研究開発TOPの描く組織運営・開発戦略とは何かを問う対談連載シリーズの第3弾では、ゲストに帝人株式会社で取締役専務執行役員を務める高橋 卓氏をお迎えし、R&Dの未来図についてお伺いしました。
高機能繊維・複合材料、電子材料・化成品、ヘルスケア、繊維製品・流通、ITなど、長年培った化学技術や最先端の研究開発を通して様々な事業展開を行う帝人の、今後の展望について教えていただきました。
諏訪本日はお時間をいただき、ありがとうございます。御社は、自社のホームページで研究開発戦略について非常に分かりやすく説明されていますね。この対談をご覧になっている読者の皆様には、そちらも参考にしていただきたいと思っていますが、本日は、すでにウェブで公開された情報にとどまらず、オープン・イノベーションや新ヘルスケア事業を創出した背景についても、踏み込んでお伺いできればと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
高橋こちらこそよろしくお願いいたしします。
ポートフォリオの転換:新ヘルスケア領域の強化
諏訪まず、御社の研究開発戦略についてお伺いします。技術ポートフォリオの変革を通じて、素材技術とヘルスケア技術の領域を融合させ、新ヘルスケア事業への展開を打ち立てた背景についてお伺いできますか?
高橋帝人では、素材とヘルスケアという2つの柱を持っています。その内、素材だけでいいますと、グローバル競争のなかで帝人より上位にいる企業は相当数あります。しかし、ヘルスケアの領域において、自前でそれなりの水準を保ち、高い技術を培ってきた素材オリジンの企業は、帝人以外そういないと自負しております。
諏訪確かに、買収などによってそうした機能を後から得た企業は少なくありませんが、御社のように自前で育ててこられた企業はそういません。
高橋ですから、この二つの領域を組み合わせた融合領域においては、新たな技術やその先にあるソリューション、商品、あるいはサービスといったものを提供する上で、帝人が最もふさわしい存在だと認識しています。それを認識だけにとどまらせず、自社で取り組むべき技術を正しく組み合わせ、開発を進めていかなければならない。しかし一方で、自社だけでは難しい新しい領域に関しては、オープン・イノベーションによって、他の研究機関や、場合によっては、競合会社とも連携を取ることが重要だと考えます。そのため、帝人では「オープン・イノベーション戦略」を掲げ、実際にその融合領域において、ソリューションや商品・サービスを提供するという方針を明確に打ち出したわけです。
諏訪社内には、長年技術を培ってきた技術者もおり、社外から技術を評価し取り込むスキルもあるため、自前の開発だけでなく、オープン・イノベーションにおいてもメリットがある。まさに、御社の強みが活きる領域だということですね。
帝人が進める5つのオープン・イノベーション。そして背景に見える戦略
諏訪融合領域についてご説明をしていただく際に、オープン・イノベーションについても触れられました。研究開発戦略の一つとして掲げられている「オープン・イノベーションの推進」は、単に項目として掲げるのではなく、研究開発戦略の一つとして「技術ポートフォリオの変革」を説明する際、「強化・獲得する技術」の『獲得』という言葉で表現されましたね。「ソリューション提供」を説明する際にも、「帝人内外にこだわらず活用できる、素材領域の拡充を行う」と説明されるなど、コミュニケーションも徹底しておられます。
高橋従来から自前主義に陥ることなく、外部の技術を何らかの連携のもとで獲得するという基本的な考え方がありました。R&Dの実際の活動にもそれなりに反映はしてきたのですが、今回、中長期ビジョンを打ち出すにあたって、自前の開発にとどまらず、「外との連携のもとに取り組む」というメッセージを、従来の認識よりも一段と強調したつもりです。もちろん外に対してだけでなく、社内に対しても、私自身が現場を訪れる際や、カンパニーのCTOが集まる月に1度の技術戦略会議などの場においても、このメッセージを強く発しています。
諏訪「なぜオープン・イノベーションなのか」。また、「なぜ強化するのか」と。いう問いに対して、社内でどのような説明をされているのですか?
高橋自前の開発に限界が見えてきたという現状もあるのですが、もっと根源的には、投下した費用に対する研究開発の成果が十分なものではないという認識があったからです。
諏訪それは、効率が足りないということですか?
高橋効率というよりは、「アウトプット極大化」のほうを目指しています。そうすれば自ずと効率も上がっていきますからね。つまり、投下した費用に見合うアウトプットを獲得するための解決策の一つとして、オープン・イノベーションを強める、ということなのです。もちろん、全てのテーマに当てはまるわけではないですが。
諏訪なるほど。ただ、理屈ではわかっていても、総論賛成各論反対というか、研究者は基本的に自分でやるのが楽しくて、ついつい抱え込んでしまいがちになるかと思いますが。その場合、社外の力を活用するかどうかは、どこで線引きをするのでしょうか?
高橋そうですね、研究者は、基本は自前でやるという気構えが欲しいので、その姿勢自体は悪くないと思っていますが、基準としては、スピードが重要になると考えています。バックグラウンドが薄いところだと、最初から自前でやろうとすると長い時間が経過してしまいます。ある程度得意な領域でも、さらに加速するためには、外部の力を取り込むことも必要なんです。ただ、本格的に取り組み始めたばかりなので、今の段階でそこが明確に切り分けられ、あるいは基準化されているかというと、そこまでには至っていっていません。だからそこは、もう少しガイドラインを示していかなければならないと考えています。
諏訪実際にいろいろなオープン・イノベーションの施策を進められていると思いますが、特に力を入れている活動はありますか?
高橋その答えは、そもそも、オープン・イノベーションをどう解釈するかにもよりますが…。
諏訪確かに、オープン・イノベーションという言葉の定義はかなり曖昧で、実際に使っている人によって認識が異なりますからね。
高橋そうです。狭い解釈もありますが、去年の4月にグループ全体の技術を統括する立場に就いた私としては、オープン・イノベーションを広く解釈していきたいと考えています。
諏訪それは、どのような定義でしょうか?
高橋まず、5つのパターンがあると思っています。
1つ目は、大学との共同開発や、官庁や国のプロジェクトなどにおいて複数の企業が集まるコンソーシアムのような、いわゆる「従来型のオープン・イノベーション」です。
2つ目は、ナインシグマのような技術仲介事業者を活用する場合。自社に明確な目的があり、非開示にするものは非開示にしながら一部窓を開け、そこに開示可能な情報を出していく。外から広く反応を引き寄せることで、両者間でwin-winの形を見いだすスタイルの、オープン・イノベーションです。
諏訪私どもの役割が御社のオープン・イノベーションのパターンの中に入っていて良かったです。(笑)
高橋これら2つのパターンは、すでに広く世の中で進められていることですが、直接的にビジネスとして成功確率を上げようとすると、さらに3つのパターンが考えられると思っています。
諏訪それは何でしょうか?
高橋3つ目は「社内オープン・イノベーション」です。
諏訪それはどういったものでしょうか?
高橋帝人では、これまで各事業が独立採算のもと最適化を追求することで、結果的には全体が最適になるという認識のもと、グループの各事業を分社化してきました。しかし、分社化によって技術共有や最大活用ができていたかというと、そうとも限らなかった。効果が上がり難くいこの状況を打破するために、会社としては、一度分社化した各事業を再び統合する方向へ流れを変えています。つまり、グループ内の垣根を取り払った技術共有や最大活用を目指すという意味での「社内オープン・イノベーション」です。
諏訪確かに、垣根ができて交流が無くなっていたとすると、そこを取り払えば非連続のイノベーションが生まれる可能性がありますからね。
高橋4つ目は、新しい事業領域にはもちろん、既存事業においても、幅を広げたり深堀りしたりすることで、各領域における「企業対企業の共同技術開発」を推進するという考え方です。帝人に当てはめて説明すると、事業によってはすでに川中や川下のところまで進出していたりしますから、川中から川下の企業とも、バリューチェーンの中で一緒になって新しい技術を開発していこうという考え方です。
諏訪単なる顧客・サプライヤーという関係を超えて、技術の協業を図るということですね。
高橋そうです。そして5つ目が、場合によっては競合との間でも「双方の持てる技術を突き合わせることで、お互い自前ではできないことを可能にする」という考え方です。 これら大きな5つの考え方で、オープン・イノベーションをとらえることができると思っています。
その中で、私としては、特に3つ目の「社内オープン・イノベーション」と、4つ目の「バリューチェーン内における企業対企業の共同技術開発」をさらに強化していきたいと考えています。
重点的融合領域を定め「社内オープン・イノベーション」を強化
諏訪ここからは、強化したい3つ目と4つ目のオープン・イノベーションについて、詳しく聞かせてください。まず、3つ目となる「社内オープン・イノベーション」についてですが、御社は、カンパニー制を敷いていた時でも、技術戦略会議で技術最高責任者が、各カンパニーCTOの横の連携をうまくとっていたように見受けられました。しかし、「社内オープン・イノベーションの強化」を課題として挙げられているということは、まだまだ連携が不十分だと感じているからですか?
高橋旧体制での技術戦略会議においても、いろいろと工夫はしていたのですが、「技術が事業間をフリーフローで動き、共有されているか」、あるいは「目的に対し、全体が最適化されているか」という視点でみると、まだ十分ではなかった。
例えば、特定のエレクトロニクス関連の商品において、複数の事業が、その中の部材に対してアプローチをかけるというケースがあります。それはそれで強みととることができますが、さらに踏み込んで、基盤技術や評価技術など、共有できるところはしっかりと共有し、競争力を高めるやり方がもっとあるのではないかと考えるからです。
諏訪他の会社では、社内間とはいえライバル関係でもありますから、協力し合うモチベーションを維持していくのが逆に難しいと聞いたことがあります。御社ではどのような工夫をされているのですか?
高橋特に工夫というわけではありませんが、成果として冒頭で質問していただいた新ヘルスケアという重点領域自体、社内のヘルスケア技術と素材技術を融合させた事業なので、まさにそれ自体が社内オープン・イノベーションの象徴なんです。
諏訪たしかにそうですね。単に横串機能として「社内オープン・イノベーションをやりなさい」、と言われてもなかなかベクトルが揃わないですが、全社として注力する融合領域が示され、それに合った推進体制になれば、細かいモチベーション云々の問題ではなく、社内オープン・イノベーションも強化されていくものなんだと理解できました。
高橋それはそうですね。基本的には個別の事業本部で自己完結しているところに、向こうの事業部と連携のテーマを探りなさい、ということではない。あくまでグループとして大きな戦略があり、そこに設定するフィールドがあるから、社内オープン・イノベーションもそういう領域で期待するということです。
「バリューチェーン内における企業対企業オープン・イノベーション」とは
諏訪次にもう1つの強化対象である、「バリューチェーン内における企業対企業のオープン・イノベーション」についても、詳しく教えてください。
高橋こうした考えは、今や帝人だけでなく、他社も同様の考えのもとすでに進め始めていると思います。しかし、特に弊社の場合は、主な商材が素材ということもあって、部材やデバイス、そして最終製品に至るまですべてを自前で開発するには、限界があります。
諏訪特に最近は、製品化に必要な技術も多岐にわたりますからね。
高橋ですから、成功する確率を上げるには、適切なパートナーとの間で、密度の高い共同開発を行うことに大きな意味があると思っています。
諏訪従来型の大企業と大学やベンチャーによる協業の場合は、大企業側の主導で開発を進める、という役割分担が明確でした。しかし、大企業同士での協業の場合、主導的な立場の企業が作ったコンソーシアム的なものに参加するパターンと、自ら主導で引っ張っていくという2つのパターンがあると思います。御社のスタンスはどちらになりますか?
高橋前者のコンソーシアム的なものの場合、民間だけで奔走することは実際にほとんどなく、官庁や大学が間に入ってくるケースが多い。私の中では最初に述べた「従来型のオープン・イノベーション」のイメージが、これに当てはまります。しかし、私が4つ目に挙げた「バリューチェーン内のオープン・イノベーション」とは、我々に匹敵するような大企業との間で行う1対1のオープン・イノベーションのこと。もちろんある特定分野における最先端の技術領域に特化した企業になりますが。
諏訪ではどちらが主導的な立場となるのでしょう?
高橋両方あると思っています。当然、自ら仕掛けなければ、ことが前に進まない場合もありますし、逆に相手から声がかかってくるケースもあります。今、こうしたバリューチェーン内における企業間の共同技術開発が増えてきているように感じています。
諏訪バリューチェーンの企業間でも、従来のような部材を供給するだけの関係にとどまらず、共同で新しい事業を形作り、新たな技術を創出していく、ということですね。
高橋それもオープン・イノベーション、という形で意識しながら進めてみてはどうでしょう、という考え方です。従来型の産官学のコンソーシアムなどで成果を上げるアプローチももちろん重要です。しかし、私としては、事業に結び付けていくためにも範囲をここまで広げて、幅広な定義にしたいと考えています。
諏訪これまでの自社のネットワークにない新しい技術を取り込むことができれば、新たなイノベーションを非連続で起こせる可能性が増えますよね。そういう意味では、これまで事業上の付き合いはあっても、一緒に開発をしてこなかったバリューチェーン内の企業と一緒になって開発を行うことも、まさに「オープン・イノベーション」ですね。
オープン・イノベーションの鍵:トップダウンのテーマ選定、「何をクローズにするか」の意思決定、そしてアンテナ
諏訪しかし、明確に事業を意識して、企業間で面と向かって共同開発を進めていくというのは、研究者が従来から得意としてきたスキルとは異なるため、最初の連携の構想はもちろん、どの領域でどこと組むべきかという判断においても、難しさがあるように思えるのですが…。このような新しい形のオープン・イノベーションを成功させるうえで、何が鍵となるのでしょうか?
高橋1つ目の鍵は、自社の技術に強みがある領域において、「トップダウンで戦略的かつ選択的に進める」ということです。まずは事業戦略があり、それを推進する体制があって、そこに関係する知的財産の戦略もあったうえで、進めることになります。
しかしこれは、自社によほど大きな計画、あるいは、相当強い技術があってこそ成立するもの。最終的なソリューションとして花開かせるためには、自社だけでなくパートナー企業の存在も不可欠です。これらの条件が揃った場合にのみ、このようなスキームが有効に働くので、全ての局面に適用できるわけではありません。
諏訪つまり、重点的に狙いたい事業や市場に、自社の技術を照らし合わせ、明らかに不足する技術やスキルがある場合は、一から自前で開発するか、その領域でパートナーに働きかけるかを考える、ということですね。
高橋まさにその通りです。その大前提として、自社に競争力のある技術を保持していていることが重要になりますが。
諏訪相手に「ぜひ組みたい」と思ってもらえる卓越した技術がなければ、相手としても、「別に、帝人さんと組まなくても他と組めばいい」と思われてしまいますからね。
高橋それを実現させるには、自社にそれなりの技術レベルと開発の陣容があること。そして、現在の主要商品を強化すること。あるいは、新たなソリューションを生み出すうえでの方針と、必要な技術が明確にあってこそ、初めて、オープン・イノベーションが成り立つのです。もちろんこれは、1対1のバリューチェーンにおける企業間連携に限ったことではありません。例えば、産官学連携にしろ、ナインシグマのような技術仲介事業者とのオープン・イノベーションにしろ、競合との連携にしろ、すべてのオープン・イノベーションで共通しています。
諏訪言われてみれば、かつてナインシグマがお手伝いさせていただいた、御社のナノ繊維、ナノフロントのメディカルデバイス用途での、医療機器メーカーとのパートナーシップは、まさに、バリューチェーン内の企業対企業連携ですよね。しかも、御社が新ヘルスケア領域として大きな計画を立てている領域で、かつ、御社が独自の強みを持つ技術で実施した、オープン・イノベーションの実践例ですね。
高橋まさに、そういうケースです。
諏訪弊社では以前より、多くの材料メーカーの皆様から、「自社の独自技術をもとに、新しい領域で他の大手企業とパートナーシップを組んで事業展開したい」という要望をいただいてきました。ところが我々としては、技術ニーズではなく、技術シーズを出発点とした企業対企業のパートナーシップを築くうえで、相手が見つかる確率を上げられず苦労していたのです。しかし、御社とのプロジェクトが成功率を高める大きなヒントになった…。
高橋うちが、新ヘルスケアの計画をもとに、自社の強みと連携したい領域を明確にしたことが効果的だったと?
諏訪その通りです。「人工血管」「DDS基材」などの明確な事業化領域と、そこにおける御社の技術の強みを相手に対して的確に伝えられたので、先方も事業化をよりイメージすることができたのだと考えています。御社にとっても力を入れて進めることができたのでは、と思っておりますが。
考えてみれば、御社では新ヘルスケアの融合領域を示す際においても、社内のオープン・イノベーションですら、トップダウンで方向性を示していますね。これには私自身とても共感しています。時々、オープン・イノベーションについて、全部現場任せにしようとする企業がありますが、その場合、現場が大混乱になるか何も動かないかのどちらかです。あらためて御社のお話を伺って、トップが活用すべき領域を明確に示すことが、成功への鍵だと再確認しました。
高橋その通りです。2つ目の鍵は、これも社内オープン・イノベーション以外の、すべてのオープン・イノベーション活動に当てはまりますが、「何をクローズにするか」ということです。
諏訪オープン・イノベーションの本質に迫る話ですから、ぜひ詳しくお聞かせいただけますか?
高橋自社のやりたいことを開示するということは、なにがしかのリスクを生む可能性がある。これは、従来型の産学官連携でも同じです。
諏訪「競合と組む」という場合は、なおさらですよね。
高橋ましてやです。経営トップも含めて、あるいは場合によっては現場に至るまで、オープンなマインドと姿勢が浸透しなければ、オープン・イノベーションは広まりません。しかし、オープン・イノベーションの浸透を妨げるのが、この「なにがしか」のリスクなのです。
諏訪では、どうしたらよいのでしょう。
高橋以前、どうすればオープン・イノベーションがもっと広まるのかと、帝人の独立社外取締役を務める妹尾先生と議論したことがあります。その際、「何をクローズにするか」という重要なヒントをいただきました。
諏訪クローズにするものを考えるというのは、つまりリスクの範囲を明確に限定するということで、それが限定され、かつ明確になると受け入れやすくなるわけですね。
高橋そう、そこが、やはり鍵なのですよ。オープン・イノベーションというのは、丸裸でどうぞ、というわけではありませんから。
諏訪確かに全然違いますね。
高橋産官学連携でも開示しないコアの部分があり、そのコアをベースに共同開発を行います。ナインシグマの募集の事例で考えると、狙いや求めるスペックの一部を開示したうえで「あなた方はどうですか」と働きかける。バリューチェーンでの共同開発でも、競合との協業でも同じことが言えます。
諏訪オープンにするところと、クローズされた状態で自社開発し続けるところの「仕分け」が重要ですね。
高橋そこは当然、経営レベルでの判断が入ってきます。そういう意味でも、2つ目の鍵に重要なのは、「何をクローズにするか」という意思決定を、「経営者が下す」ということですね。
諏訪その部分をトップ主導で判断する会社でないと、オープン・イノベーションが浸透しない、というのは全く同感です。
高橋3つ目の鍵は、素材系もそうですしヘルスケア系もそうですが、オープンにすべき領域で、情報や協業先などを得るための「アンテナをいかに立てるか、そのレベルをどう引き上げていくか」ということ。ナインシグマもアンテナの一つだと考えています。
諏訪そうですね。ホームページでも説明されていますが、素材やヘルスケア関連の研究者と取り組むネットワーク構築や、研究者育成を目的とした「帝人21世紀フォーラム」、そして、各専門分野の大学の先生と若手研究者が将来の技術について議論する「帝人技術アドバイザリー会議」なども、そうしたアンテナの一つというわけですね。
高橋そうです。正直申し上げて、他の競合会社は、アンテナづくりに物量を投下して、ものすごい力づくで取り組んでいます。
諏訪そこは御社としても、もっと強化していこうとお考えなのですね。
高橋ええ。競合は格好のベンチマークになっています。国内だけでなく、最近ヘルスケア系だとインドが伸びていますが、インドに限らず、欧米も含め、海外を広くカバーするということです。
諏訪そこは我々が得意なところですから、引き続きぜひ。(笑)
高橋ナインシグマさんはもちろん、弊社にはオランダにも拠点がありますので、そこを起点としてヨーロッパ内に仕掛けるなど、まだまだ進め方はあると思います。
諏訪今後の活躍が期待されますね。オープン・イノベーションについて、とても貴重な話をお伺いできました。
重点領域としての新ヘルスケアにおける「社内オープン・イノベーション」「バリューチェーン内の企業対企業オープン・イノベーション」「クローズにする領域の設定」など、御社のオープン・イノベーション活動をみると、トップが方向を示してリードすることが鍵であるなど、読者にとっても、オープン・イノベーションについての考え方をより深めることができたのではないかと思っています。本日は貴重なお話を、ありがとうございました。
高橋こちらこそ、ありがとございました。
PROFILE: 高橋 卓(たかはし たかし)
1976年3月 東京大学理学部 卒業
1976年4月 帝人株式会社 入社
2007年6月 帝人グループ執行役員
2010年6月 帝人グループ常務執行役員
2011年6月 帝人グループ専務執行役員
2012年4月 技術最高責任者(現任)
2012年6月 取締役専務執行役員(現任)