本コラムでは、ナインシグマにおいて、コンサルタントとして長年に亘り数多くのお客様の研究開発や事業開発をご支援してきた私が日々のプロジェクトにおいて実施している、社外技術の導入を前提とした簡易な技術調査の手法について解説します。
簡易な技術調査とは?
一口に「技術調査」といっても様々な目的ややり方があると思います。ここでは、研究開発や事業開発に関わっている方が、自身が持っているテーマの技術課題を解決するための糸口を探すための調査と想定します。もちろん個人や自社でもこういった目的の技術調査はできますが、担当者のスキルや経験、勘に依存する部分も多いのではないでしょうか。そのような課題を感じている方にはぜひ、ナインシグマで提供しているグローバルな技術公募サービス「テクノロジーサーチ」において、事前に実施している簡易な技術調査のノウハウをご紹介できればと思います。我々は、社外に公募して有力な技術を発見できるかどうかを事前に把握するために、お客様が抱える技術課題について公知の情報をベースとした簡易な技術調査を行っています。お客様からご相談いただく技術課題の多くは、自社での探索では解決策が見つからなかった課題です。ところが、今回ご紹介する簡易な技術調査によって、お客様の満足できるレベルの解決策まで見つかってしまう場合があります。その分野の専門家であるお客様が見つけられなかったにもかかわらず、なぜそのようなことが起こるのでしょうか? その疑問の答えは、「社外技術の活用を前提としたナインシグマの調査」と「メーカーの製品の開発担当者の調査」の調査スタンスの違いにあると考えています。
「社外技術が前提」だと何が違うか
メーカーの担当者が社外技術調査を行う場合、社外技術の活用のためというよりは、まずは自社内で実践できる技術情報の獲得のためであることが多いです。一方、オープンイノベーションを専門とするナインシグマの調査では、社外技術の活用を前提とします。我々は、最初から異分野の技術を活用する可能性も含めて、関連技術の全体像をまずは広く把握します。我々は、「関連技術はすでにどこかで開発されている可能性がある。その技術を活用した方が速く製品化できるに違いない」という考え方を基本姿勢として技術調査します。
これから解説する、社外技術活用を前提とする簡易的な技術調査は、求めている技術を一般的なインターネット検索(GoogleやGoogle Scholarなど)で探索するものであり、目からうろこが落ちるようなテクニックが含まれているわけではありません。しかし、これまで社外技術の活用をあまり意識しなかった方には、視点がまったく異なります。この視点を持つことによって、実現が難しいと考えていた技術や想定外の技術を発掘できる可能性があります。
私がメーカーに勤めていた頃、「このような技術があれば理想的だが、現実的な工程を考えると実現は不可能だろう」と個人的に考えていた技術が、その後、競合メーカーから商品化されていたことがありました。無意識のうちに、すぐに出来そうな範囲に限定した開発となってしまっていたように感じています。目先の業務に追われ、「理想の技術」を実現する技術の探索に時間をかけられていないと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。これを機に、一度時間を割いて社外技術の調査をしてみることも無駄ではないはずです。
社外技術の活用を前提とする調査で意識すべき2つのポイント
第1ポイント:全体像の把握
関連技術のリスト作成を通じて技術分野の全体像を把握するために、1つ1つの文献を深く読み込まないようにして、数多くの文献にあたる。
第2ポイント:要件を緩和する
目的の技術を要素分解した上で、転用できそうな異分野の技術も含めて探索する。
これらに留意することで、結果的に求めている技術に近いものが見つかる確率が高まると考えています。
※なお、ここで述べる手法は一例であり、テーマや弊社メンバーによって、調査方法は異なることをご留意ください。
社外技術調査のポイント1:全体像の把握
第1のポイントは、調査の過程でみつかった文献をその場では深く読み込まず、全体像の把握に徹することです。
調査中に興味深い内容や自分が知らない内容の文献があると、深く読み込みたくなるものです。しかし、その後の調査で他にも重要な文献が色々と出てくる可能性があり、逐次全部読んでいたらきりがありません。そこで、まずは概要を読んだ所感をリストにメモすることにとどめて、次の文献に移ります。業務の合間時間で、関心のある論文を全て読み込むのは多くの方にとって現実的ではないでしょう。簡易な技術調査では、まずリストを作成し、個別の読み込みは優先順位を見極めた後にします。コメントを簡単に記載したリストがあれば見返すこともできますし、調査中断後の再開も容易になります。
また、概要を把握する際に、技術開発が行われる社会的背景にも注意することも重要です。特に求めている技術に近いものが、異なった目的で開発されているケースがあります。このような場合、社会的背景などを理解することが、特に異分野技術を視野に入れた場合の技術調査の効率化につながります。
目安として、3時間から半日程度かけて20~60件程度のリストアップを行います。数件を深く読むよりも、良い技術に巡り会える確率は高まります。たとえ求めていた技術が見つからなくても、「自分の求める技術の開発はどのような組織が行っているか」「求める技術そのものが存在するか」「異分野ではどのような目的と方向性で開発されているのか」などのおおまかな全体像が分かり、開発の参考になるはずです。
社外技術調査のポイント2:要件を緩和する
第2のポイントは、技術を要素分解し、必要に応じて要件を緩和し、キーワードを変えながら、適用の可能性のある技術を探ることです。このような調べ方には2つのメリットがあります。
要件を緩和するメリット
- 有用な類似技術や異分野技術が見つかる可能性が高まる
- 要件を緩和しながら試していく過程で、適切なキーワードが見つかり、本命技術の解決の糸口が見える場合がある
|
要素分解によって具体的に何をするか、例を挙げてご説明しましょう。
「CVD合成における窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)の直径制御」というテーマがあったとします。この場合、①CVD合成×②BNNT×③直径制御という要素分解が可能です。最初に求める技術そのものを調べますが、この①~③のすべてにあてはまる事例がなかった場合を考えます(図1)。
そのいずれかの技術要件を外すか緩和します。例えば、①を外して「合成法に拘わらず、BNNTの直径制御を行う技術」(図2)や①の元素(窒化ホウ素)の制限を緩めて「CVD合成によるナノチューブの直径制御を行う技術」(図3)で探します。すると本命の「BNNTの直径制御」という技術は見つからなくても(図2)、「カーボンナノチューブの直径制御」の技術が見つかれば、この技術の応用による本命の技術課題の解決の可能性が見えてきます(図3)。
要素分解を試しながら技術調査すると、その過程で適切な検索キーワードがみつかり、結果的に本命を掘り当てられる可能性があることです。前述の例でいえば、「ナノチューブの直径制御」という調査を行っている過程で、カーボンナノチューブの分野で「触媒の制御」がキーワードとして重要だということがわかれば、それを新たな軸として調べることで、本命のBNNT関連で近い技術が出てくるといった場合があります(図4)。全ての要件を満たす技術だけを探している場合でも、一度条件を緩和して探してみると、回り道をして本命の技術に近づける可能性があるのです。
このほか、同じ概念を検索しているつもりでも、用いる表現方法(キーワード)によって探索できる技術も異なります。調べていくにつれて分野特有、英語特有の表現があることが分かるので、そのような種々の検索キーワードを試しつつ、開発の背景の把握や部分的な要件緩和を行いながら技術分野を模索していくことをお勧めします。
あるインフラ系業界のお客様の課題では、本命の技術は存在しないという前提で公募のための予備調査を行いました。調査を始めた当初は、「やはりなさそうだ」という感触でしたが、その過程で見つかる色々なキーワードを試していった結果、実は本命の技術がすでに海外に存在していることがわかりました。本命の技術が存在していても、適切なキーワードで調べなかった場合には見つけられないことがあるのです。
探索対象とするテーマは「あれば儲けもの」
私が社外技術の簡易な技術調査に関して意識している2つのポイントは以上です。このコラムをきっかけとして、ご関心のある開発テーマについて社外技術調査を試してみて頂ければ幸いです。頭に浮かんだ製品設計のコア技術や、周辺技術、生産技術などの中で「このような技術があれば画期的だが、おそらくないだろう」と思っていてあまり探索してこなかった技術について、「あれば儲けもの」という気持ちで試して頂きたいと思います。一方、今回の公知情報に基づく簡易的な技術調査だけでは、当然、具体的な有望技術が特定できないケースも多々あります。このようなときは技術公募が非常に有効です。例えば以下のようなケースがあります。
「ピンポイントでそのものの技術はみつからないが、使えそうな技術はどこかにありそう」
「研究分野が広すぎてパートナーの選定に手間がかかる」
「公知文献からは、自社の技術公募への有効性が判断できない」
「この分野の研究者であれば、よい解決策を知っている人がいそうだが、特定できない」
なぜなら技術公募では、依頼主企業が提示した特有の課題に対して、複数の具体的な技術提案を比較し、その中から最も好ましいパートナーを選ぶことができるからです。ナインシグマ独自の大規模な研究者データベースを活用した技術公募により、技術課題の解決パートナーのグローバル探索をお手伝いいたします。「テクノロジーサーチ」についてお気軽にお問合せください。
おわりに:社外技術活用も開発手段のひとつ
本コラムを通じて、社外技術活用を前提とした調査方法の例をご紹介してきました。これらは簡易な技術調査手法ですが、製品開発の手段としても有効です。開発担当者の主な任務は独自の技術を完成させることですが、一方でNIH(not invented here)症候群という言葉があるように、自前の技術に対して必要以上にこだわりすぎる場合があります。しかし、開発担当者が社外技術を積極的に使うことは、決して怠慢ではありません。むしろ、あらゆる手段を視野に入れて、より速くより良いものを作ることが開発担当者の使命です。よい技術アイデアについては、自前の技術だけでなく、社外技術活用も視野に入れて模索することが重要ではないでしょうか。
今回ご紹介したような技術探索以外にも、ナインシグマでは様々な形で研究開発や事業開発の様々なフェーズでお客様のイノベーションを加速させる支援を行っております。技術に精通したエキスパートの知見をグローバルに収集して活用できる「OIカウンシル」やお客様の一員として課題解決へ向けたオープンイノベーション活動を支援する伴走型の「メンバー型オープンイノベーション支援プログラム」など、弊社のご支援に関してご興味等がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。弊社のコンサルタントがお客様の課題を解決するための最適なご支援をご提案させていただきます。
緒方 清仁
事業部 部長(ヘルスケア・CPG、マテリアル・エレクトロニクス) |
- ・最終学歴
- 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻
- ・前職
- 食品メーカーの基礎研究部門で5年間、腸内細菌の解析手法の研究開発、ならびに開発手法を用いた国内外の研究機関との共同研究に従事していました。
|