オープンイノベーションを効果的に活用している海外の先進企業の担当者にヒヤリングをしてみると、社内におけるオープンイノベーション活動の定着には組織体制が不可欠であるという声が多く聞こえてきます。
逆に言えば、オープンイノベーションを推進するための体制の構築こそが、成功への第一歩であるとも言えるのです。今回は、オープンイノベーションの推進を目指すべく、社内における組織体制の構築に関してお話していきたいと思います。
オープンイノベーション推進部門に求められる役割
社内と社外のアイディアを有機的に結びつけてマネジメントしていくこと、これが、オープンイノベーション推進部門に求められる役割です。具体的には、オープンイノベーション活動自体を社内に根付かせるための啓蒙や、自社の事業に効果的にオープンイノベーションを組み込んでいく戦略策定、社内のオープンイノベーションへの意識をさらに盛り上げていくためのベストプラクティスの共有といった取り組みなどが挙げられます。
こうした取り組みは全社を巻き込んだ活動になるため、推進部門のポジションは、社内を横断的に見渡すことができることが望まれます。オープンイノベーションを効果的な仕組みとして取り入れている企業では、社長やCTO直轄の部門として、オープンイノベーション室を設置しているといった例も多く、特定の事業部、R&D部門の一部ではなく、全社に渡って視界の効く部門として配置することがコツであるとも言えます。
推進部門の構成に欠かせないリーダーの資質
次に、オープンイノベーション推進部門の中身について、見ていきたいと思います。会社の規模や業態によってパターンは様々ですが、まず必須となるのがオープンイノベーション・リーダーの存在です。その名の通り、リーダーの役割は社内のオープンイノベーション活動の旗振り役となる必要があります。会社の歴史、そして未来、つまり今後の方向性などを包括的に理解していることが求められています。社内を理解し、社外のどのような技術が有用なのかを判断できることが大切なのです。
詳細は以下のコラムをご参照ください
<オープンイノベーション推進者の役割>
1.なぜ重要か?
2. 方針の策定
3. 手段・プロセスの構築
4. 啓蒙・実践者の育成
5. 実践の支援
小さな組織で始めることが成功の秘訣
規模としては、オープンイノベーションを開始したての企業では、数名程度の少数の組織から立ち上げるケースが多いようです。消費財メーカーのP&G、パッケージング会社のMeadWestvacoなどの海外企業において長年オープンイノベーションに携わっていたPaul France氏も、「新たにオープンイノベーションの専門組織を立ち上げる場合には、少数の組織から始めるべきである。」と述べています。
理由としては、社内でのオープンイノベーションの発展には成果が重要である一方で、いきなり大きな組織での活動を開始してしまうことにより、注目を浴び、そしてプレッシャーにもさらされてしまうから、としています。少人数で迅速に動ける体制からスタートさせ、まずは社内をドライブできる成果を作り出していくことが重要になるわけです。
キャリアパスとしての位置づけ
ワールドワイドに事業を展開する企業では、小規模の組織を世界の各地域に点在させ、世界的にオープンイノベーションの活用を推進する動きが見られます。例えば、Philipsのように大規模な技術スカウティングチームを編成する企業もありますが、小規模な拠点を世界中に点在させて、各拠点にオープンイノベーションと事業の兼任担当者を配置するといったケースも多くあるのです。また、P&Gや世界有数の食品メーカーのMondelezでは、こうしたオープンイノベーション部門を経験することが1つのキャリアパスとしても位置づけられています。
また、社外との交渉の窓口となる人材として、アライアンス・マネジャーを配置する企業も存在します。オープンイノベーションに積極的なMondelezのTodd Abraham氏は、このアライアンス・マネジャーについて「自社とパートナー組織の双方にメリットが出るよう、円滑に交渉を進めることのできることが必要である。」と述べています。協業プロジェクトでは、その目的や進め方、利益の分配などを決定していく能力が求められています。またオープンイノベーション・リーダーは自社を詳しく知る社内の人材であることが望ましいとされる一方で、アライアンス・マネジャーはWin-Win関係の構築のためにオープンな立場である必要がため、社外の人材を登用することが望ましいとも述べています。
オープンイノベーションのブームを背景に、オープンイノベーションという名の組織を設置しても機能はしません。体制の整備、そして、適切な人材を配置することが、オープンイノベーションを力強く推進するための重要なポイントなのです。