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カスタマーボイス vol.1
関西電力が、ドイツ系ベンチャーの「自動走行制御技術」を活用し、事業開発に挑戦中。 世界初、時速5kmの都市型モビリティサービス『iino』は人々の『まち体験』をどう変えうるのか。

関西電力株式会社
経営企画室 イノベーション推進グループ

嶋田 悠介さま

 

今回、ご紹介するのは、オープン・イノベーションを通じて新しいモビリティサービスの創造に挑む、関西電力株式会社様の「iino(イイノ)プロジェクト」です。iinoは、時速3kmから5kmでゆったりと自動走行する新しいモビリティ。

 

一般的にはスピードや利便性が求められるモビリティビジネスですが、関西電力のiinoプロジェクトは移動そのものの価値を再定義し、移動中に得られる体験や情報をもとにマネタライズするビジネスモデルを構築しようとしています。

 

このプロジェクトの発足人でありプロジェクトリーダーの嶋田さんは、時速5kmの自動走行を実現させるため、ナインシグマを通じてグローバルな技術探索を実施し、今、まさにプロジェクトは共同開発のための実験フェーズに差し掛かっています。今回は嶋田さんと、ドイツから来日中のパートナー企業であるベンチャー企業の経営陣の方々に、このプロジェクトの概要と今後の展望、また期待されていること等について、お話を伺いました。

 

ーこれまで聞いたこともない、大変ユニークな乗り物だと思います。なぜ、時速5kmなのでしょうか?

 

乗り物というよりも歩行者専用エリアにある「動く、動く歩道」という理解のほうが分かりやすいし、柔らか頭になれるとおもっています(笑)。

子どもの頃、ゆったりと街を回るゴミ収集車の後ろに立ち乗りをして、自分の好きなタイミングで乗ったり降りたりしているお兄さんを、羨ましく思ったことがありませんか?

そういった原体験に近い部分から着想を得て、歩行者と共存しながら走行する都市向けの「次世代モビリティ」を作りたいと考えたのです。街中をゆっくりと流れるように走るiinoは、乗りたい時にさっと乗り、降りたい場所でスムーズに降りることができます。

 

■次世代型低速・短距離モビリティiino

ー電力会社である御社が、既存ビジネスとは全く異なるプロジェクトを始めたきっかけは何ですか?

 

このプロジェクトは、実は、正規のビジネスラインから生まれたものではありません。我々も含めて、多くの日本企業がイノベーション創出に苦労しているのを目の当たりにしていたこともあり、これまでのやり方に捉われず思い切ったやり方で取り組んでみたいと思い、業務外でプロジェクトを組成しました。その際、関電グループ内の若手ネットワークである『k-hack』のメンバー等に声をかけ昨年の春から業務外プロジェクトとして始めました。

ー業務外のプロジェクトが、社内公認の新規事業となる。なかなか簡単にはいかないことだと思います。プロジェクト化はどのように進めてこられたのですか?

とにかくオフィスから外に出て、街を歩く人や店舗、タクシーの運転手さんなど観察し、たくさん話をしました。また、世の中の新しいモビリティにも実際に多数乗ってみました。さらに、社外の事業化経験が豊富な方々が集まる場所に顔を出し、自分たちのビジネスコンセプトに関する評価と意見を徹底的に集めました。

また、これらと並行して、社内でも自分たちの活動の理解者やさまざまな面でのサポーターとなってくれる人が現れ、様々なサポートが得られました。このサポートが本当に有難かったです。

その後、ある大学の構内を使って、実際に低速で走行するオープンな乗り物(市場を走るターレットトラックを活用)で実証実験を行ったのです。意外だったのは、そのとき参加してくれた被験者へのインタビューから出てきたコメントでした。

「(軽い腰掛けの状態での)時速7kmや8kmは意外と速くて怖い」
「乗ると、パッと視野が開けた感じ。こんなところに緑なんてあったんだ・・」
「時速5kmは遅いと思って乗ったけど、意外に風を感じて心地よかった」
「試乗車の上で景色を眺めながら飲んだコーヒーが、いつもよりも美味しく感じられた」というものでした。

歩いている速度で少し横を向いているのだから、いろんな気づきや発見があって当然ではないか・・と思われそうですが、コロンブスの卵のような感じがあり、このようなユーザーの意見や皮膚感覚には徹底的にこだわりました。

『歩いていても気づかないものに気づける』
『都市にいるのにいつもよりリラックスできる』

そんな感じをコアにして、いろいろコンテンツをこのモビリティの上で提供できないだろうかと考えるうちに、iinoでの移動を、従来の『目的地に速く移動することこそが最大の目的』ではなく『その空間、時間を特別にするための引き立て役』にしようというコンセプトが固まりました。

その後、このコンセプトを元に、モビリティデザイン、オープン・イノベーション用のwebページなどを、チームにジョインしてくれた社外の方々のサポートのもとで矢継ぎ早に作成し、社内でも研究開発段階の新規事業プロジェクトとなりました。

こうした若手主導のプロジェクトであっても、「とにかく失敗をおそれず挑戦しろ!」「小さくまとまるな。」という意識が今の関電の経営層やミドルのマネジメント層にあることが僕らの強みだとも感じています。

ー iinoでの移動はモビリティの価値を置き換え『空間や時間を特別にするための引き立て役』。きっとさまざまな、新しいビジネスの展望をお考えかとおもいますが?

自分たちは、この新規事業を関西電力の「新しい事業の柱にする」という思いで進めているので、収益モデルも難易度は高そうですが、従来の移動サービスと異なる、独自性が高く、スケーラビリティの高いものを志向しています。

構想段階ではあるのですが、乗客は、『運賃』のように、移動自体に対価を支払う必要はなく、その上でのコンテンツ課金や広告収入的なモデルの可能性を探っています。例えば、iinoに乗って知覚が拡がっている状態で店舗を通り過ぎるその時間は、店舗側が乗客に視覚・聴覚・嗅覚などの五感に訴えかけられるわけで、言わば「数秒間のライブ」になり得ると言い換えてもいいかもしれません。それはきっと、従来のプッシュ型の広告では味わえない体験ですし、また、漫然と歩いているときに同じ情報を与えられても、同様のライブ感は味わえないと予測しています。

たとえばこういう事なのです。

Iinoに乗車してゆったりとある店の前を通りかかる。店内の音やスタッフの声、店主の細かなこだわりのメッセージなどがiino上のスピーカーに流れ、同じタイミングでウインドウ越しに店のスタッフが手を振る・・。それだけで、これまでただ通り過ぎていたその店への印象が大きく変わり、入ろうかなという強い気持ちを醸成するでしょう。

その他にも少し裏通りに隠れてしまった店舗の集客には、街を回遊するiinoで移動販売や告知し、そのままお客様に乗車を促しながら一緒に店に戻る・・・なんていうアグレッシブな方法も可能になります。時速5㎞だからこそできる事なのです。

他にもまだまだアイデアはあり、時速5kmのゆるやかな風や浮遊感を利用したリゾート地におけるリラクゼーション系の「あっ」と驚くようなサービスも、ユニークで骨太なチームのメンバーたちが構想してくれています。いずれにせよ、『時速5km』のストロングポイントを存分にいかしたものになると思います。

 ー2017年、嶋田さんから直接ナインシグマに連絡があり、グローバル技術探索を実施されたと伺っています。なぜ、グローバルなスケールでのオープン・イノベーションを検討するする必要があったのでしょうか?

最初はね、もちろん自分たちでも探してみました。自動運転制御のソフトウェアを開発する企業は日本にも複数社ありますが、その多くは車を前提に開発されている時速10km以上のもので、歩行者との共存を念頭に置いたものではありませんでした。

ナインシグマのグローバルなネットワークなら、「時速5kmという速度に適した自動走行技術」が見つかると期待し、ナインシグマのヴァイス・プレジデントの松本さんに連絡しました。松本さんには、彼が大阪ガスでオープン・イノベーションをしていたときに色々とお話を伺ったことがあったのです。

技術を探索した結果、早いタイミングで世界中の十数社から提案が集まりました。これは、ある意味期待通りの成果でした。その中の何社からリモートでプレゼンテーションを受け、意見交換をしたうえで、今回来日してくれたドイツ系のベンチャー企業を共同研究のパートナー候補に選びました。海外ベンチャーとのこのようなやり取りは初めてだったのですが、ナインシグマの担当者の佐藤さんが細かくサポートしてくれたこともあり、ここまでスムーズに運びました。佐藤さんはもはやチームの一員という感覚です(笑)。

プロジェクトのため来日したパートナーと試作機上で。
右から二人目が嶋田さん、左端はナインシグマの担当(佐藤)

 

 

 

パートナーからのコメント:

最初にナインシグマから今回の技術募集について聞いた時、面白い!と思いました。このプロジェクトが実現すれば、日本だけでなくヨーロッパの街でも有益なイノベーションになりそうです。私たちもこのプロジェクトの実現に期待しています。

 

ーどのような企業と共同研究を行うのですか?

実は、ドイツ系のベンチャー企業なのですが、自動車のための自動運転技術を開発している会社ではなく、荷物をトラックからラストワンマイルだけ運搬するような自動走行技術や、建物内のエレベーターに部品を運搬する自動走行技術などを有している会社です。いくつかのヨーロッパの大手企業が、彼らの技術を導入し始めているようです。

彼らは、歩道や工場内を人や障害物をよけながら、低速で走る自動運転技術を実装レベルで持っているため、こちらの出した技術スペックにも問題なく対応できるとナインシグマからの打診を受けてすぐに応募をしてくれたと聞きました。

これから始める共同実験に備えて来日していただいたとき、試作機に乗って、iinoの世界観を体験してもらいました。短い時間であっても実際に会って、体験・共感してもらって、本気で議論できたので、次のステップには進みやすくなりました。

 

 

ー自動運転走行に向けた次のステップは、どのくらい進んでいるのでしょうか?

自動走行技術に関しては、まさに今回来日してくれているドイツの事業者と共同研究に関して詳細を詰めています。また、ほかにも、「モビリティと歩行者の共存」をテーマに歩行者にストレスを極力与えずに共存する方法を模索しています。例えば、モビリティ側から自らの走行ルートを、光や音を用いて、すれ違う対抗歩行者に伝えることで行動予測、回避動作を極力小さく出来るのではないかと考えているのです。

こういった工夫や、独自に開発した回避アルゴリズムを組み込んだ自動走行技術を搭載した状態で、早く実証実験を行いたいですね。動画でご覧いただいた様な現在の試作機は、あくまでも既存のモビリティを改造したものですから、歩行者が複数いるような環境では運転手が必要です。歩行者複数存在する空間でiinoが共存するためには、従来どおりの『クルマと人との関係性』とは異なる関係性を構築しなければならない、と感じています。

 

ー最後に、iinoプロジェクトの今後の予定について教えてください。

技術的・法的な部分や、収益モデルの構築など、まだまだ多くの課題が残されていますので、年明けからはじまるさまざまな場所での実証実験の中で、粘り強く、かつ逆転の発想でそれらを解消していきたいと考えています。

今回のこのプロジェクトは技術の解決策の提案を受け一歩前に進みましたし、必ず実現できるものだと信じています。「時速5 kmのインフラモビリティ」という事業は、電力の供給を通じて「まちづくり」に尽力してきた関西電力にとって必ずしも「飛び地」だとは考えていません。現に、都市開発案件に関する場でiinoの話が頻繁に出るようなっているのもその現われだと思います。

戦後、一般家庭に安定した電力供給を目指すため、7年もかけて黒部ダムの大変な難工事をあきらめずに成し遂げた、関西電力らしさを自分たちの世代も見習い、粘り強くこの事業の実現まで進んでゆきたいと思っています。ちょうど7年後は大阪万博です。

日本としては、東京オリンピックが日本の持つ技術やサービスのその可能性を世界に見せる場だとすると、万博はそれらをより改良し、実装したものを見せる場にしないといけないと思います。iinoに関しても単に万博に出展ということではなく、いくつかの街に実装されている状況までもっていかないと、全くワクワク感がないですよね(笑)。

本日は、グローバルなネットワークを活用した、オープン・イノベーションでなければ実現できない、魅力的なプロジェクトのお話しを聞かせていただきました。

どうもありがとうございました。

iinoプロジェクトはサイトでも詳しく説明されています。ぜひこちらからご覧ください