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オープンイノベーション実践者との対談(第12回)
パナソニック株式会社
エコソリューションズ社
竹川 禎信

あらゆる人が快適に暮らせる社会を目指し、住宅や車など様々な空間でより良い暮らしを提案する「パナソニック」。
なかでも、パナソニックが今後の成長の柱ととらえ、快適環境づくりを担う 「エコソリューションズ社」で、開発の指揮を執り常務を努める竹川禎信氏に、今後の成長と開発戦略について話を伺いました。

環境負荷の低減と暮らしの向上
必要なのは「掘り抜く力」

諏訪パナソニックでは、2013年より4カンパニー制となっていますね。

竹川現在当社では、事業ごとに4つのカンパニーを設けています。具体的には、デジタル技術を軸としてBtoB事業を行う「AVCネットワークス社」、デジタル関連や美容家電、空調などの家電全般を手掛ける「アプライアンス社」、照明や配線、住宅設備といった建築・住宅関連の開発を手掛ける「エコソリューションズ社」、そして車載用商品や部品関係の開発を行う「オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社」があり、私はそのうちのエコソリューションズ社で技術開発を担当しています。

諏訪住宅やビル、工場や商業施設などの環境にまつわる技術開発がご担当ですね。

竹川そうです。世界中の人々が環境負荷を軽減しながら快適に暮らせる社会の実現を目指し、住宅やビルなどの環境設備の向上を目指しています。

諏訪環境への負荷を配慮しながら快適な環境を求めるということは、一見相反しているようにも思えるのですが。

竹川ええ。今でも、環境負荷と快適さは比例するという意味で「トレードオフ」の関係にありますから、エネルギーを使うほど生活はより快適になると言われています。

諏訪エネルギー消費は環境への負荷がかかりますからね。

竹川そうです。そのためエコソリューションズ社では、エネルギー消費と快適さを連動させないようにするという意味の「ディカップリング」という考え方で、快適な環境づくりを目指しています。

諏訪つまり、エネルギー消費と環境への負荷関係を切り離す、ということですか?

竹川ええ。少し分かりにくいかもしれませんね。簡単に申し上げると、トレードオフに対して「トレードオン」という考え方です。「トレードオン」という言葉は実際にはありませんが、エネルギーを消費し住環境の質を向上させながら、一方では環境負荷を軽減させるという新しい発想です。このような考えを実現させるには、これまでにない新たな技術開発が重要な鍵を握ると考えています。

諏訪なるほど。それはどのような技術になるのですか?

竹川例えば住宅の場合、冷蔵庫やエアコンなど、エネルギーを消費することが圧倒的に多いですよね。そのため、環境負荷を低減し、かつ自然と調和させる生活を実現するためには、家の断熱性を高めたり、たまった電力を蓄熱して放出させたりといった様々な技術をミックスさせることが基本になってきます。

諏訪今ホットな技術分野ですね。でも御社では、消費する側だけでなく、太陽光パネルのように発電側も手掛けていらっしゃいますね。

竹川ええ。今は住宅のみを対象としていますが、太陽光で発電した電気を買う事業も行っています。

諏訪対象となるのは一般住宅ですか?

竹川発電した電気を買う事業は住宅を対称にしていますが、機器としては住宅から工場まで対象範囲は多岐に渡ります。

諏訪御社は、対象とするお客さんも、事業の範囲も非常に広いですが、個人や法人などの対象範囲に応じて、組織体制を組んでいらっしゃるのですか?

竹川あくまで事業内容で分けています。具体的に申し上げると、照明に関する「ライティング事業部」、太陽光発電や配線器具などの電気設備を行う「エナジーシステム事業部」、キッチンやトイレなどの水回りや雨どいなどの外回りを行う「ハウジングシステム事業部」、空気清浄器などを手掛ける「エコシステムズ」などに加え、「マーケティング本部」「技術本部」「ものづくりの革新本部」があります。

諏訪技術開発の対象となる商品が多岐に渡る中、技術開発のマネジメントはどのようにされているのですか?

竹川それぞれの事業部に研究部門を置いていますので、私の所属する技術本部としては、「システム開発」「先進コンポーネント開発」「コア技術開発」というように、ベースとなる技術をもとに組織を構成しています。

諏訪技術ベースであれば、個人や法人の垣根を越えて多くの商品をカバーできますね

竹川おっしゃる通りです。もともと、エコソリューションズ社の母体である松下電工は、アタッチメントプラグという金属と成形品のハイブリッド製品からスタートした会社です。そのため、創業から続くその技術をベースに、配線器具やソケット、照明器具へと製品を広げてきた経緯があります。また。技術は時に「深さ」も必要です。そうした意味でも技術をベースとした組織であるべきだと考えています。

諏訪創業から続くベースの技術をより磨き上げていくという意味ですか?

竹川ええ。松下電工を創業の頃から支えた社長の丹羽正治が、「井戸を掘って地下水脈まで到達すれば水は出続けるように、技術も深く掘り下げることで事業はより続いていく」という言葉を残しています。「掘り抜き井戸」という言葉を用いてしばしば説明していましたが、まさに技術も同様です。

諏訪まさに井戸の水が涌き出るように、いろいろと展開できる「極めた技術」が幾つもあれば、たとえ幅広い商品があっても、それぞれを強化することができますからね。

竹川もちろん各事業部のR&D部門でも必要な開発は進めていきますが、その技術を他の事業でも展開できるまでに「掘り抜く」ことが、技術本部の使命だと考えています。ただし、全てがうまくいくわけではありませんから、あくまで種は多く蒔いておいて、その中から絞り込んでいくことも必要です。

諏訪しかし、井戸を掘るといっても多くを掘ることは、決して容易なことではありませんよね。しかも、どこをどの程度掘り進めばよいのか…以前よりも見えにくくなっているように感じるのですが。

竹川確かに、R&Dを取り巻く環境は急激に変化しています。そのため、各世代に合った進め方が必要だと感じています。

 

開発と事業の枠を超えた連携が新たな発想を生み出す原動力に

諏訪各世代に応じた技術開発の進め方について具体的に教えてください。

竹川はい。当社では世代を大きく3つに分けて考えています。まず、第一世代とは戦後から1960年代までの時代のことで、日本全体が大きく発展していた時代です。その頃は、松下電工の創業者もその事業の責任者も、皆が自らで商品の企画や開発を行っていました。
続く60年代以降の第二世代に入ると、「次に何をしたらいいのか」という予測に備えておくため、各社がこぞって中央研究所を立ち上げ、技術者が欲しいものを作り、事業化を推し進めていた時代です。しかし、現在の第三世代では、単に技術者に任せておくだけでは売れるものがそう簡単に作れなくなってしまいました。

諏訪以前に比べ、先の見通しや予測がしづらくなってきたのですね。

竹川ええ。そのため、ますます開発と事業部との連携が重要になってきたのです。

諏訪しかし、言うは易しで、研究部門と事業部の連携はどこの企業でも課題とされていますよね。御社の場合、どのようにして部署間の連携を図ったのですか?

竹川もともと松下電工の主力事業であった配線器具などの事業は、商品と販売ルートを同時に作らないと成り立たないものでした。そのため自然と、開発と販売との距離が他社に比べ近かったのですね。

諏訪共に知恵を出し合う企業風土が、創業当時からすでに根付いていたわけですね。

竹川そうです。例えば、住宅会社さんのモデルルームにお邪魔すると、断熱と結露に関する技術的な話が頻繁に会話に上ります。弊社のマーケティング部門からも我々技術本部に対し、「省エネ機器を売るときにどういう言葉を添えて売ったらよいか」「もっとこういうデータを取ってほしい」と具体的な要望や相談を直接受けることが多々あります。

諏訪なるほど。企業文化的にも、今のマーケティングに求められる活動的にも、技術本部と事業部の距離が必然的に近くなるのですね。そうした部署間の垣根を取り払った連携を成功させるコツは一体何ですか?

竹川連携を進める部署の技術者には、開発による効果を自分自身でも体験することが大切だと伝えています。例えば、自社の商品を自分の部屋に取りつけるなどといったようにね。

諏訪売れるために必要な要望に開発者がただ応えるのではなく、自らも体験してみることで、本当に必要な技術は何かを感じながら、納得して進めていくということですね。

竹川ええ。当社の商品はありがたいことに、自分自信で試してみたり使ったりすることが比較的容易にできますから。

諏訪確かに、半導体加工装置などの事業であれば、自宅でそう簡単に試してみるわけにはいきませんからね。

竹川そう。あと、個人情報を特定できないようにして、例えば、会社の社宅に住んでいる社員にモニターとしてデータを取らせてもらい、「人間はどのくらいのインセンティブを与えられると、実際に節電行動を起こすか」といったことをリサーチしたりもしています。単に節電を呼びかけても、電力消費量はせいぜい15%ぐらいしか抑えることはできませんが、節電効果に応じてささやかなクーポンを付与してあげると、電力消費量はもう少し下がることも分かってきました。

諏訪そのようなデータを採れる環境が社内にあるという点は、御社の強みでもありますね。しかし、事業部門やマーケティングが近すぎると、かえって要求も多く、開発リソースが不足したり対応に苦労したりしまうことはないのですか?

竹川そこは悩ましいところです。そのため、開発リソースを実際に配分する前段階のコミッティーで、「これまでのテーマには現状でここまで使っていて、それぞれの開発テーマに対してリソースはここまで使うことになりますよ」と事前に説明するようにしています。

諏訪事前にコミッティーのメンバーに開発リソースについての情報を開示して、共有をしているわけですね。

竹川そうでないと、「当たるかどうか分からない宝くじを1枚だけ買って、一発当てに行く」ような無理な期待のテーマが増え、本当に狙うべきテーマに必要なリソースを割けない、ということが起こってしまいますので。お互いの意図を明確に出し合うことで、事業部側の理解を促しています。

諏訪開発リソースを見える化して、相手にも真剣に判断してもらうというのはいいですね。案外、頼んでいる方の事業部門は現状を理解できていなかったりもします。散々頼んでおいて、後で「そこまでかかっているとは知らなかった。もっと他にやってほしいことがあったのに」と言われてもどうしようもないですからね。

竹川1960年代以降の第二世代では、一発当てにいくといった開発でも費用を十分に回収できたので良かったのですが、今はそうはいきませんから。

諏訪そうした連携は、開発リソースを決める際にも生きてくるのですね。

 

現場やトップの意識改革が成長戦略を支える原動力に

竹川ええ。我々の取り組みとして特徴的な点はもう一つ、生産技術を担う「ものづくり革新本部」と密に連動して動いている点だと自負しています。

諏訪そうした動きは以前からあったのですか?

竹川ええ。技術本部の前身である「綜合技術研究所」の頃からですね。綜合技術研究所は40年前にスタートしたのですが、研究所を創設した小林さんという当時副社長(後の社長)が、様々なものを混じり合わせてまとめる重要性を示すために、「織機のおさ」の意味を持つ「綜」の字を使った研究所の名前にしました。 すでにその頃から皆で話し合いながら進めるという考え方は根付いていましたが、第三世代に突入し、改めてこうした考え方の重要さをつくづく感じています。

諏訪組織同士が混じり合って連携していくことが、今のパナソニックの礎を築いているのですね。

竹川ええ。それは組織全体もそうですが、責任者にも通じることだと思っています。

諏訪現場レベルだけでなく、部門のトップもということですか?

竹川ええ。パナソニック・エコソリューションズには、技術本部だけでなく、各事業部門にも開発部門の長であるCTOと、ものづくりの責任者であるCMO(Chief Manufacturing Officer)がおります。そこで、「技術本部」「ものづくり革新本部」と「各事業部門」のCTOとCMOが一緒に議論して、プロジェクト運営をともに進める土台があるのです。

諏訪部門を超えた議論を重ねることは、思ってもいなかったことに気付かされるきっかけにもなりそうですね。

竹川私自身、入社した頃はスイッチなど接点の材料を開発していたのですが、何度も開閉していくうちに素材同士がくっついてしまうことが多々ありました。こうした不具合を解消するために、硬くて導電性のある材料を用いることでスペックを満たすことができたのですが、やはり固いものは加工しづらくて、コストも高くなってしまうのです。

諏訪スペックは満たしても、手間やコストがかさんでしまった…。

竹川そう。そこで原因を探ると、目標設定に「加工性」が考慮されていなかったことに気付いたのです。そうした私自身の苦い経験もあって、今ではコミッティーでのチェック機能に加え、事前に目標設定に漏れがないか、事業部側もしっかり見てくれるので助かっています。

諏訪コミッティーにはどんな方が参加していらっしゃるのですか?

竹川4つの事業部門に各1名ずつのCTOとCMOがさらに技術本部とものづくり革新本部にいる6名を加えると、計14名ぐらいが参加しています。

諏訪決定権限を持ちしっかりと議論ができる厳選されたメンバーで行っている点が、うまく機能している理由に見えますね。こうした場の雰囲気作りで工夫されていることはありますか?

竹川会議が儀式にならないよう、カンパニーの体制が新しく変わったタイミングで雰囲気作りには注意を払いました。

諏訪最初が肝心なんですね。最近、パナソニックグループ各社の技術連携も、各社のCTO同士の打ち合わせを通して、以前よりもスムーズになったと聞きましたが。

竹川ええ。CTO同士で行う毎月の定例ミーティングで、各カンパニーが持つ課題を持ち寄って共有しているのですが、いろいろな発見がありますね。 ここではあまり詳しくお話しすることはできないのですが、住宅内の 電波の伝わり方と住宅建材は関係あるかなといった話です。

諏訪そうなんですか。

竹川こうしたことは、機器を扱っている部門がグループ内になければ気付くことはありません。異なる分野のCTOが集まる定例ミーティングだからこそ、解決のヒントが見えたという点は大きな成果です。

諏訪それは、エコソリューションズ社の商材の差別化にもつながるかもしれませんね。各カンパニーのCTO間の技術交流や連携も一層深まっているのですね。

竹川ええ。もともと各グループとも歴史を持った会社同士でしたから、すぐに連携できたわけではありませんが、最近、各グループの技術本部でこれまでばらばらだった部署名や役職名を統一したことも、大きなきっかけになったと感じています。部署名や役職名を統一することで、「うちではその担当は私ではありません」ということが減り、コミュニケーションも円滑になりましたから。

諏訪組織体制自体も見直されているのですね。

竹川さらに、各CTOに求めるミッションもできるだけ統一しようとしています。この取り組みも、新しいモノを生み出す際に会話レベルを合わせることにつながっています。

諏訪なるほど。それは重要なことですね。そうでないと、せっかく集まっても単なる雑談になってしまう恐れがありますから。

竹川そう。このような連携を進めることで、開発者自身が自分や他の事業をより意識できるよう努めています。

諏訪一人一人が事業に対して意識を高めていくということですか?

竹川ええ。R&Dは成果がすぐに出るものではありません。基本はKPI(Key Performance Indicator:成果につながる主な指標)を設定した上で、ステップ管理、ステージ管理をしていきます。しかし、長いスパンのプロジェクトともなると、厳密に計算をして計画を立てることは案外難しく、ともすると、もともとの位置づけを見失ってしまうこともあります。そのため、開発者自信が数年後にどのくらいの規模の事業につながっているのかという感覚を常に持っておくことは、とても重要なことだと思っています。管理というよりはむしろ、事業に対する見方を育成するようなものですね。

諏訪そうした感覚はどのように身に付けていくのですか?

竹川たとえ若い開発者であっても、今自分が進めている開発は売上規模に例えると年間10億円なのかそれとも100億円なのか、はたまた1000億円規模なのかを常に意識するよう伝えています。
例えば、自分の手掛けている開発が1000億円規模の事業であれば、今の事業に照らし合わせると具体的にどういうものが該当しているのか。また、現時点でどこまで普及しているのかをしっかりと認識することが大切なのです。そこで、100億円の事業であれば、今皆さんが広く認知している○△の事業の規模だよねと、という具合に。

諏訪若手であっても、自分たちの研究内容が今どこを目指しているのかしっかりと認識しておくことが重要なのですね。

竹川ええ。さらに、役職が上がるにつれその確度はさらに高めておく必要があります。そのため、ベテランの開発者には、NPV(Net Present Value:正味現在価値)でテーマを計算してもらい、投資対効果が2倍以上になるようなテーマを意識するよう、常々言っています。

 

オープン・イノベーションによる人と技術のさらなる連携がアジア地域の発展と事業成長の原動力に

諏訪売上規模の話が出ましたが、パナソニック全体で言うと、2019年3月期までに、自動車事業で2兆円、住宅事業で2兆円という大きな目標を明確にされていますね。 まさにエコソリューションズ社が、今後のパナソニックにとっての大きな柱の一つを担っていかれるのですね。

竹川ええ。2018年までに0.8兆円の売上の積み増しを目標にしています。

諏訪その成長のエンジンとなる技術開発の役割について、ここまで興味深いお話を伺ってまいりましたが、その一つの鍵が、第三世代のR&Dであること。そして、事業による密着した動き方だと理解できました。
ただ、技術開発には時間がかかるので、他の成長の源泉は、海外事業ではないかと私は考えるのですが、R&Dとして今後、海外事業展開においてどのような役割を担っていこうとお考えですか?

竹川今のエコソリューションズ社の事業で言うと、欧米ではある程度寡占状態になっているので参入障壁は高いと見ています。ですから、まずはアジアを中心に考えています。

諏訪アジアではどのような成長を見込んでいますか?

竹川2007年にインドの電設器具の最大手であるアンカー社を買収したのですが、インドの一部の機器は今の日本よりも進んでいますが、多くはまだ日本の昭和30年ぐらいのレベルにとどまっています。それはインド以外の地域でも同様で、まだまだ我々の入る余地があると見ています。

諏訪まだ伸びしろがあるとお考えなのですね。

竹川ええ。そうなると、R&Dとしては事業部門が過去に国内で行ってきたことと同様のことを世界でも展開していけば、ある程度成長は見込めるはずだと考えています。ただ同じようにやっていては成長の枠が限られてしまいますので、我々としてはもっと主体的に成長させたい領域を選び、現地のニーズをしっかり見極めた上で、技術を掘り抜きたいと考えています。

諏訪日本で必要とされる技術をそのまま持っていくのではなく、地域の状況に応じてカスタマイズするということですね?

竹川ええ。アジアの場合であれば、技術を新たに開発するというより、過去の技術を選択し現地のニーズに合わせて変更を加えることも必要だと思っています。

諏訪では、アジアでの情報収集は今後も強化していかれるのですか?

竹川もちろん。今のアンカー社には開発者が多くいて、インドとシンガポールにも直属のスタッフがいます。シンガポールにいる方はフィリピンとマレーシア出身なので、ある程度この地域の情報収集はカバーできているのですが、インドネシアでは現在井戸ポンプの事業がありこれをベースに新たな展開ができないかとと考えています。そのため、インドネシアにもスタッフがいた方が良いのではとはないかと考えています。

諏訪それはアジアでの企画力を高めるためですか?

竹川そうですね。どうしても風土や言葉が違うと、途中で異なる意味に変換されてしまいますからね。こちらが良かれと思ってやっていることが、翻訳していくうちに日本的な発想に変換されてしまうということはよくありますから。そうかといって、日本的な発想を押し付けても現地では通用しません。

諏訪国の文化や習慣に合わせた展開が必要なのですね。

竹川そう。先日も、中国で省エネの関係の話をしていたのですが、お客さまはまだまだ高度成長下におられて、省エネよりは快適性を求めています。そのため、当社の機器を導入することでCO2の削減が実現できることをお伝えしたところ、ご自分でCO2のセンサーを部屋に設置されて「センサーでこの部屋のCO2濃度が良くなりました」と言われるのです。CO2の削減は、家の空質環境をより良くするためだと間違って受け取られていたのですね。こういう誤解がまだまだ頻繁に起こりますから、現地の言葉でしっかり説明できるようにしないといけませんね。

諏訪今後は、他社と技術の連携も視野に入れていらっしゃいますか?

竹川もちろんです。それぞれの技術に関しては「掘り抜き井戸」を意識していますが、エコソリューションズ社の事業の対象である住宅は多様な技術の集合体です。これまで、あらゆる技術を集積し事業の幅を広げてきましたから、そうした意味では、今後もさらに技術の幅を広げたいと考えています。そのためにも、異業種でビジネスモデルが異なる企業との連携は積極的に進めていきたいと考えています。

諏訪オープン・イノベーションも視野に入れていらっしゃるということですね。

竹川はいそうです。

諏訪異業種との連携といっても実に様々ですが、どのくらい異なった相手との連携までをイメージされていますか?

竹川意味のある連携ができるのならどんな分野でも考えたいです。最近ですと、ビニールハウスを使用したほうれん草の栽培事業などは農業との連携です。

諏訪まさに異業種との連携ですね。

竹川ええ。当社の構内に、ほうれん草を育てるためのビニールハウスを設置し、エアコンに頼ることなく夏でもある程度温度を下げられる環境作りに取り組んでいます。

諏訪ほうれん草の旬は冬でしたよね。

竹川ええ。暑い夏でも美味しいほうれん草が作れるよう、設備投資やランニングコストを抑え、ハウス内の温度を下げる取り組みを進めています。連携当初は、今さら農業に手を出したところで一体我々に何ができるのかという不安もありましたが、実際に農業法人の方たちとの交流を進めていくうち、こちらが知っていることも相手にとっては新鮮だったり、逆にこちらが気付かされる新たな発見があったりと、互いにとって価値のある気づきが多かったのです。

諏訪交流してみて初めて気が付くことも多いのですね。

竹川例えば、住宅で培った温度管理の技術をもとに、ビニールハウスの温度を下げる方法をこちらが提案すると、先方からは「何でそんな方法でやるのか?」と言われてしまう。しかし、実際に試してみるとちゃんと温度が下がるのですね。

諏訪御社の場合、扱う商材が幅広いため、今後の活躍の場は異業種や海外など様々なフィールドへと広がっていきますね。
この対談の読者の中には、エコソリューションズ社でのR&Dに興味がある方も多いと思います。最後に、そうした方へのメッセージをお聞かせいただけますか?

竹川幅が広いと言っても我々が扱うものはどれも生活に身近なものばかりです。案外皆さんは満足してしまっているかもしれませんが、そういう中で、もっと変わったことに取り組みたいという方がいらっしゃれば、どんどん挑戦できる環境です。

諏訪確かに御社の製品であれば自宅で簡単に実験することが可能だし、生活の中にヒントがあるかもしれませんね。

竹川そうです。例えば、当社の手掛ける調光や調色ができる照明を例に挙げると、自宅でも実際に試すことができますからね。

諏訪その点はこれまであまり意識したことがありませんでしたが、研究者にとっては気持ちに大きく影響しそうですね。

竹川ええ。最近は電球でもスイッチを入れ替えると、白くなったり赤みを帯たりと光の変色をすることができるようになりました。
その技術を応用し、朝のシャワールームで朝陽に似た白い光を再現すると爽やかな気持ちを得ることができるようになったり、逆に夜であれば一日の疲れを癒やし、ゆったりとした気持ちになれたりするなど、色の違いによる体の時間感覚についても分かってきています。

諏訪そうした光の変化はあらゆる状況で応用することができますね。

竹川お子さんが勉強する際に字がくっきり見える光など、最近はLEDを使用した照明一つで調色や調光ができるようになっています。これまで以上に自由度が高まり、目的や用途に応じた使い分けができると信じています。

諏訪これまで以上にどんどん試して、さらに評価し提案できる環境になってきているのですね。
本日は貴重なお話をありがとうございます。

竹川こちらこそ、ありがとうございます。

(2014年9月17日)
PROFILE: 竹川 禎信 (たけかわ よしのぶ)

1980年 京都大学工学部卒業
1980年 松下電工株式会社 入社
2009年 パナソニック電工株式会社 執行役員 情報機器事業本部長
2010年 上席執行役員 全社技術副担当 R&D企画室長
2012年 パナソニック株式会社 エコソリューションズ社 事業役員
2013年 常務 全社技術・デザイン・知的財産・事業開発担当