域のトッププレイヤーにアイデアを求めることができるという、これまでになかった仕組みは、企業にとって大きなメリットとなりうるのです。
興味深いことに、このナインシグマの新しいコミュニティは、技術やアイデアを求める企業にとってだけではなく、スペシャリストにとっても、様々なメリットを感じてもらっているようです。メンバーであるスペシャリストの方々も順調に増えています。
彼らは製品開発、技術開発、メンテナンス、セールスといった様々な分野の優れた知見を持つだけでなく、自らもオープンイノベーションを実践されてきた方々が多いのです。だからこそ、自分たちの経験やアイディアが正しく評価されることに大きな価値を感じて、このコミュニティに積極的に参加してくれていると分析しています。
スピード感はもとより、日本企業に欠けている多様性をこそ、
異業種のコミュニティで補うという考え方
多国籍企業と比べて、日本企業はダイバーシティという点では全く遅れています。多様な人種が集まり、異業種間の転職も頻繁に行われる欧米企業に対し、日本の大手企業では特に異業種からの転職はほとんど行われず、新卒で一括採用したプロパー社員がほとんどです。オープンイノベーションの推進を考えると、これはもはや世界の標準から全くズレているといっても過言ではありません。
世界的な競争に勝ち抜くためには、多様性に欠ける日本企業だからこそ「異業種の人材が集まるコミュニティ」のサポートが必要なのです。また逆に言えば多様な人材が集まるインフラを活用すれば、ハイスピードで多面的なアイデアを得て、自社のオープンイノベーション活動を推進してゆけば、欧米の最先端企業を追い越すことも不可能ではないでしょう。
「技術やアイデアを求められる、多様性と先進性を担保したコミュニティ」を。それが、日本企業が「オープンイノベーションごっこ」からいち早く脱却し、世界で躍進する一つの解だと確信しています。