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JSR株式会社

代表取締役副社長執行役員 佐藤 穗積

タイヤ素材をはじめ半導体製造用材料やディスプレイ材料と、石油化学や電子材料で世界をリードする「JSR株式会社」。
時代のニーズに応じた新規素材の開発にも力を入れ、近年ではライフサイエンスや環境・エネルギーなどへの進出も目まぐるしい。
とどまることなく常に新しいフィールドへ挑み続ける同社の代表取締役副社長執行役員・佐藤穂積氏に、成長を支える企業スピリッツについてお話を伺いました。

1 on 1からDiffusionへ
事業シフトにより変わる顧客との距離感

諏訪御社はもともと合成ゴムの製造からスタートされたわけですが、時代に応じてその軸足を合成ゴムから電子材料へとシフトし、最近ではライフサイエンスや環境・エネルギーにまで事業領域を拡大していらっしゃいます。企業として事業領域をシフトすることは決して容易ではないと感じるのですが、事業の拡大を成功に導いた背景や戦略について教えていただけますか?

佐藤はい。まず、JSRの企業理念は「Materials Innovation」です。マテリアルを通じて価値を創造し人間社会に貢献するという意味ですが、この根底には、「持続的成長」というぶれない“軸”のような考えがあります。

諏訪それは具体的にどういうことですか?

佐藤企業は、いつまでも同じパターンを続けていては、いつか他社に負けてしまう。そうならないためにも、我々は常に「変革」を意識し、前へ進んでいかなければなりません。そのため、社員一人一人が「持続的成長」というマインドを軸に持つことは必要だと思っています。こうした考えがあるからこそ、事業の軸をシフトすること自体にさほど抵抗感はありませんでした。

諏訪なるほど。企業が持続的に成長していくには、時代に応じて柔軟に事業を転換させることも、ある意味当然ということですね。

佐藤ええ、そうです。

諏訪しかし、事業をシフトする上で、R&Dの運営についても大きな変化が必要だったのではありませんか?

佐藤世の中の技術がものすごい速さで変遷する今、かつて我々が合成ゴムから主軸を電子事業へとシフトしたように、今また我々はライフサイエンス、環境・エネルギーに事業の舵を切ろうとしています。新領域で他社に追いつき、自分たちにとって有利な立ち位置を築くことは、以前に比べ大きなチャレンジでもあります。

諏訪それは合成ゴムから電子材料へと軸をシフトしたころと比べ、取り巻く環境がずいぶん変化したからですか?

佐藤ええ。変化の一つは顧客のグローバル化です。JSRがかつて電子材料に事業の主軸をシフトしたころは、日本が半導体やディスプレイを強みとしていた時代だったため、技術交流を行う上でも、お客様を訪問して顧客の生の声を聞く上でも、地理的に有利でした。
しかし、ライフサイエンスにしても環境・エネルギーにしても、先端技術を保有する企業や顧客はアメリカやヨーロッパが大半です。そのためこれまでのように国内にとどまっていては、世界をリードすることはできません。

諏訪以前に比べ、技術も顧客もグローバル化しているということですね?

佐藤そう。そのため、JSRでは海外の顧客ニーズに対応するため、ここ3年くらいで海外拠点のR&Dを強化しました。ライフサイエンスについては、シリコンバレーにある半導体の拠点に加え、新たな研究所の立ち上げを早急に進めているところです。さらに、従来の半導体や液晶ディスプレイ(LCD)に関しても、アメリカ、ヨーロッパ、台湾、韓国に製造拠点を置いていますが、今では製造機能に加え、R&Dの機能も持たせています。

諏訪地理的な問題以外に、開発の進め方やスピードでこれまでとの違いは感じますか?

佐藤ええ、大きく異なります。例えば、以前であればLCD事業に進む際などは、国内メーカーがアプリケーションを開発する初期段階からプロジェクトに参加することができました。そのため、競合の数も限られており、開発当初から有利な立場に立つことが可能でした。また、お客様とともにトライ&エラーをする必要があったので、スピードもそれほど急ではなかった。しかし、ライフサイエンスや環境・エネルギーの分野にはすでに初期段階からはるかに多くの競合がいて、当然スピードも求められる。

諏訪以前の経験をそのまま踏襲できるほど、甘くはないということですね?

佐藤はい。ですから、以前の良いところは活かしつつ、今の環境に合う形で打ち手を入れ込むというやり方で進めています。

諏訪振り返ってみて、以前の進め方で良かった点はどんなところですか?

佐藤二つあります。一つは、自分たちの強みであるコアのテクノロジーの高分子技術から、何らかのつながりのある出方ができたこと。もう一つは、お客様と早い段階から一緒に動けたので、評価技術能力を高めることができたことです。

諏訪なるほど。得意分野を活かし、開発の初期段階から顧客と組むことができたのですね。

佐藤ええ。半導体の露光機や評価機器はとても高額なものでしたが、しっかり投資をして評価のインフラを整え、評価能力も技術として高めることができたお陰で、お客様と技術的なやり取りができる段階にまで成長できたことは、我々にとって大きな成果でした。
また、開発されたモノの評価の仕方について取得することができた点も大きいですね。

諏訪それこそがまさにJSRのホームページ内でも発信されている佐藤さんのメッセージ、「有力な顧客と密接な関係を構築し、その中からマーケットニーズを把握して、デファクトスタンダードになりうる製品を作る」の背景でもあるのですね。

佐藤ええ、おっしゃる通りです。

諏訪そうした経験は、今回の事業変革にも活きているのでしょうか?

佐藤リーディングエッジの会社と1対1でがっちり組むことを弊社では「1 on 1(ワン・オン・ワン)」という言い方をしています。この進め方は、ある意味でJSRの成功パターンだったのですが、今の時代、ライフサイエンスや蓄電デバイスなどの環境エネルギー領域で同じように通用するとは限りません。

諏訪それには顧客の数と関係がありますか?

佐藤ええ。ライフサイエンスや環境・エネルギー領域には、顧客が数多く存在している上にグローバルです。そのため、採るべき方法は必ずしも1 on 1ではない。
特に、ライフサイエンスにおいては、面白いアイデアがあって実際にモノができていたとしても、自分たちでどう使ってよいのかさえ、分からないことがあります。

諏訪使用方法が数多く存在するということでしょうか?

佐藤ええ。昔なら、その商品がいずれものすごいビジネスにつながる「キーマテリアル」になるかもしれないと、可能性に期待して社内で抱え込んでいたものです。
しかし、今は逆です。世の中のスピードが速いため、何か新しいものを開発しても社内で温めることで、その価値が失われてしまうのではないか…と不安に感じてしまいます。

諏訪つまり、オープンにしていくことが必要なのですね?

佐藤そうです。できるだけ早く知っていただく活動が必要で、これを社内で「Diffusion(拡散)」と呼んでいます。しかし、JSRが辿ってきたこれまでの事業を振り返ってみても、Diffusionをしたことはあまりありません。

諏訪機能性材料はいろいろな用途で広く使われていますから、意外な気もしますが…。

佐藤もともと、JSRとは、「Japan Synthetic Rubber(日本合成ゴム)」ですから、電子材料に事業をシフトする以前からの主要なお客様はタイヤメーカーでした。タイヤメーカーの数は限られていますよね。何百、何千とあるわけではありせんから、1on1の関係でビジネスをやることができた。それは、半導体材料やLCD材料に事業領域を拡げたころも同様で、取引先の大きなリーディングエッジのお客様の数は限られていました。

諏訪しかし、今のライフサイエンスや蓄電デバイスには当てはまらないのですね?

佐藤そうです。もう自社だけではカバーしきれないくらい本当に色々なことが世の中では行われていますから。自分たちでできる事業領域は限られているので、それ以外の領域で我々の技術を積極的に活かしていただけるのならば、自分たちにとってもハッピーだという考えから、これまであまりやってこなかった出口を探すDiffusionという活動も、今は積極的に行っています。

諏訪技術を自分たちの事業ドメイン以外に出すことによって、どのような効果がありましたか?

佐藤1番ありがたかったのは、自分たちにとって新しい市場の気付きがあったことです。これまで目を付けていなかった市場から、JSRの材料を使いたいという声が上がってきたことはとても大きな発見でした。

諏訪それは、新たなマーケット情報を得る機会にもつながりますね。

佐藤まさにそうです。JSRのビジネスはB to Bですから、我々のお客様が最終的にコンシューマーに対してどういう形のものを作るかという予測はできません。そのため「そんな出口がこれからできるの?」という方向が見えるのは、我々にとってありがたい。

諏訪技術情報の発信手段として、弊社のオープン・イノベーションもご利用いただいておりますが、それ以外にどのような情報発信をしていらっしゃいますか?

佐藤例えば、環境・エネルギーの領域でいうと、リチウムイオンキャパシタの活動がまさにそうです。JSRでは日本発で規格を作りたいと考え、一生懸命多方面に働きかけています。我々が日本のメーカーの旗振り役を務めることで色々なことが発表されれば、JSRの名ももっと広まりますからね。

諏訪ライフサイエンスの領域ではいかがですか?

佐藤今、力を入れて取り組んでいるのが、大学や製薬メーカーさんと一緒に、できるだけ多くの論文を発表することです。

諏訪論文ですか?

佐藤ええ。ライフサイエンスというのは、論文を通して「ウチもこういうのを使ってみよう」という反応が即座に得られます。しかも、論文はインターネットでグローバルに広がるので、世界中の人に効率的よく知っていただくことができる。情報発信に関しては、グループ企業も含めて自社ホームページでの情報発信にも力を入れていますよ。

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