「次の事業の柱となるような新しいテーマがなかなか出てこない」
この悩みは、多くの企業が抱えており、一見、オープンイノベーションと直接関係なさそうに感じるかもしれません。
世の中の変化のスピードが加速し、消費者の嗜好も多様化していく中、やるべきことと、従来の垂直統合型の研究開発の手法でできることとのギャップがどんどん開いています。このギャップを、「外部の組織が持つ新しいテクノロジーやスキルで補おう」とするのが、世の中で最も一般的に言われているオープンイノベーションです。研究開発を加速させる「手段探索型」、「技術探索型」や「How to Do型」などと言われるオープンイノベーションです
ゼロックスの例を見てみましょう。「既存のパートナーと開発してきたが、紙詰まりの原因となる、プリンターのローラーの劣化がなかなか防げない」という悩みに対し、異業種で使われていたゴム材料を用いて改良することで解決に繋げました。これは「手段探索型」オープンイノベーションの成功例のひとつです。
これまで10人以上の海外グローバル企業の技術開発担当役員に、オープンイノベーションの活用目的について伺ってきましたが、全員の答えは、「How to doの手段(手段探索型)として。より早く製品を市場に出すため活用している。」で一致していました。
しかし、16年1~3月に、45人の日本のCTOや技術担当の役員の方々にお話を伺うと、回答内容に変化が見られました。実に8割の方が「もちろん、加速したいテーマも、解決しなければならない課題もある。ただ、もっと優先度が高いのが、『次に何をすべきか』を見出すこと。いいテーマが全然出てこない。オープンイノベーションでそこを何とかしたい」と言うのです。
これは世界的に見て日本だけの特殊事情で、その最大の原因は、「マーケティング人材の不足・欠如」にあります。
モノを作れば売れる時代から、モノが余る時代にシフトする中で、海外のグローバル大手企業は、市場の変化を捉えて何を作るべきかを判断するための情報収集部隊である、「マーケティング人材」に投資をして育成してきました。マーケティング部門の中には、自社技術をぶつけてニーズを引き出す「技術マーケティング部隊」や、アイデアの源泉となるテクノロジーやその応用例を集める「テクノロジースカウティング部隊」もいます。そのため、研究開発部門や新規事業部門が、会社の成長戦略を実現する上で『次に何をすべきか』を考える際、すでに、検討する上で十分な情報がそろっているのです。それゆえ海外のCTOにとっては、何をすべきかを導き出すのはそれほど難しくなく、それをいかに早く実現するかに注力でき、結果として、「手段探索型」オープンイノベーションを施行しているのです。
残念なことに日本企業の多くは「マーケティング人材への投資・育成」を怠ってきました。その結果、日本全体として、そのようなスキル・経験のある人材が圧倒的に不足していて、雇いたくても雇えない状況にあります。そこで、オープンイノベーションによって「何とかしたい」となるのです。
日本企業においてのニーズがとても高いため、経済産業省が2016年1月に発表した「イノベーションを推進するための取組について」においても「アイデア創出のためのオープンイノベーション」という類型が示され始めました。
果たして、それがオープンイノベーションで、何とかなるものなのでしょうか?
次回はこの新しいタイプのオープンイノベーションについて、より詳しく解説いたします。