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未来社会のニーズをとらえるオープンイノベーションの活用方法

諏訪暁彦

みなさんの会社には、新しい技術を開発する部門はあるでしょうか?研究開発部門は、会社の将来の成長を支える技術を生み出す部門です。そのため、未来の社会で求められる事業を他の部門よりも深く考え、研究開発するテーマを設定する必要があります。現在、世の中は短い期間で大きく変化しています。カーボンニュートラルやDXの重要性を、3~5年前に想像できた人がどのくらいいるでしょう。変化の激しい昨今、10年後、20年後のニーズを考えて研究開発テーマを創るには、どのようにすればよいのでしょうか?当然ながら、これはとても難しいテーマです。その理由として

1. 未来が見える人はいない

2. 知らないことは欲しがれない

3. 新しいことは受け入れてもらいにくい

という3つが挙げられます。

より精度の高い未来予測をするには、これらの「あたりまえ」の難しさを認めたうえで、できる限りの対策を講じる必要があります。その対策として、使い方次第でとても優秀な手段になり得るのが、オープンイノベーションという考え方です。どのように効果を発揮するか、どのような手順で実践していくのかを順にみていきましょう。

難しさ1:未来が見える人はいない

どんな人も、未来のことはわかりません。そのため、一部の自称「専門家」の意見ばかりに耳を傾けると、未来を大きく見誤るリスクが高まってしまいます。未来の判断材料である情報の量と質を高め、予測精度を向上させることが大切です。毎年、多くのコンサルタントや調査会社が未来予測を出しています。しかし、そこに描かれた未来の社会は、一企業が単独で作っていくわけではありません。未来のヘルスケアを支える材料の一部を化学メーカーが作ることになるかもしれませんし、将来のモビリティサービスを自動車メーカー以外が担うこともあるでしょう。描かれた未来の一部を自分たちが担おうと具体的に考えていくと、豊富にあるように見えた未来予測の情報は途端に、スカスカで視点の偏ったものになります。

そこで、オープンイノベーションの出番です。未来予想の視野を広げる手段として活用できるのです。どのように活用するか、事例でご説明します。まずは図を見ていただきましょう。

こちらは、20XX年の社会像をその構成要素に分解し、あるべき姿とそれを実現するための機能、そしてその機能の実現に必要な技術をブレークダウンするために用意したものです。これらの構成要素の一つであるヒト(労働者)について深掘りしようとしたものが下の図となります。

ヒトを物理的・精神的な健康、仕事場・自宅・コミュニティーなどとの関係、社会貢献・自己実現など、さまざまな要素へブレークダウンしています。あるべき姿、機能、技術の項目に、調査会社・コンサル会社の出している未来予測や、自社で議論してきたテーマを当てはめていっただけでは、まばらで偏ったツリーになってしまいます。

そこで、あらゆる業種における世界中の大手企業のマネージャー層から、1~2週間で数十件のアイデアを集められるプラットフォーム「OIカウンシル」を使って、アイデアを増強させました。求める機能や技術を二次元でマッピングした結果が以下となります(実際の例ですので、一部ぼかし処理をかけています)。

茶色・赤・黄緑・黒で書かれた部分は、従来の未来予測などをもとに社内で議論してきた研究開発テーマでした。このマッピングの分類でみると、この企業の視点が「スキルの活用」や「趣味・余暇」「生活習慣と暮らし」など一部の領域に偏っていたことがわかります。一方、数多くの濃い青や水色の部分がOIカウンシルによって集められたアイデアです。これらを加えて議論することによって、新たな領域で、黄色で書かれた新たなテーマを見出すことができました。

こうした発想ができるのは、OIカウンシルが世界中のマネージャー層の知見を収集しているからにほかなりません。それではなぜ、世界中の大手企業のマネージャー層からこのようなアイデアが出てくるのでしょうか?それは、マネージャー層は自分の所属する会社の将来事業を考えているからです。多くの人にとって、一消費者の視点で未来の社会予測をする機会は多くありません。しかし、マネージャー層は自分の所属する会社で将来の事業を考えてきているので、未来が具体的にイメージできるのです。世界中の企業、そして幅広い業種で活躍する人に聞くことでより多様なアイデアが出てきますし、自らのビジネスを客観的に見ることができます。

難しさ2:知らないことは欲しがれない

将来の事業を考えるとき、市場環境と自社の強みなどからロジカルに考えて事業を提案すると、意思決定者からは「ありきたり」「ワクワクしない」と言われるかもしれません。かといって、ユニークな事業を行っているスタートアップとの協業を提案すると、「そうじゃない」と言われます。「ではどうしたらよいのか」と悩んだ経験はないでしょうか。

もちろん、意思決定をするシニアマネジメントが意地悪をしようとしているわけではありません。彼らは、将来の事業として中期経営計画にあるような広い範囲での「何か新しいこと」を期待しています。それが自分たちの想像の域を超えないものであれば「ありきたり」と感じてしまい、逆にとがりすぎた事業のアイデアを見せられると、その提案が自社の事業として許される境界を超えていることに気づかされるのです。

担当者は、この二つのはざまにある領域で、事業を検討することになります。しかし、あらゆる領域を細かく検討すると時間ばかりが過ぎて、一向に成果が生まれません。かといって検討もせずにそのまま提案することもできません。

そこで、オープンイノベーションの考えが役立ちます。オープンイノベーションで足りない技術を探すわけでも、将来のアイデアを集めるわけでもありません。自分たちの事業の境界条件を見出す「マップ」を作成するための手段として、そして、事業化の可能性があるビジネスモデルの市場性と実現性を素早く検証するための手段として使うのです。

モノ売りからコト売りに事業を転換するうえで新しいソリューション領域を探し、そのソリューションを実現するために必要なテーマやパートナーを見出した企業の例をご紹介します。

その企業では、「NineSights」というナインシグマ独自のグローバルな技術マッチングプラットフォームを活用して、ソリューションを築きたい領域のスタートアップ企業を100社規模で洗い出しました。ソリューションに関わるスタートアップを、意図的に多様性を持たせる形で毎週のように紹介し続けることによって、どこまでならば「あり」な領域なのかが見えてきました。

並行して、実現性が疑問視される技術やビジネスモデルに関しては、NineSightsを使って技術的な確認を行いました。市場が不足していると思われるビジネスモデルに関しては、OIカウンシルを使ってユーザー視点でのビジネスモデルの評価を行いました。スタートアップの9割は5年で廃業してしまうため、スタートアップの事業モデルをもとに検証する場合、市場性の検証は不可欠です。

これらを3か月ほど行うことで、この企業がもともと持っていた強みから想定できる新しいソリューションだけでなく、これまで見いだせなかったソリューションのアイデアを新たに探していきます。スタートアップがもつ技術シーズから発想できるソリューションや、市場性が疑問視されたものの実は本質的なニーズをとらえていたソリューションなどが見つかりました。しかも、ソリューションを実現するためのパートナーになりうるスタートアップの情報も、一緒に手に入ったのです。

オープンイノベーションを活用して、アイデアを拡げることで、本当に進出するべき領域が見えてきます。NineSightsやOIカウンシルを活用するとその情報に客観的な視点が加わり、自信を持って市場性・実現性を判断できるようになるのです。

難しさ3:新しいことは受け入れてもらいにくい

判断の精度がどんなに上がったとしても、未来が予測どおりに進むとは限りません。定期的に再予測を行い変化に追従していく必要がありますが、それだけでは将来における優位は築けません。ある程度、自ら社会や顧客に働きかけ、対話を続けながら、望む未来に誘導していく必要があります。顧客もまた「知らないことは欲しがれない」ですし、ライバル企業も同じく社会や顧客に働きかけをしているからです。

ここで1つ問題があります。皆さんが描いた未来は、皆さんにとっては研究開発が必要な新しいことですが、社会や顧客にとってはいまあるものの代替でしかないのです。顧客は皆さんより、いま困っていることや、いま買っているもののメリットとデメリットを理解しています。それは、最初に働きかけるときに、「今後も継続して話をしてもよい相手」と思ってもらえるほど相手に納得感を与えないと、その後のチャンスをもらえないことを意味します。

オープンイノベーションは、顧客の懐に入りこむための業界情報を入手することにも活用できます。オープンイノベーションを活用したある繊維メーカーでは、航空業界の専門家からヘリコプターのホイストケーブルについての知見を得ました。ホバリングしながら人を救助する際に使うホイストケーブルが、ヘリコプターに蓄積された静電気を地上に逃がす役割も担っていること、そして導電性繊維がホイストケーブルの代替になり得ることを知りました。この業界のことをよく知っている人しか知らない内容だったため、ヘリコプターメーカーの役員から業界をよく理解していると感心され、担当する部門の責任者を紹介してもらえました。その責任者からホイストケーブルの代替用途以外にも、導電性繊維の潜在用途を教えてもらえるほどの信頼関係を築けたのです。

世界中の大手企業のマネージャー層から返答を得られるプラットフォームであるOIカウンシルを活用すれば、新しい業界の顧客にアプローチする前に、その業界の専門家からニーズや競合製品の情報を得られます。皆さんのソリューション仮説の精度を高める手段として、OIカウンシルは効果を発揮します。

まとめ

未来の社会のニーズを捉えるのはとても難しいことです。しかし、オープンイノベーションを効果的に活用することで

1. 未来が見える人はいなくても、未来のことを考えている多くの人からアイデアや見解を集めることで、予測の精度を高めてバイアスを減らせる

2. 知らないことは欲しがれない意思決定者に対し、スタートアップ企業などの新しいビジネスモデルを素早く集め、その市場性・実現性を素早く見極めることで、意思決定の速度を上げる

3. 社会や顧客に新しいことをすぐに受け入れてもらいにくいまでも、継続的な対話ができる関係を築く

ことが可能になります。

ぜひ、オープンイノベーションをうまくご活用いただけると幸いです。