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特徴的なオープンイノベーション事例⑩[番外編]:材料開発におけるデジタル技術導入の波

前回、化学・材料メーカーにおける技術探索型オープンイノベーションの事例をご紹介しましたが、今回は番外編として、化学・材料の新しい研究開発対象として注目される「マテリアルズインフォマティクス」に関して紹介いたします。

Society 4.0からSociety 5.0へ

情報社会または情報化社会とも呼ばれるSociety 4.0では、デジタル技術、通信技術、情報ネットワークが大きく進歩を遂げました。その結果、情報関連産業や関連技術の成長のみならず、日常生活にまで浸透してきました。そして、これからは超スマート社会と呼ばれるSociety 5.0の時代へ突入していきます。

情報化社会では、現実空間(フィジカル空間)にて断片的に利用されてきた情報や知識(共有されにくく、個々の繋がりが不十分)が、現実空間と可能空間(サイバー空間)を利用したデータ・情報のやり取りによって、必要な時に必要な情報が得られるようになります。これを実現する為の重要な技術が、あらゆる情報の蓄積(ビックデータ)と人工知能(AI)によるデータ解析となります。この様な超スマート社会が実現すれば、社会システム最適化による経済発展と社会的課題の解決を両立できると言われています。

 

化学業界、材料開発での取り組み

では、様々な業界の中で、ビックデータとAI技術はどの様に活用されている、または活用が検討されているのでしょうか。自動運転車の開発、スマートシティの実現、生産工場のオートメーション化、RPA (ロボティック・プロセス・オートメーション)を用いた事務作業などの業務自動化、…直ぐに思いつく事例もあるかと思います。

化学業界、特に上流の石油化学系に近い、バルクでの製品製造が可能なプラントにおいては、IoTという言葉が普及するはるか昔から自動トラッキング、自動制御が導入され、省人化が進んでいます。(化学と言えるかは別として製鉄業界でも1970年代から自動化の取り組みが進められています)

一方で、同じ化学業界でも特に機能性化学品の研究開発・製造に関しては、非常に多くの製品を取り扱い、それぞれの製品もわずかな違いとなる等の理由から、ビックデータとAI技術に対する取り組みが非常に遅くなっています。

少量多品種製造が必要という理由以外にも、有機系機能性材料では、化学合成によるポリマーが製品の主成分であること、主成分以外にも多数の添加剤を加えることなどが、特に研究開発部分におけるビッグデータの収集、AI技術の導入を難しくしている要因の一つと考えられます。一方、化学系に比較的近い、高分子医薬品(バイオ系)の研究開発、あるいは合金など金属や無機材料の研究開発には10年以上前から少なくとも「計算科学」系技術の導入が進められています。この差は、対象となる「主成分」が有する特徴の差が影響を与えていると考えられます。例えば高分子医薬品であるたんぱく質などはDNAという「設計図」を活用し合成するため、分子量自体は大きくはなる一方、その分子量・一次配列は1種類になります。(また、3次元構造は既に3次元構造が分かっている天然たんぱく質などのデータベースが活用できるため、1次配列から計算だけで予測する必要はなくなります。)無機系材料では、分子量という概念は適用できない一方、その原子の配列は規則的な並びとなるため、モデル化が可能になります。一方、有機系材料の特に2種以上のモノマーから構成されるポリマーでは、その分子量は一定ではなく分布となります。またその一次配列も基本的にはランダムであり配列も確定できません。(配列を制御した合成方法も検討されていますが、多くの場合価格的に製品への導入は難しくなっています。)1種類のポリマーの分子量・配列だけを見ても変数が多く、更に実際の製品では複数種類のポリマー・添加剤・溶媒の影響も考慮する必要があるため、有機材料開発への計算科学の導入は、現在のコンピュータ性能をもってしても、モデル化されたホモポリマーや低分子材料など限定的なものとなっており、蓄積されたデータ(ビッグデータ)がそもそもあまりない状態にあります。

 

MI技術の導入

その様な状況の中でも、近年、最も注目されているのが、マテリアルズインフォマティクス(MI)ではないでしょうか。MI技術は、特に材料開発の効率化に期待されています。

従来の材料開発は、実験による試行錯誤を基にした時間の掛かる手法が主であり、新規材料を開発するのに数年かかることもざらです(企業での研究開発では、数年も経たずにプロジェクトが終了してしまいますが)。研究者の経験や直感・センスに左右されると言っても過言ではありません。

この課題を解決し得る技術が、MI技術となります。MI技術は、過去の検証データや化合物データベース等の情報をAIを用いて解析、その解析アルゴリズムを用いて、目的化合物の推測や最適な製造ルート等の割り出すことができると考えられます。その結果、新規材料の開発の効率化に繋げられます。この様な活用法のみならず、市場データ等も取り込めば、中長期的な顧客ニーズに合わせた新規材料開発も対応可能になることが見込めると思われます。

成果に表れるには多少の期間を要すると思われますが、導入を検討しようとしている企業の方々は周囲でも聞こえています。実際に、三井化学、住友化学や三菱ケミカルホールディングスの他、旭化成や東レなど、主要ともいえる大手化学企業が導入を発表しています。それに伴って、データサイエンティストといった人材も必要となってきているようです。

今からでも考えていくこと、検討を始めていくことは重要です。オープンイノベーションの一環として、化学業界、材料開発にもデジタル技術は迫ってきています。データサイエンティストは獲得が難しい人材になりますので、例えば緩やかな協力関係を目指したオープンイノベーションを活用し、検討を進めてみてはいかがでしょうか。

 

前述のように、特に開発テーマでは納期があること、実験による試行錯誤が必要なことから、緊急事態宣言下(2020年5月現在)においても化学・材料メーカー研究開発職の完全在宅勤務は進んでいないという話もあります。マテリアルズインフォマティクスが実用化されると、現場で手を動かさないといけない研究開発職の働き方改革が一気に進む可能性にも期待ができます。

 

齊藤 隆一
ナインシグマ・アジアパシフィック株式会社
東京大学/工学系研究科 修了、JSR株式会社・株式会社東芝を経て、ナインシグマ入社

 

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