ナインシグマ・グループ
顧問 渥美 栄司
先週、先々週と2週に渡り、”いのち”に関する社会課題への非営利団体・行政による取り組みの事例として、「AIDSワクチンの事例」と「オピオイドの事例」をご紹介しました。
今週は、”いのち”に関する社会課題解決のためのオープンイノベーションを行う際に重要となる、「課題の設定方法」ご紹介します。
極端な技術テーマを。
前回ご紹介した「AIDSワクチンの事例」と「オピオイドの事例」は、どちらも「”いのち”を守る」というテーマで実施されたオープンイノベーションです。しかし、それぞれで募集した技術テーマは、非常に極端であり、対照的な事例であったといえます。AIDSワクチンで募集した技術は、「タンパク質を安定化させるエンジニアリング」という最小まで専門分化されたものでした。一方、オピオイドの件では、具体的な技術ではなく、オピオイド中毒対策に纏わる解決手法とそのアイデアが求められました。
AIDSワクチンの事例のように、最小まで技術を専門分化した場合、HIVやワクチンといった領域に捉われることなく、異分野の研究者や技術者にもリーチすることができました。オピオイドの事例のように、「現在進行形の課題をいち早く緩和させたい」という場合は、あえて専門分化せず、上位概念の目的にスポットを当てて、一般市民にアイデアを求めるという手法が適していました。
社会課題の解決に向けたオープンイノベーションを実施する際には、技術テーマを「最小」まで掘り下げるか、「最大」のまま掲げるか、どちらか極端に設計することをお勧めします。そのために、プロジェクト発足時に、「社会課題の大きさ」や「解決の優先順位」、煩雑に絡む「二次課題や三次課題」を客観的に分析してください。そして、ぜひ大胆に、技術テーマを設計していただきたいと思います。
“いのち”を守る手法は、「創薬」や「治療」に限らない。
「”いのち”を守る」という分野において、「創薬」や「治療」が抜本的な解決策であることに、変わりはありません。しかし、解決策はそれだけにとどまらないという点も、ぜひ知っておいていただきたいポイントです。製薬企業も、「創薬」というビジネスから飛び出して、「予防」や「予後の改善」、「デジタル技術の活用」といった新しいイノベーションに挑戦の幅を広げています。オープンイノベーションが最も進んでいる業界・分野だけに、他業界ではみられないユニークな成功事例がみられます。”いのち”を守る分野におけるオープンイノベーションは、今後もさらに多様な形で実現していくでしょう。私たちナインシグマも、グローバルで蓄積してきた知見とノウハウを活かし、この大きな社会課題に挑み続けたいと思います。
これまでオープンイノベーションの新潮流 第1回から第4回は、社会課題などの壮大な課題に対するオープンイノベーションを用いた取り組みをご紹介してきました。
一方、私たちの身の回りにも製品の開発・製造にも、多数のオープンイノベーションが活用されています。
次回は、オープンイノベーションの新潮流 第5回として身の回りの製品におけるオープンイノベーションの活用例をご紹介します。