オープン・イノベーションによる人と技術のさらなる連携がアジア地域の発展と事業成長の原動力に
諏訪売上規模の話が出ましたが、パナソニック全体で言うと、2019年3月期までに、自動車事業で2兆円、住宅事業で2兆円という大きな目標を明確にされていますね。 まさにエコソリューションズ社が、今後のパナソニックにとっての大きな柱の一つを担っていかれるのですね。
竹川ええ。2018年までに0.8兆円の売上の積み増しを目標にしています。
諏訪その成長のエンジンとなる技術開発の役割について、ここまで興味深いお話を伺ってまいりましたが、その一つの鍵が、第三世代のR&Dであること。そして、事業による密着した動き方だと理解できました。
ただ、技術開発には時間がかかるので、他の成長の源泉は、海外事業ではないかと私は考えるのですが、R&Dとして今後、海外事業展開においてどのような役割を担っていこうとお考えですか?
竹川今のエコソリューションズ社の事業で言うと、欧米ではある程度寡占状態になっているので参入障壁は高いと見ています。ですから、まずはアジアを中心に考えています。
諏訪アジアではどのような成長を見込んでいますか?
竹川2007年にインドの電設器具の最大手であるアンカー社を買収したのですが、インドの一部の機器は今の日本よりも進んでいますが、多くはまだ日本の昭和30年ぐらいのレベルにとどまっています。それはインド以外の地域でも同様で、まだまだ我々の入る余地があると見ています。
諏訪まだ伸びしろがあるとお考えなのですね。
竹川ええ。そうなると、R&Dとしては事業部門が過去に国内で行ってきたことと同様のことを世界でも展開していけば、ある程度成長は見込めるはずだと考えています。ただ同じようにやっていては成長の枠が限られてしまいますので、我々としてはもっと主体的に成長させたい領域を選び、現地のニーズをしっかり見極めた上で、技術を掘り抜きたいと考えています。
諏訪日本で必要とされる技術をそのまま持っていくのではなく、地域の状況に応じてカスタマイズするということですね?
竹川ええ。アジアの場合であれば、技術を新たに開発するというより、過去の技術を選択し現地のニーズに合わせて変更を加えることも必要だと思っています。
諏訪では、アジアでの情報収集は今後も強化していかれるのですか?
竹川もちろん。今のアンカー社には開発者が多くいて、インドとシンガポールにも直属のスタッフがいます。シンガポールにいる方はフィリピンとマレーシア出身なので、ある程度この地域の情報収集はカバーできているのですが、インドネシアでは現在井戸ポンプの事業がありこれをベースに新たな展開ができないかとと考えています。そのため、インドネシアにもスタッフがいた方が良いのではとはないかと考えています。
諏訪それはアジアでの企画力を高めるためですか?
竹川そうですね。どうしても風土や言葉が違うと、途中で異なる意味に変換されてしまいますからね。こちらが良かれと思ってやっていることが、翻訳していくうちに日本的な発想に変換されてしまうということはよくありますから。そうかといって、日本的な発想を押し付けても現地では通用しません。
諏訪国の文化や習慣に合わせた展開が必要なのですね。
竹川そう。先日も、中国で省エネの関係の話をしていたのですが、お客さまはまだまだ高度成長下におられて、省エネよりは快適性を求めています。そのため、当社の機器を導入することでCO2の削減が実現できることをお伝えしたところ、ご自分でCO2のセンサーを部屋に設置されて「センサーでこの部屋のCO2濃度が良くなりました」と言われるのです。CO2の削減は、家の空質環境をより良くするためだと間違って受け取られていたのですね。こういう誤解がまだまだ頻繁に起こりますから、現地の言葉でしっかり説明できるようにしないといけませんね。
諏訪今後は、他社と技術の連携も視野に入れていらっしゃいますか?
竹川もちろんです。それぞれの技術に関しては「掘り抜き井戸」を意識していますが、エコソリューションズ社の事業の対象である住宅は多様な技術の集合体です。これまで、あらゆる技術を集積し事業の幅を広げてきましたから、そうした意味では、今後もさらに技術の幅を広げたいと考えています。そのためにも、異業種でビジネスモデルが異なる企業との連携は積極的に進めていきたいと考えています。
諏訪オープン・イノベーションも視野に入れていらっしゃるということですね。
竹川はいそうです。
諏訪異業種との連携といっても実に様々ですが、どのくらい異なった相手との連携までをイメージされていますか?
竹川意味のある連携ができるのならどんな分野でも考えたいです。最近ですと、ビニールハウスを使用したほうれん草の栽培事業などは農業との連携です。
諏訪まさに異業種との連携ですね。
竹川ええ。当社の構内に、ほうれん草を育てるためのビニールハウスを設置し、エアコンに頼ることなく夏でもある程度温度を下げられる環境作りに取り組んでいます。
諏訪ほうれん草の旬は冬でしたよね。
竹川ええ。暑い夏でも美味しいほうれん草が作れるよう、設備投資やランニングコストを抑え、ハウス内の温度を下げる取り組みを進めています。連携当初は、今さら農業に手を出したところで一体我々に何ができるのかという不安もありましたが、実際に農業法人の方たちとの交流を進めていくうち、こちらが知っていることも相手にとっては新鮮だったり、逆にこちらが気付かされる新たな発見があったりと、互いにとって価値のある気づきが多かったのです。
諏訪交流してみて初めて気が付くことも多いのですね。
竹川例えば、住宅で培った温度管理の技術をもとに、ビニールハウスの温度を下げる方法をこちらが提案すると、先方からは「何でそんな方法でやるのか?」と言われてしまう。しかし、実際に試してみるとちゃんと温度が下がるのですね。
諏訪御社の場合、扱う商材が幅広いため、今後の活躍の場は異業種や海外など様々なフィールドへと広がっていきますね。
この対談の読者の中には、エコソリューションズ社でのR&Dに興味がある方も多いと思います。最後に、そうした方へのメッセージをお聞かせいただけますか?
竹川幅が広いと言っても我々が扱うものはどれも生活に身近なものばかりです。案外皆さんは満足してしまっているかもしれませんが、そういう中で、もっと変わったことに取り組みたいという方がいらっしゃれば、どんどん挑戦できる環境です。
諏訪確かに御社の製品であれば自宅で簡単に実験することが可能だし、生活の中にヒントがあるかもしれませんね。
竹川そうです。例えば、当社の手掛ける調光や調色ができる照明を例に挙げると、自宅でも実際に試すことができますからね。
諏訪その点はこれまであまり意識したことがありませんでしたが、研究者にとっては気持ちに大きく影響しそうですね。
竹川ええ。最近は電球でもスイッチを入れ替えると、白くなったり赤みを帯たりと光の変色をすることができるようになりました。
その技術を応用し、朝のシャワールームで朝陽に似た白い光を再現すると爽やかな気持ちを得ることができるようになったり、逆に夜であれば一日の疲れを癒やし、ゆったりとした気持ちになれたりするなど、色の違いによる体の時間感覚についても分かってきています。
諏訪そうした光の変化はあらゆる状況で応用することができますね。
竹川お子さんが勉強する際に字がくっきり見える光など、最近はLEDを使用した照明一つで調色や調光ができるようになっています。これまで以上に自由度が高まり、目的や用途に応じた使い分けができると信じています。
諏訪これまで以上にどんどん試して、さらに評価し提案できる環境になってきているのですね。
本日は貴重なお話をありがとうございます。
竹川こちらこそ、ありがとうございます。