前回は、欧米で利用が広がるイノベーションマネジメントプラットフォームの概要と主要なベンダーについてご紹介しましたが、今回は具体的な活用事例と導入を検討する際の注意点についてご紹介します。
3社の活用事例
1.BERNINA 事業部の壁を越えた新製品のアイデア活動 (Platform : Hype)
BERNINAはスイスに本拠地を置く、創業120年を超える老舗のミシンメーカーです。いまの時代には消費者を驚かせる革新的な製品が必要だと考え、社内では常に新しいアイデアを募集していました。しかし、体系化されたアイデア収集プロセスがなく、従業員は投稿したアイデアが無駄になっていると感じていました。ある従業員は、同じアイデアを3回投稿したが、会社からは何のレスポンスも無かったと不満を口にしたほどです。
そこでまず、現状のアイディエーションプロセスを見直し、プロセス全体の最適化と透明化をすることで、従業員から信頼されるプロセスを作りました。新しいプラットフォーム上では、全社の10部署から異なるスキルを持つ50人のエース社員が参加し、革新的な製品作りに取り組んでいます。
成果のひとつに、「Skin Designer」という新製品があります。これは、「ユーザーが好きな写真やデザインなど多様なskinを張り付けてカスタマイズできる」もので、品質保証部門の社員が休日にアンティーク家具を見たときに思いついきました。投稿して1週間で、7つの部署から45回ものレスポンスがあり、アイデアはどんどん磨き上げられ、最終的に製品化に成功しました。これまでプラットフォーム上で、200以上のアイデアと2つの新製品が誕生し、現在さらに2つの製品が発売間近にあります。
BERNINA Skin Designer
2.GE ecomagination challenge (Platform : BrightIdea)
GEは、VCと合同で、現在のエネルギーネットワークを改善する革新的なアイデアを、コンテスト形式で募集しました。
ここから12のプロジェクトが生まれ、GEはこれらに予定を上回る5500万ドルもの投資をしました。約10週間の募集で150ヵ国7万人の参加し3844のアイデア投稿と、選考の際には12万人が投票するという大きな規模でした。また、この活動は現在も継続されており、ナインシグマのUSオフィスもこの活動に協力しています
NineSights: https://ninesights.ninesigma.com/web/ecomagination-challenge
3.POLARIS 新製品アイデアの社内募集 (Platform : Spigit)
POLARISは、小型のオフロード車両や電気自動車などを販売しているアメリカの会社です。新製品開発のためのイノベーション活動を行っていましたが、大部分がマニュアルで全体の把握ができておらず、活動のコストが高く、時間がかかり過ぎることに不満を持っていました。
こうした課題の効率化を目的に、Platformを導入した結果、アイデア創出から事業化までの時間を80%削減できました。
さらに、この活動によって、全米ベストセラーの4つのオフロード車や、ライバルであ
るハーレーダビッドソンに先んじて電気スポーツバイク(VICTORY EMPULSE)も発売できました。
イノベーションマネジメントプラットフォームをうまく活用するために
ここまで、イノベーションマネジメントツールの良いところや成功事例をご紹介しましたが、すべての人にとって素晴らしいものは存在しませんので、導入する前に、自分たちの活動や組織、目的等にマッチしているかどうか検証が必要です。
ここで簡単に、導入前に検証すべき4つのポイントをご紹介します。
1:活動の量、範囲が十分大きいか
一般的な業務用ソフトウェアと同じく、導入コスト(ライセンス費用、使い方を習得するための時間等)がかかります。まだまだ活動の規模が小さい場合やスタートしたばかりといった状況では、導入コストの方が大きく、逆に非効率になることも考えられます。
2:ソフトウェアの選定
ソフトウェアだけ提供する企業、コンサルティングサービスに強みにする企業など、各社それぞれサービスに特徴があります。機能やサポート体制を検討して、自社に最適なサービスを選定する必要があります。
3:機密情報の取り扱い
ソフトウェアは、一般ユーザー、関連企業、従業員など、さまざまなな人が使用します。誤って従業員が機密情をアクセスフリーな場所に書き込む、それが全世界に伝わるということも起こり得ます。また、無自覚のうちに、実は機密であった情報を公開してしまう危険性も潜んでいます。ですので、社内の管理体制としてもソフトウェアとしても、セキュリティポリシーを守れるのかという点も導入のポイントです。
4:ツールはアイデアを生まない
イノベーションプラットフォームを活用することで、BERNINAのように異なる部署が協力して新製品アイデアを創造したり、GEのように数万人規模のコンテストが可能になったり、POLARISのように製品化活動のサイクルを高速化し、次々と新製品を生み出せるようになる可能性はあります。
しかしここで重要なのは、GEやPOLARISは、そもそもオープンイノベーション活動で成果を出しており、それをより広範囲に、より高速に実行するためにツールを活用したということです。また、BERNINAもツールの導入と合わせて、機能不全状態だったプロセスを見直し、改善を行っています。既存のイノベーション活動が機能していない状態で、ツールを入れただけで、突然クリエイティブなアイデアが生まれることはありません。
最後に
’イノベーション’のもつ自由なイメージと、’マネジメント’という言葉の組み合わせに、違和感がある方は少なくないでしょう。また、過剰な管理がクリエイティビティを阻害することもまた事実です。しかしここで管理・効率化されるプロセスは、個々人がクリエイティビティを発揮する場面ではなく、その後、速く・広くアイデアをくみ上げるためのプロセスです。
今回ご紹介したツールのみならず、日本企業が、イノベーション活動を観察し改善することに努めれば、もっと効率化することは可能ではないでしょうか。そもそも5ゲン主義と改善活動による効率化は、我々の得意分野のはずなのですから。