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成果を上げるオープンイノベーションの考え方(5):風土の変革 テーマレビュー方法

オープンイノベーション
体制作り
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テーマレビュー方法を変更するにあたって、まず必要になってくるのが「オープンイノベーションを実践すべき領域の具体化」です。

中期経営計画で、多くの企業が新規事業領域として「環境」、「エネルギー」、「ヘルスケア」といったキーワードを掲げます。自社の既存の強みだけでは新規事業は創れないため、まさにこれらの領域においてオープンイノベーションの活用を謳うことが多いのですが、この掛け声だけでは一向に実践が進みません。

なぜでしょうか? 研究者・技術者は、基本的には、自分は自ら技術を開発するために雇われていると考えていますので、よほど明確な指示が無い限り、社外の組織の力を借りることに抵抗を感じます。例えば「環境」が示す領域はとても広いので、その中には自社の強みを活かして進めるべき領域と外部をもっと活用すべき領域が混ざっていて、その境界線の認識は人それぞれです。一番最悪なのが、「環境」の領域内で、社外パートナーを活用するテーマを立案し、トップや上司に「そこは自前でやるべき」と言われてしまうことです。トップや上司の考える境界線がわからなければ、なかなかその先に踏み込めません。

また、最近は、自社の新規事業領域で事業を行うスタートアップ企業と議論しながら新規のテーマや事業を作っていくスタイルが、特に人工知能やビッグデータ、IoTの分野で盛んになっています。「環境」だとテーマが広すぎて、集まってくるスタートアップ企業の情報を処理するだけで手一杯になり、結局、時間が取られるだけで、スクリーニングが進まなかったり、重要な相手を見落としてしまったりします。

そこで有効なのが、領域をもう一段掘り下げ、社内で共有することです。オランダのPhilips社は、「健康」の領域の中で、特にオープンイノベーションを実践すべき領域を「肌の健康」、「低カロリー調理」、「運動のモチベーション向上」など具体的に16設定し、社内で共有しました。それによって、これまで情報収集ばかりで疲弊していた調査部隊も活動の優先度が明確になりました。従業員2人のベンチャーから売り込みのあった200℃の熱風循環技術の優位性を見極め、世界的ヒット商品となった「ノンフライヤー」の開発へと移行したのは、「低カロリー調理」のキーワードを明確にした後でした。もし、16の領域を具体化していなかったら、その売込みの情報が自分のところまで上がってくることはなかっただろう、と、当時のCTOは振り返っています。

さて、積極的にオープンイノベーションを実践すべき領域を明確化ができたら、いよいよテーマレビュー方法の変更です。変更する対象は、新規テーマや進捗が遅れ気味のテーマで、かつ、オープンイノベーションを実践すべき領域のものだけで十分です。

予め時間を割り振って、テーマリーダーがその時間一杯プレゼンテーションする企業が多いですが、上記に該当するテーマは、進め方を変えてしまいます。
テーマリーダーがプロジェクトの概要と解くべき課題を5分程度説明した時点で、一度ストップし、マネジメントがオープンイノベーションに関わる様々な質問を投げかけるのです。

「なぜ、自ら行う必要があるのか? なぜ、オープンイノベーションで得られる知見で代替できないのか?」
「社内だけでなく社外や異業種の専門家と話をしたか? この分野の専門家を知っているか?」
「すでに誰かが課題を解決している可能性もある。似たような課題に取り組んでいる可能性があるのは誰か?」 などです。
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これらの質問はオープンイノベーションの「Power Questions」と呼ばれ、2005年ごろからKraft Foodsが使い始め、非常に効果的であるということから、多くのグローバルメーカーが自社流にアレンジした7~10程度のPower Questionsを作ってレビューに使用しています。

ここで、重要なポイントとなるのは、Power Questionsそのものではなく、その活用方法です。オープンイノベーションを活用すべき領域のテーマであるにもかかわらず、進捗やスピード感が不十分で、かつ、これらの質問に十分答えられない場合、マネジメントが「では、次回までに、しっかり答えられるようにしてください」と伝え、次回のレビュー会議までプロジェクトを凍結させてしまうのです。
もちろん成果を出したいマネジメント側にとってもつらい判断ですが、これを数回徹底すると、テーマリーダーも、テーマを進めたいので、意識はガラッと変わって、しっかり、オープンイノベーションの可能性も検討するようになります。そして数回徹底した後、「いつも訊かれる質問は、普段から意識するように」とPower Questionsをカードに印刷して、みんなに配るのです。

Power Questionsとその使い方を発明したModelez InternationalのTodd Abraham氏によれば、「最もコストのかからない、かつ、最も効果的なオープンイノベーションの風土の築き方」だということです。

ぜひ、皆様の会社でもPower Quetionsを作って実践してみてはいかがでしょうか?