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オープンイノベーション実践者との対談(第10回)
株式会社小松製作所
執行役員 研究本部長
江嶋 聞夫

建設・鉱山機械分野で世界トップクラスのメーカーであるコマツ。ICTを武器に建設機械市場を席巻するコマツの次なる狙いとは───。
コマツ執行役員・研究本部長の江嶋聞夫氏に、コマツの強さの象徴とも言える「ダントツ商品」とその開発ストーリー、そして今後の展望について伺いました。

諏訪今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。対談では、コマツをはじめ建設機械業界を取り巻く現状について、また研究開発方針についてお伺いできればと思っています。どうぞよろしくお願いします。

江嶋こちらこそ、よろしくお願いします。

諏訪まずは、建設機械業界の現状についてお伺いします。御社の場合、手掛ける製品の耐用年数も長いため、市場環境の変化するスピードが他の業界と比べて大きく異なるのではないかと想像しています。こうした状況をコマツではどのように捉え、研究開発組織を運営されているのか教えてください。

ICTが建設機械の未来を拓く
商品開発からソリューション提供へ

江嶋コマツではかれこれ10年前から、「環境」「安全」「ICT」を開発のキーワードに掲げています。

諏訪すでに10年も前からICTをキーワードにしていたのですか?

江嶋そうです。現在の坂根相談役が当時の社長だった頃から、「環境」「安全」「ICT」を重点項目として、他社の追随を3年は許さない最新技術を搭載した「ダントツ商品」の開発やそのもととなる将来の研究を行い、燃費が良く環境に優しい安全で快適な機械を造ることを目標にしてまいりました。それを実現するための一つの手段として、ICT技術を開発テーマと捉えています。

諏訪建設機械の開発は、自動車である程度普及した技術を改良して取り込むというイメージを抱いていましたが、自動車では最近ようやく、Googleが自動走行車の公道実験を始めましたよね。御社は自動車のそれよりも前から、無人でダンプトラックを運行できる技術を開発されていたと知り、驚いていたのですが、そうした新たな技術開発の裏にも、他社との差別化や付加価値というキーワードがあったのですか?またこのような技術を自動車よりも早く実用化できた背景には、やはりお客さまからの強いニーズがあったからでしょうか? それとも、東レが50~60年も前から「将来、車は炭素繊維で造られる」と考え、炭素繊維の研究に着手したように、まだ市場がない頃から建設機械の将来を展望した人物がすでにいらっしゃったからですか?

江嶋無人ダンプトラック運行システムは、コマツが2008年に世界で初めて実用化したものですが、構想は40年以上も前から社内にありました。当時から、将来のダンプトラックの運転手の不足が予想されており、無人ダンプトラック運行システムへの開発への要望が強かったのです。
また機械稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス:Komatsu Machine Tracking System)」は、建設機械に取り付けられたGPSやセンサーなどから、車両の位置や稼働時間、稼働状況などの情報を提供するシステムなのですが、20~30年以上も前からすでに、そうしたビジョンを描いていた人物が研究所にいたのです。当時はGPSが世に出始めた頃で、「こんな面白いものが世に出てきた。建設機械の世界でも何か使えるのではないか…」と、まだとても高価なものだったGPS受信機を自分で買ってきて地図を作り、建設機械に搭載して運転してみたところ、地図上で建設機械の位置情報や動く様子が確認できたわけですよ。そこで、「これは面白い」というところから開発が始まったのです。しかし、当時は誰もそれを評価できなかった…。「何でそんなものが役に立つんだ」といった具合でね。まだそんな時代でしたから。

諏訪「KOMTRAX」が実用化に向けて動き始めたきっかけは何だったのですか?

江嶋地道に技術を開発し続けている中で、当時、盗んだ油圧ショベルでATMを壊し現金を強奪する事件が多発しておりました。そこで、当時の経営企画室長だった現在の坂根相談役が、「これは強盗対策に役立ちそうだ」と実用化に向けた開発の決断をしたのです。またこれと同時期に、車両を貸し出した後の状況が把握できないという悩みを抱えていた建設機械レンタル会社の社長さんのニーズと合致したことも重なり、本格的な開発がスタートしました。まさに、世の中の技術に興味をもって取り組んでいた人と、それを使えると見抜いた人、そして世の中のニーズがマッチングした結果ですね。

諏訪「KOMTRAX」という「ダントツ商品」が生まれた背景には、そのようなきっかけがあったのですね。

江嶋ええ。現在ではさらに進化しておりまして、ICT技術を使って優れた機械を造るだけでなく、新たなサービスを提供する「ダントツ・サービス」、さらには、「ダントツ・ソリューション」を生み出す技術開発を進め、お客さまの現場を革新し新しい価値を創造する「イノベーション」を提供すべく奮闘しています。建設機械というのは何年も使って頂くものですから、売ってしまえばそれでおしまい、というものではありません。サービスやソリューションが大変重要なのです。

諏訪なるほど。ぶつからない前提の自動車とは異なり、建設機械は大地とぶつかりながら何年も使用し続けるわけですから、メンテナンスという新たなサービスも重要なのですね。

江嶋そう、いかにメンテナンスして、いかにサービスしていくか、そちらの方が実はものすごく重要なんです。そこをしっかりやっておかないと、お客さまもすぐに離れていってしまいます。逆を言えば、そうしたメンテナンスやサービスのネットワークを世界中に持っている会社間の業界地図は変わりにくいとも言えるのですが。

諏訪だからこそ、他社にはない付加価値が必要だということですね?

江嶋そう。それまでのサービスは、どちらかと言えば人海戦術でしたから。ところが、「KOMTRAX」のように、ICTを使うことで車両の位置や稼働時間、稼働状況などを把握し、お客さまの保有車両の稼働率向上や維持費の低減に結び付く質の高いサービスを提供することもできる。さらには、お客さまの現場をもっとよく変えてさしあげることもできると分かってきたのです。

諏訪メンテナンスの重要性を考えると、「ダントツ・サービス」はイメージしやすいのですが、「ダントツ・ソリューション」とはどのようなものですか?

江嶋お客さまの作業現場にある様々な課題を解決することで、現場そのものを変革し、お客さまにとってよりよい環境を提案することです。

諏訪現場の改善までを視野に入れているのですね?

江嶋そう。そのために必要な技術を開発していくことが重要だと考えています。

諏訪ソリューションとなると、必要とされる技術がこれまでとはずいぶん異なるように思うのですが…。

江嶋おっしゃる通りです。現場改善までを視野に入れると、ハイブリッド技術やICT技術の重要性がより高まるのですが、ご存知のようにコマツは「建設機械メーカー」です。お客さまの現場を良くするためには、さらなる新技術の開発が必要不可欠でした。

諏訪それはどんな技術ですか?

江嶋まずハイブリッド技術に欠かせない、モーターに必要なパワーエレクトロニクスです。コマツでは、40~50年前から電気研究所を持っていました。

諏訪機械メーカーで40年も前から電気研究所を持っているのは珍しいですよね?

江嶋そうですね。電気の知識は以前から社内にありましたが、パワーエレクトロニクスの開発までは手掛けていなかったので、組織のさらなる強化が必要でした。さらにもう一つ欠かせないのが、ICT技術です。ICTに関しても同様に、新しい開発組織が必要でした。

諏訪「ダントツ商品」を目指す上での一手段だったICTが、「ダントツ・ソリューション」を目指すためにより一層重要となったわけですね。

江嶋その通りです。ICTを強化しないと、「ダントツ・ソリューション」は実現しませんから。

諏訪先ほど「組織」とおっしゃいましたが、パワーエレクトロニクスもICTも、今では組織と呼ぶほど大きな研究体制になっているのですか?

江嶋ええ。コマツには、建設機械本体の開発を担当するセンタの他、エンジンなど主要コンポーネントを開発するセンタがありますが、それと同レベルとなるICT開発センタ、パワーエレクトロニクス開発センタを新設しました。

諏訪「コマツ」と「ICTの開発センタ」がすぐには結び付かないのですが、まずはそこから変えていったのでしょうか?

江嶋センタを作るだけで全てがうまくいくわけではありません。いかにして新たな人材や技術を獲得するかという点も重要でした。人材もそうですが、特にICTの分野は自分達の力だけでできるほど簡単な分野ではありませんから、外部から技術を取り込むことも大切だと考えています。

 

ソリューションの提供に向け進化する
社外・顧客との開発スタイル

諏訪ここまでお話を伺うと、やはり機械とICTとでは研究開発のスタイルも大きく異なるように感じますね。

江嶋まさにおっしゃる通りです。コマツでは基本的に、重要な建設機械に使われるコンポーネントは内製化して品質と信頼性を確保する方針なのですが、ICTとなるとこれら全てを内製化できるかというとなかなか難しい。そのため、外部の組織と一緒に開発を進めていくことが、今後ますます重要になってまいりました。

諏訪その点は、これまでとの大きな違いですね。今年の3月、御社のテクニカルレポート(技報)の巻頭で、江嶋さんが「イノベーションに思うこと」として「破壊的イノベーションを起こす可能性のあるアイデアは、最初は不確実性が高すぎて評価されないが、いつまでも待っていてはライバルに置いていかれてしまう。もっと積極的にアイデア段階でもチャレンジしてみて、早めに市場へ出してみよう」といったお話をされていましたね。技術開発の競争スピードは、建設機械の業界でも加速しているのですか?

江嶋従来から続く建設機械のコンポーネントの場合、すぐに壊れてしまうものを市場に出すわけにはいきませんから、スピードよりもまずは品質が確かであるかをしっかり確認することが重要です。しかし、ICTでは少し違います。「どう使えるのか」「どのように使えばお客さんのメリットにつながるか」については、ある程度、頭で理解できますが、実際に現場で試してみると、想定とは全く異なる使われ方ができることも分かってきました。ICTの場合は何よりもスピードが重要です。壊れてもいいというわけではありませんが、とにかく少しでも早くお客さまのところへ持って行き、お客さまと一緒に使い方を見極めることで、サービスの質を高めていく。このことをまず最優先とする考え方へ、変化していきました。

諏訪つまり、ICT分野の開発における社外コラボレーションは、補完する技術を持った組織だけでなく、お客さまとも進めているというわけですね。

江嶋ええ。お客さまによっても、コマツのことをよく理解してくださり、新しいことに対して前向きなお客さまがたくさんいらっしゃるんですよ。そういう方々と一緒にトライしています。

諏訪1980~90年の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれていた時代は、多くのことが社内で事足りていました。そのため、外部へどんどん出て行って研究開発をするという動き方を苦手と感じる企業が少なくありません。御社の技術者はそこに抵抗を感じませんでしたか?

江嶋コマツは研究と開発の組織が分かれていますが、研究にいる技術者にもお客さまに近い開発の経験をさせられるよう、人材のローテーションに気を配っています。しかしそれ以前に、建設機械の世界では、お客さまの現場を知らなければ開発自体は難しいのです。なぜなら、自動車業界ですと開発者はメーカーの人間であると同時にユーザーでもありますが…

諏訪建設機械の場合、自身がユーザーにはなりにくいので、現場に足を運ばなければ、そもそも想像すらできないということでしょうか。しかし、日本で見かけるような小型の建設機械の開発であれば、国内の現場をちょっと見に行くこともできますが、大型の機械ともなると、チリやオーストラリアにまで出向かなければ、現場を知ることはできませんよね?

江嶋そうです。そのため、例えば技術者がビジネス部隊として1カ月間チリの現場に行くこともあります。国内で研究・開発をしているだけでは、現場のことは分かりませんからね。現場でビジネスの視点から自分たちを見つめ、今、コマツが何をすべきかを考えることが非常に大切なのです。

諏訪まさにダントツ・ソリューションの「ソリューション」の部分を支える部隊なのですね。

江嶋そうです。例えば、「AHS(Autonomous Haulage System)」という無人ダンプトラック運行システムを例に挙げると、コマツでは無人ダンプをお客さまに提供するだけではなく、運行管理まで支援しています。それによって、稼働率の目標値を決めたり生産量を管理したりと、細かなところまでお客さまと一緒になって取り組むことができるのです。つまり、これまでのビジネスモデルそのものが変わってきているんですね。ソリューションは、海外の大規模な鉱山に限らず、一般的な規模の建設現場でもあり得るので、まずは現場に出向いて、「何が最適か」を常日頃から提案しています。

諏訪今、特にエレクトロニクス業界からは、次に何を造るべきかアイデアが枯渇しているという話をよく耳にします。しかしそれは、自分自身がユーザーであるが故に、市場のニーズを何となく分かった気になり、自分達の特殊な狭い世界の中でだけ考えてしまっているからかもしれませんね。御社にとっての鉱山のように、「自分たちが知らない世界は実際に目で見て理解するんだ」という意識で世界中の市場に出向き、ソリューションを提案できれば、他の業界であっても自分たちが次に何をすべきか見えてくるのかもしれません。

江嶋確かにそうですね。しかし、それでもまだ不十分です。現場に出向いて調べて分かったつもりでも、まだ分かっていないことが実際には多いのですから。ポイントは、早い段階からお客さまと一緒に取り組んで、フィードバックを受けること。このサイクルを速く回していかないとダメだというのが、我々の研究開発の考え方です。

諏訪これまで、建設機械の研究開発の進め方は自動車業界に近いイメージを抱いていましたが、「どんどん早めに出してお客さまと一緒に磨いていこう」という発想は、むしろ、材料メーカーのそれに近いですね。しかし、考えて見ると、御社の事業はB to Bなので、材料メーカーと似て当然と言えば当然のことなのですが。

江嶋確かに、以前はプロダクトアウト的に良いモノを出して、後はお客さまに選んでもらうという事業でした。しかし、「ダントツ・ソリューション」の提供を目指す今となっては、材料メーカーのB to B事業運営に近いかもしれませんね。

諏訪江嶋さんと話していると、ICTを開発のキーワードに据えて開発を進められているので当然なのかもしれませんが、建設機械ではなく、情報通信企業の方と話しているような錯覚にも陥ります。なぜなら、現場に出向いてお客さまのニーズを吸い上げ、ソリューションを開発して提案する、そのための専門部隊もいるわけですから。たまたまソリューションの構成要素の中に巨大な建設機械も入ってはいますが…。

江嶋そうですね。言葉ではソリューションと言っていますが、これを考え、提案して受け入れてもらうのは簡単ではありません。幸いコマツには、「KOMTRAX」や「AHS」のような実績がすでにあるので、「きっとこのような世界が他にもあるのではないか」と提案すると、まずは「どんな話だろうか」と聞いてもらいやすい環境にあるのかもしれませんね。

 

ダントツ・ソリューションの追求
コマツの求める技術者像にも変化

諏訪情報通信企業の富士通やNECでは、業種ごとのソリューション部隊がお客さまをまわってニーズを把握し、事業部や開発に繋げることでソリューションを提案するという活動を行っています。御社でも、そうした動き方のできる技術者を今後増やしていく予定ですか?

江嶋そう考えています。今後ますますそういった技術者は必要になってきますからね。

諏訪そうなると、コマツでの活躍を期待する技術者像についても、今とこれまでとでは変化しているのでしょうか?「こういう人ならコマツで活躍できる」「もっとこういう人に来てほしい」という求める技術者像について教えてください。

江嶋大学を卒業して新入社員として来られる方にはまず、最低限、技術屋としての基礎学力を大学生の間に徹底的に身に付けておいてほしいと思っています。それがなければ、体育会系でいくら体力やリーダーシップがあっても、コマツではダメです。先ほども申し上げましたが、「外へ出てトライするのを厭わない」という強い気持ちも大切です。これからますます外へ出て行く機会が増えるでしょうが、社内で図面を書いているだけとか、実験しているだけでは、新たな発想を生み出すことはできませんからね。

諏訪「外へ出る」ということは、お客さまの厳しい目にさらされ、厳しい指摘を受けることでもあるわけですから、そのような環境でもトライし続けられる「強い気持ち」が必要ですね。

江嶋「打たれ強いことが重要」だと言う人もいます。(笑)
これまでの「KOMTRAX」や「AHS」などが生まれた経緯を振り返ってみると、必ずそこには何人か、本当に新しい技術への興味が強く、新しい発想をもって行動できる人材がいたものです。

諏訪確かに、小さなモノでも自分の時間を見つけて研究するということは、ある程度の知識や技術があればでき得ることかもしれませんが、「KOMTRAX」のように、高価なGPSを自分で買って大きな建設機械にくっつけてまで実際に走らせるなんて、なかなか勇気と行動力がいることですよね。それは、この方がかなり「突き抜けていた方」だからこそなし得たのでしょうか?

江嶋まさに、その通りだと思います。最近では、イノベーション人材をどのように育てるか、あらゆるところで、難しい言葉によって議論されています。しかし、そのような議論に沿って実践すればイノベーション人材が生まれるかというと疑問です。強い信念をもって行動に移すことができる人は、必ずどこかに「いる」のです。まずはそういう人に来ていただき、企業の中で育てていくことが重要だと思っています。

 

スピードを捉え先手を打つ
コマツが求めるパートナーとは

諏訪最後に、外部組織との関わり方についてお伺いします。対談の冒頭でも、「ICTにおいては全てを自前で行うわけにはいかないので、外部の組織と一緒に進めたい」とおっしゃっていましたね。御社として、今後積極的に強化したい技術領域、また組んでいきたい社外組織について教えてください。

江嶋ICTの世界では、情報通信機器やそれに欠かせないセンサーなどがいろいろと必要になりますが、当時のコマツにはそうした技術がありませんでした。こうした新しい分野について、開発当初は外部へのアンテナの張り方すら分からなかったので、アンテナの役割を果たす部隊まで作ったほどです。

諏訪そうした役割の部隊もいらっしゃるのですね。

江嶋ええ。やはり外部の情報に常にアンテナを張り巡らせる部隊も置いておかなければ、この世界はかなりのスピードで技術が進んでいますからね。後になって、「えっ!こんな技術があったら使えたのに…」となってしまうことにもなりかねませんから。具体的には申し上げられませんが、いろいろなことはすでに考えております。

諏訪外部の組織から御社に対する「○△が建設機械でも使えますよ」という提案には、門戸を開いていらっしゃるのですか?

江嶋もちろん歓迎しています。例えば、通常M&Aは事業領域の拡大等を目的とすることが多いのですが、コマツの場合は大抵、技術の獲得を目的としていますから。

諏訪つまり、技術の発展という視点に立ち、外部の優れた技術は積極的に取り込んで強化していきたいというお考えなのですね?

江嶋その通りです。オープン・イノベーションの定義はよく分かりませんが、コマツでは、産学連携や産産連携について、国内だけでなく海外にも目を向けながら、かなり力を入れて進めています。組織として本気で取り組み始めて以来、目に見えて成果が現れてきたので、今後もさらに注力していきます。

諏訪オープン・イノベーションは、結局は組織と組織のアライアンスなので、組織的に重要なテーマに絞ってリソースをかけて行うのが最も効果的だと理解していたのですが、御社もそれを実感されているのですね。やはり領域的にはICTが多いのですか?

江嶋ICTはコマツが従来から得意としてきた領域でもありますが、ソリューションを築くICTの世界で、事業にまで踏み込んで取り組んでくれるパートナーが見つかると心強いと思っています。

諏訪企業はもちろん、大学からスピンオフしたベンチャーなど、事業に対する意識が高いところであれば、互いの距離感が近いかもしれません。

江嶋現在の社長の下で作成した中期経営計画で、コマツがイノベーションで成長することをより一層明確に打ち出しました。ここで言うイノベーションとは、現場を変革し、新しい価値を創造し、お客さまへ提供すること。技術は新しいモノでも、既存のモノの組み合わせでもいいと考えています。
例えば、ダンプトラックではすでに取り組んでいますが、他の建設機械では自動化・無人化がまだまだ進んでいなので、もっと広めていきたいと考えています。

諏訪御社の事業計画を拝見すると、既存事業ではなく、ソリューションやイノベーションでもっと成長していこうという姿勢を明確に感じます。まさに、自動化・無人化がその一端を担うのですね。

江嶋おっしゃる通りです。ただし、このソリューション・イノベーションの部分は、他社との競争がよりシビアですから、まさにスピードが大事です。スピードをあげるためにも、もっと外へ目を向け、お客さまや外部のパートナーとのサイクルをより速く回していきたいと考えています。

諏訪メーカーとしての「機械売り」から「ソリューション売り」への進化、それを支えるICT開発の経緯。そして今後の発展について、大変興味深いお話を伺うことができました。本日は、ありがとうございました。

江嶋こちらこそ、ありがとうございました。

(2013年9月18日)
PROFILE: 江嶋 聞夫 (えじま きくお)

1977年3月 東京大学工学部船舶工学科卒業
1977年4月 株式会社小松製作所入社
2003年4月 研究本部 技術研究所所長
2004年4月 開発本部 モノ作り技術改革室室長
2005年4月 開発本部 材料技術センタ所長
2006年4月 研究本部副本部長 兼 第二イノベーションセンタ所長
2009年4月 執行役員 研究本部長(現任)