前回は、シーメンスの技術開発で将来的なトレンドを予測する活動「Picture of the Future(PoF)」の概要と意義を紹介しました。今回は実際の講演内容から、Wenisch氏と参加者とのディスカッションの前半部分をレポートします。
社会の将来像からのバックキャスティング
<Wenisch氏>
「将来をどのように見通し、予測をどのように自社の研究開発に活かすか?」
おそらくこのことは製造業に携わる方々の共通の悩みではないかと思います。将来が見えて、取り組むべき重点項目が手に取るようにわかれば、CTOや研究開発部門のトップから小さな開発チームを率いるリーダーまで、すべての研究開発担当者は楽になることでしょう。
今回は、将来の社会の動きを予測し、それを自社の研究開発テーマに落とし込んでいく、シーメンス独自の取り組みとそのポイントを紹介します。
みなさんは自社内での研究開発活動で、どのようにしてテーマを策定していますか?
前年やそれ以前から進めてきたテーマを、なんとなく生かさず殺さず進めている会社も多いのではないでしょうか?
シーメンスでは、将来の社会の予想図を大胆に構想することで、現状をあらためて分析し、事業シナリオを作り出す活動をしています。
これはエネルギー、建築、交通、ヘルスケアなど、あらゆる業界のトレンドをフォローして、将来のシナリオを可視化する取り組みです。社会経済や技術動向や政策など、さまざまなトレンドや相乗効果も含めて検討します。シーメンスではこれを「Picture of the Future(PoF)」と呼んでいます。
Picture of the Futureの作り方
<参加者A(自動車関連メーカ役員)からの質問>
PoFとは具体的にどのような取り組みなのでしょうか? またどのように将来のシナリオを作っているのでしょうか?
<Wenisch氏>
PoFの目的は、さまざまな事業分野の「将来像」を予測する取り組みです。
最初に社内のメンバーで、自動車産業や社会インフラなど、ターゲットとする領域の未来図をシナリオとして作成し、世界的規模で初期トレンドに基づいた仮説を立てます。
仮説は「将来の自動車はどのような姿か」「スマートグリッドによるイノベーションが起こった場合、社会がどのように変わるか」「ネットワークの高度化によって、研究開発活動のあり方はどう変わるか」というキークエスチョンの形にして、社外の専門家にインタビューで質問をぶつけていきます。
インタビューを通じて得た専門家の見解から、仮説の確実性を検証します。このとき、精度の高くない仮説は再構築をしたり消去したりすることで、将来像の予測の精度を高めていきます。
<参加者B(材料メーカ役員)からの質問>
PoFを作成する社内のメンバーはどのような方々でしょうか?
<Wenisch氏>
社内における仮説作成は、PoFのプロジェクトチームがあり、そこに所属するメンバーが担当しています。しかし、案件によってはシーメンスのCTO自身が作成したり、エネルギーの未来図を描くプロジェクトではエネルギー戦略専門家とシーメンスの技術部門のメンバーで協力して作成したり、ケースバイケースです。
正確な未来の予測は誰にもできません。しかし、PoF作成した将来の社会の予想図は、自社技術を理解するための叩き台を作成するときや、事業部と研究開発部門の間で特定領域の開発の方向性を共有するときに用いられます。このような活動によって、各部署がよりよい開発プロジェクトを推進できます。
今回は、シーメンスのWenisch氏の講演とディスカッションから前半部分を紹介しました。取り上げた内容は、Picture of the Futureの概要とその作り方です。
次回は、このPicture of the Futureをどのようにシーメンス内部で役立てているか、その目的や活用方法をお話いただいた講演の後半部分をレポートします。