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オープンイノベーションの新潮流
第3回「日本の社会課題にも、オープンイノベーションを活用する ②」

ナインシグマ・グループ
顧問 渥美 栄司

ナインシグマのグローバルネットワークの事例からオープンイノベーションの応用編を紹介する「オープンイノベーションの新潮流」。第3回は、日本国内における事例を3週に亘って紹介します。

第2週目は、実際にどのようにプロジェクトをすすめたのかをご紹介します。

 

課題選定。これが、すべて。

プロジェクトの出発点として、まず大成建設より「建設現場における課題」を拠出してもらいました。

どのような作業を自動化すべきか。課題選定にあたり配慮した点は、大成建設のみが抱える課題ではなく、建設業界全体が抱える課題を探り当てることでした。また、ゼロから新たな技術を開発するとなると、時間もお金もかかります。そのため、中小企業が有する既存技術で解決できる課題かどうかを検討する必要もありました。

議論の末、決定した技術テーマは『ダム建設現場における、ローリング型枠工法の施工に要する足場のロボット化』です。大成建設では、ローリング型枠工法という新しい型枠移動の工法を研究開発しており、実現すれば建設現場の生産性向上や安全性向上に大きく寄与します。しかし、この新型枠移動の前作業として「型枠に設置された足場一つひとつをクレーンで吊り上げ、別の型枠へ移動する」という課題が残っていました。これは、作業者の工数確保が不可欠な上、落下のリスクを伴う危険な作業であり、作業者の安全性も懸念されていました。そこで、『ボタン一つで足場が隣の型枠に移動する機構を開発する』という技術テーマを設計し、その技術を有する共同開発者を募集しました。

 

 

※コンテストの詳細

ロボットコンテスト!建設現場で活用可能な横移動式ロボット』

 

 

この技術が実現すれば、全国のダム建設現場で必要不可欠なものとなるでしょう。しかし、非常にニッチな分野であったため、独自開発に乗り出す事業者がいなかったのも事実です。実は、そこにオープンイノベーションを活用する価値があるのです。技術分野としてはニッチであっても、多くの人を幸せにできるテーマであれば、課題に共感する協働者を集めることができるのです。

今回、共同開発者は、コンテスト形式で募集しました。「プロジェクトの目的・概要」、「求める技術テーマ」を要項にまとめ、ナインシグマの中小企業ネットワークに広く発信しました。予想を上回る数の企業から提案があり、ナインシグマと大成建設による書類選考の末、4社が提案プレゼンテーションへ、うち2社が詳細設計のフェーズに進んでいます。

その1社は、東京都墨田区に拠点を構える株式会社浜野製作所です。金属金型の製造やプレス加工を得意とし、装置・機械の設計開発、製造を手掛けています。差別化戦略として、大手企業が受注したがらない「多品種・少量生産」に取り組み、細やかな顧客ニーズに独自の技術で対応しています。一品一様な建設現場のロボット開発に、その柔軟性が活かされています。

もう1社は、北九州市八幡西区の株式会社石川鉄工所です。部品の製作・修理を得意とする企業ですが、その技術を駆使し、さまざまな新規事業に取り組んでいます。下水管検査ロボットを独自に開発し、ものづくり日本大賞を受賞した経歴もあります。受注生産型のビジネスから、自社製品率50%以上のロボットベンチャーへ。ビジネス進化を遂げている最中です。

 

日本の中小企業は、大企業では事業化できないニッチな技術分野に強いという特徴があります。実は、産業構造の中で、これほど中小企業の層が厚いのは、日本とドイツしかありません。ドイツではマイスター制度に象徴されるように、中小企業や職人は尊敬の対象であり、「職人が技術を提供することで社会が成立している」という考えが深く根付いています。日本もまた、伝統的なものづくりの国です。今一度、その誇りを見直し、中小企業の価値を社会に還元していくべきです。そうした意味でも、今回、詳細設計に進んだ2社には大きな期待を寄せています。コンテストの進捗や完成した技術に関しては、今後も追って紹介していきたいと思います。