”PFAS規制への対応は直近で解決すべき課題として、世界中の幅広い業界で取り組みが進められています。本調査では世界中で行われているPFAS規制に関する取り組みと課題に焦点を当て、PFAS規制対応の実情に迫ります。”
<世界で進むPFAS規制>
パーフルオロアルキル物質(PFAS)は、その優れた撥水性と非粘着性により、調理器具、食品包装、化粧品、家庭用製品、消防製品、塗料、コーティング剤など、様々な産業で長年にわたり使用されてきました。しかし現在PFAS化合物の安定性と分解されにくい特性により、環境および人間の健康に潜在的なリスクをもたらすことが、明らかになった結果、世界中で規制及び代替を進める動きが加速しています。
そこで今回の調査では、世界中で進められているPFAS規制への対応状況及び課題について、実際に製品に携わっているエキスパートにヒアリングし、技術的な課題について意見を出してもらいました。ナインシグマ独自の業界エキスパートコミュニティであるOIカウンシルを使って調査を行いました。
<調査方法>
調査内容: |
PFAS規制への対応に関する現状と課題 |
調査方法: |
OIカウンシルを使用した調査(業界エキスパートコミュニティへ質問を直接問いかけていただくサービス) |
調査期間: |
2024年6月 |
【質問】
Q1.あなたの業務やあなたが所属する企業・組織において、PFAS規制への対応を必要とする、あるいは対応を迫られている製品をお持ちですか?
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1,PFAS規制の対処が必要な製品がありましたが、すでに対応済みです
2,PFAS規制の対処が必要な製品があり、現在対応中です
3,PFAS規制の対処が必要な製品がありますが、まだ具体的な対応には着手していません
4,特にPFAS規制の対処が必要な製品はありません |
Q2.(Q1で選択肢2, 3, 4と回答した方)Q1でお答えいただいた製品のPFAS規制への対応はいつまでに完了する予定ですか?
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1,1~2年以内に対応予定
2,5年以内に対応予定
3,10年以内に対応予定
4,対応予定なし |
Q3. Q1でお答えいただいた商品について、具体的に教えてください。
Q4. Q1への回答で挙げた製品のPFAS規制に取り組む過程で、どのような課題が生じましたか、またはどのような課題が予想されますか?
<調査結果>
有効回答数:37件
■ 回答者の所属業界
■ 回答者の所属地域
PFAS規制については幅広い業界で対応すべき課題となっている
回答者の内訳をみると、PFAS素材の製造に関係の深い化学・材料業界からの回答が最も多い一方で、自動車やエレクトロニクス等PFAS素材を自社製品に使用する業界からも声が寄せられていました。PFAS規制の影響を直接的に受ける材料メーカーはもちろんのこと、材料の特徴を活かして製品開発を行っているメーカーも幅広く影響を受けていると言えます。特定の業界に留まらない大きな課題であることが改めて伺えました。また、環境先進国であるヨーロッパの他、インドや台湾といったアジアからも同数程度の意見がありました。
回答者の大半が1~2年以内にPFAS規制への対応を完了すると回答
Q1の回答結果では自社製品におけるPFAS規制への対応を実行済みとの回答は、約1割にとどまり、多くの組織で現在進行中の課題であることが伺えました。
また、PFAS規制への対応が完了していないと回答した方(Q1で選択肢2、3と回答した方)については、Q2でいつまでにPFAS規制への対応を完了するか質問しました。
結果、回答者の約6割が「1~2年以内に対応を完了する予定である」と答えており、PFAS 規制への対応については、直近に対応するべき緊急の課題であることが伺えました。
Q1. 貴社はPFAS規制への対応を必要とする、あるいは対応を迫られている製品をお持ちですか?
Q2. PFAS規制への対応をいつまでに完了する予定ですか? 「Q1にて選択肢2および3を選択した方を対象に質問を実施」
精密機器や安全性に大きな影響がある製品を中心にPFAS規制への対応に遅れか
Q3では、Q1で挙げてもらった製品について、具体的な製品事例を回答頂きました。
以下では、PFAS規制への対応段階ごとにピックアップした製品事例をご紹介します。
対応状況を見てみると、特に精密機器や安全性に関わる部品においてPFAS規制への対応に時間がかかる傾向が見られ、製品への影響を最小にしつつ代替えすることの困難さが見えます。
■ PFAS規制について対応済み |
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- 自動車の座席やカーテン等(UK、自動車会社、R&D)
- ピペットチップ、バイアル等の実験器具(ドイツ、化学・材料会社、R&D)
- グルコースセンサーの表面コーティング(スペイン、製薬会社、Sales)
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■ 1~2年以内に対応予定 |
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- 輸送用コンテナのコーティング(USA、Logistics & Supply Chain、R&D)
- 自動車の油圧機器(インド、自動車会社、R&D)
- グルコースセンサーの表面コーティング(スペイン、製薬会社、Sales)
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■ 5年以内に対応予定 |
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- 可燃性液体火災向け消火剤の主成分(大韓民国、化学・材料会社、R&D)
- DICチップの製造工程で界面活性剤(台湾、化学・材料会社、R&D)
- 石油・ガス施設の配管用のコーティング(イギリス、石油・エネルギー会社、Engineer)
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■ 10年以内に対応予定 |
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- 航空機に使用されるアルミ材料の腐食防止用の塗料(イギリス、産業オートメーション&ロボット、R&D)
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PFAS規制への対応について、大きく分けて4つの観点で大きな課題が見られる
Q4ではQ1で挙げてもらった製品について、PFAS規制への対応においてどのような課題があるか回答頂きました。回答内容を分析すると、以下4つの観点からの結果が多かったです。
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- 性能の低下
- コストの上昇
- 製品中のPFAS特定・検知
- 規制の不確実さ
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代替による性能低下とコスト上昇のバランスに多くの懸念
最も回答が多かったのは代替による性能の低下への懸念であり、次いで代替によるコストの上昇への言及が多くなっていました。
これら2つの観点のいずれにも言及している組織も多く、性能低下とコスト上昇のバランスを満たす適切な代替品探索の困難さが伺えます。
■ 性能の低下
代替品について、一部の性能がPFASより劣るという意見や、性能の低下により安全性に懸念が生じているとの意見がありました。
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- 危険な環境や、深海のような非常に過酷な環境条件下向けに使用していたPFAS代替したい際に、安全性に影響を与えない代替品を探すことが困難(イギリス、石油・エネルギー会社、Engineer)
- 代替候補の物質は、現行品と比較し耐熱性は十分だが、シール性が不足するなど単純な置き換えが可能な代替物質が見つかっておらず、より包括的な対応が必要となっている(日本、化学・材料会社、R&D)
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■ コストの上昇
代替素材自体のコストがPFASより高い、代替を行うための素材の取り換えや製造工程の変更などでコストがかかるといった点が挙げられていました。
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- PFASフリー素材への移行は、製造コストの上昇につながる。代替材料や新しい製造工程は高価格になることが多く、生産予算全体に影響を与えます。(スペイン, 製薬会社、Product Management)
- PFASを段階的に削減し、より安全な代替品で製品を改良することは、製造業者にとってコストがかかる(アメリカ、化学・材料会社、R&D)
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PFAS規制に製品が準拠しているかモニタリングする技術に課題
PFAS規制に製品が準拠しているかモニタリングが必要となっており、そのために必要な製品中のPFAS特定や検知を行う技術に関して課題が生じていると複数の組織よりの意見が挙げられていました。
■ 製品中のPFAS特定・検知
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- PFASは大規模な化学物質群であり、PFAS規制への準拠ができているか、様々な製品に使用されている特定の化合物をすべて特定することは困難である。(イギリス, 再生可能エネルギー・環境会社、R&D)
- すべての部品と材料が最新のPFAS規制に準拠していることを確認するためには、継続的な監視とテストが必要であり、その遵守を確認するため作業負担が増加している。(スペイン、産業オートメーション&ロボット、R&D)
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PFAS規制事態の不安定さに起因した課題
技術的な課題だけではなく、PFAS規制事態への言及も複数あり、特に地域ごとの規制の差異やPFAS規制の更新の速さなど、規制の不確かさに起因する課題が挙げられておりました。
■ 規制の不確実さ
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- PFAS規則は絶えず変化しているため混乱が生じ、明確な遵守ルートを定めることができない。この曖昧さは、長期的な戦略的決定を下す能力を制限する。(パキスタン, 自動車会社、R&D)
- PFAS規制は絶えず進化しており、最新の法的要件に対応することは企業にとって困難である。(イギリス, 再生可能エネルギー・環境会社、R&D)
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<まとめ>
今回の調査ではPFAS規制への対応について、安全性の担保やコストの上昇、複雑なPFAS規制の対応の困難さなど、多くの課題が生じていることが分かりました。一方で、半数以上の組織が1~2年以内に対応を完了させる予定であると答えており、上記の課題については多くの組織が緊迫した問題であると捉え、積極的に取り組んでいる現状が見えてきました。PFAS規制への対応は国内でも進められていますが、海外の切迫感と比較するとその対応は一歩遅れていると思われます。環境規制で世界をリードしてきたヨーロッパからの意見だけではなく、アジアからも同様に喫緊で対応するという意見が多かったことも今回の調査の特筆すべき結果だと考えます。国内企業については、このままではグローバル動向に取り残されると危機感を持ち、PFAS規制についてより優先度高く、よりスピード感を持って対応していくことが必要ではないでしょうか
PFAS規制への対応について、幅広い業界でどのように対応が進められているか、またその課題は何か、などを実際に取り組まれている方から直接聞くことで、より切迫感のあるリアルな最新状況を把握できたのではないでしょうか。様々な業界エキスパートが所属するグローバルなOIカウンシルというコミュニティでは、このようにホットな技術テーマや規制対応に関して具体的な実経験を持ったエキスパート達から生の声を聴くことが可能です。またPFAS代替品のように技術的にハードルの高い技術探索についても支援することが可能でございます。PFASなど規制関係の調査や難易度の高い技術探索については多くの支援実績がございますので、是非お気軽にご相談ください。
関 真太郎
事業部 アソシエイト(ヘルスケア・CPG) |
- <担当プロジェクト>
・大手食品メーカーに対する新規事業領域における共同研究先の探索支援
・大手食品メーカーに対するヘルスケア領域での新規事業開発支援 など
- <略歴>
東京大学大学院にて植物ホルモンに関する研究を推進後、大手食品メーカーにて食品開発業務に従事。ナインシグマ参画後は食品・ヘルスケア領域を中心に、共同研究開発のパートナー探索やマッチングを支援
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