JR西日本(西日本旅客鉄道株式会社)様
- 鉄道本部 イノベーション本部 オープンイノベーション室/技術収益化・知財戦略 課長井上 正文様
- 鉄道本部 イノベーション本部 技術収益化・知財戦略 課長代理田中 恭介様
- 鉄道本部 イノベーション本部 オープンイノベーション室 課長代理吉川 智貴様
- 鉄道本部 イノベーション本部 うめきたPT四家井 祐一様
御社では「オープンイノベーション」をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
田中さん2つの方向性で、「オープンイノべーション」を整理しています。1つ目に、社内課題解決として、「オープンイノベーション」を使う「インバウンド型」、2つ目に当社が持つ知見や技術、アセットを、外部と共創しながら活用していく「アウトバウンド型」です。特にアウトバウンド型のアセット活用の具体例として、うめきたプロジェクトがございます。
ありがとうございます。それでは最初に、「アウトバウンド」の取り組みについて伺わせてください。
井上さん:「アウトバウンド」については、元々10-15年後の姿として描いていたものが、コロナの影響によって急速に加速させてきた感覚があります。「オープンイノベーション」というとインバウンドの一方向の矢印だけと思われがちですが、正確にはインバウンドで蓄えたものをアウトバウンドで共創していく、この両者が揃って「オープンイノベーション」が成立すると考えていますので、本来の意味で「オープンイノベーション」を実行するその立ち位置に立てたのかなという気がしています。
私たちには鉄道会社として解決しなければ課題があり、そのために検討してきたソリューションやノウハウがあります。アウトバウンドに関しては、その使い方に汎用性を持たせ、広くを社外にご紹介をしたら、お使いいただけるものがあるのだろうなという発想で進めていますね。鉄道は世の中の技術が組み合わさり、運行をしています。それが外部においても活用いただけるのではないかという考えです。共通課題を抱えている、生産性をもっと上げていきたいという声もお聞きしますので、そのようなご要望を受けながら、それがまとまっていくと新しい事業につながるのではないかと考えています。
なるほど。鉄道のことをよく知らない業界の方からは、御社がどんな技術を持っているのかがわからない部分もあると思います。どのようにアプローチをされているのでしょうか。また他社さんとお話をされる中で、こういうところが鉄道会社ならの強みだと感じる部分はありますか。
井上さん:動いているものがあればそれを維持管理しなければならないというのは、どの業界においても共通です。メンテナンスと言ったら鉄道だけでなく、輸送業界、工場を持っている業界の方にとっても非常に身近です。「鉄道ではこう使っている、製造業のラインの中で同様の課題があるのではないか」、そこに我々がやってきたことを当てはめた場合に、「こんな形で解決ができますよ」というような流れです。これまでお付き合いのなかった業界の方々が大半ですが、こちらから簡単な絵を描いてご説明をしながらアプローチをしています。
鉄道会社では色々なデータが日々吐き出されています。そのデータをサイエンティストがAIを駆使して解析をし、メンテナンスの効率化をはかっていこうとしています。自分達の中に「どうにかしなければ」という強い危機感があって、その中で生み出されてきたものなので、その思想や結果を説明すると説得力がありますね。また、多くのAIベンダー企業ではデータを自前で集めることが難しいケースも多い。弊社は自分たちのフィールドでデータを取れる点が、解析の精度を高める一因になっていると感じます。
技術を他で使ってもらうというのは、これまでの鉄道会社にはなかった、新しい取り組みになりますよね。
井上さん:これまでは、メーカーさんに外注をし、その結果を鉄道の技術として使うことしか考えられていませんでした。ですので、アウトバウンド型の取り組みは、社内からの見え方としても、当初は「一体何をしているんだろう」という感じだったと思います。今とはなっては「面白いことやっているな」という感じですし、経営課題の一つとして全社の中でも捉えていただけるようにいますね。
次に、「社外からのインバウンド」についてもお話を伺わせていただきたいと思います。インバウンド型の取り組みとして、協業パートナーを求めるコンテストを実施されています(ナインシグマも支援)が、コンテストを実施してみようと思われたきっかけ、期待はどんなところにあったのでしょうか。また協業先の選定のエピソードについてもおしえていただけますか。
田中さん:「オープンイノベーション」の取り組みに関して、まだ駆け出しの頃に始めたものでしたので、中小企業の方々に私たちの情報を開示して、広く技術を求めに行くという行為自体が、かなり斬新なものでした。ですが、扱うテーマが「次の時代のバリアフリー」といった社会性の高いものでもあったので、広く公募をさせていただくことにしました。真摯に考えてくださったことが伝わるアイディアばかりでしたので、選別の際に心を痛めるということはありましたが、要件に対して明確に応えていただいたところを1社選ばせていただきました。
これまで取引の無いところから協業先を選定する際には、難しさがあるかと思います。弊社ナインシグマのような協業マッチングのプロバイダーにどのようなことを期待されますか。
吉川さん:ナインシグマさんは、まさに一緒に汗をかいてもらっている「価値創造のためのパートナー」です。2018年頃から技術探索をする過程でご一緒させていただいています。パートナー探索のためのシート作成、その後プロポーザルのための企画書作成、事業部と連携しての仕様書作成を一緒に伴走して、進めてもらいました。この中から生み出したソリューションが何件もあります。
私たちがどう入り込むのが良いかがわからない中で、ご担当者にはかなりリードしてもらいました。アイディアの壁打ちもしていただきましたし、その結果をリエゾン(社内各部署に所属している「オープンイノベーション」の協力者)への啓発活動にもつなげていくことができました。
井上さん:パートナーとしてご協力いただくにあたり、ナインシグマさんには生々しいお話もさせていただいています。共感力が高く、一緒にやっていて楽しいと思える方にご担当いただいています。
現在は新規のプロジェクトを絞っているところがありますが、整理をして見直しをしなければいけない時期だとも感じていますので、私たちだけでは難しい案件については継続的に伴走をお願いしたいです。チームの一員となって関わってもらえるところは、非常に有難いですね。
今回、知的財産権制度活用優良企業(オープンイノベーション推進企業)として経済産業大臣表彰を受賞されています。今回の受賞ポイントはどこにあるとお考えですか
田中さん:「技術ビジョン」を打ち出して、その方針に従い、さまざまなテーマを立て、スピード感を持って実現を進めてきたことを、評価いただいたのではないかと思っています。そのような過分な評価をいただきながら、まだまだ一部の領域でしか成果を出せていませんし、社内においても、「オープンイノベーション」がまだ十分に浸透しきっている状態ではないと考えています。「オープンイノベーション」の重要性を実例を持って納得してもらうためのものとして、今回の賞を活用させていただきたいと考えています。
一方で、コロナ禍での危機意識と共に、ここまで自分たちが出来ているのだという意味で、チャンスであることを同時に伝えていきたいですね。それを、イノベーション本部が核となってやっていく、その具体的な手段がインバウンド・アウトバウンド双方の取り組みだと思っています。
興味深いお話をありがとうございました。最後に、今後どのように「オープンイノベーション」に取り組まれるのか、展望をお聞かせください。
吉川さん:「オープンイノベーション」は、アウトバウンド・インバウンドの二軸を両立して回していくことが大切だと思っています。
アウトバウンドについては、しっかりとKGI/KPIを立てながら各部署と連携をして、一つでも多くのアセットを生み出し、外部に活用をしてもらうこと。インバウンドについては、今後も、引き続き社内の風土として自ら探索して、自ら作り上げる実験がぐるぐる回っていくことを目指していきたいと考えています。これまでの積み重ねから「オープンイノベーション」を活用する仕組み自体は社内に出来つつあるので、リエゾンを経由してそのきっかけ作りをどんどん推進していきたいと思っています。「オープンイノベーション」を手段として使うのは、企業にとっては当たり前のことと考えています。
四家井さん:うめきた地下駅で「オープンイノベーション」実現の場を作り、いろんな事業者が集い、ものが出来ていく中で、新たな価値が生まれて、外に出すというという流れが出来ています。我々がそのロケーションを提供するので、使ってくださいという働きかけをすることで、自分たち自身も鉄道会社が持つアセットの魅力に気付かせてもらえるということがあります。「オープンイノベーション」の取り組みを自分たち自身が行うことで、新たな価値を創造できる企業になって、もっともっと外部に発信して、世の中の価値を上げていけたらと考えています。
田中さん:アウトバウンド型の最終目的は、非輸送分野での収益化だと考えています。そのミッションを、数十億-数百億の規模で実現すること。そのためには、それに至るプロセスを描き、我々が持っているアセットや技術を世の中に価値のある形で出し続けていくことが必要です。もたもたして機を逸するとか、相手から興味を持たれなくなったら終わりだと思っているので、付き合ってもらえる企業としての魅力を持ち続けることが大事だと思っています。
井上さん:「僕らと組むこと、つながること自体が「オープンイノベーション」です」というメッセージをお伝えしています。「私たちが持っているノウハウだけでは課題解決が出来ないのであれば、その先の企業さんを紹介するので、組んでみたらどうですか」と言ったような会話をすることもあります。話を聞いてみると、「外部と組まなくても、ありものシステムで解決できますよ」と言うこともあります。そういった話も、「オープンイノベーション」という視点で会話するからこそ生まれるものなのではないかと思っています。