NINESIGMA TOP > 研究開発TOPとの対談 > 第6回 三菱化学株式会社 執行役員 経営戦略部門長 浦田 尚男

三菱化学株式会社

執行役員 経営戦略部門長 浦田 尚男

求めるのは「専門知識」ではなく
「壁を乗り越える力」と「研究力」

諏訪ここまでお話を伺ってくると、技術が未完成のままお客さんと対話をしたり、将来の市場を予測してイメージしたり、時間軸を意識して社外のパートナーと組んだりと、従来とは異なるスキルを研究者に求めていらっしゃるように感じました。
御社では、これまでと異なる動きを研究者に期待していらっしゃいますが、そのような会社の考え方の変化に、研究者は自然と対応できるものでしょうか?

浦田もともとの素養ももちろん影響しますが、研究機関の雰囲気だとか、人材の育成方針・育成プログラムによって、大きく変われると思っています。

諏訪ということは、採用の段階でも、そうした変化に応じる「対応力」を見ていらっしゃるのですね?

浦田そう。アカデミックの世界で評価されるような、「10年という時間軸で一つのテーマに集中して成果を上げる」という考え方を持っていては、必要とされる領域がめまぐるしく変化する企業の研究において、その力を発揮するのは少々難しいように思いますから。
また、細分化された分野のみに高い専門性を持っていることも、企業の中ではなかなかマッチできません。
そのため、大学の修士や博士課程を経た方を「どのような研究に取り組んでいたか」ではなく、「どのような『研究の仕方』をしてきたか」という視点で評価しています。
大学では、先生から研究方針に関する指示が明確に出されると思いますが、大抵は思い描いたような結果にはたどり着けません。しかし、壁にぶつかった時にどういうプロセスを経て壁を乗り越えるのか、大学で学んでいるはずですから。

諏訪「専門性」ではなく、「研究する能力」を評価されているのですね。

浦田そう。ですから、企業の研究においては、大学で有機化学を学んだ研究者であっても、無機化学をテーマに与えられることがあります。
会社としては、今は無機化学の「研究」をやってほしいからそうするのであって、さらに言うと、大学で学んだ「研究の仕方」を無機化学でも活かしてほしいから、研究者にはそのようなテーマが与えられたと理解してほしい。もちろんスタートする上では、無機化学の勉強をしてもらう必要はありますが…。

諏訪大学で「研究の仕方」を養ってきた研究者は、世の中の環境変化に対応する力をすでに備えているわけですから、企業での活躍の場が増えそうですね。

浦田そうですね。企業の研究所が一つのテーマを長年追い続けるということは、まずありません。私は研究者に対して、一つの専門性にこだわらず、「研究の能力」を活かし、磨いていきながら、極めるまではいかなくても、3つくらいの専門性を自分の能力として身に付けてほしいと思っています。

諏訪時代が変わり、事業がどんどん変化しても、これこそまさに「研究の能力」を活かす場だと考えることができれば、それはむしろ、いろんなチャレンジができる絶好の機会だとも捉えられますからね。

浦田ですから、研究者には常に柔軟で前向きな気持ちで研究開発に取り組んでほしいですね。

諏訪本日は、技術が完成する前のお客さんとのキャッチボールの重要性、事業の時間軸を考えることによる「脱・オール自前主義」。「研究の仕方」を学ぶことの重要性、変化に対する適応力を身に付けることの大切さなど、さまざまな視点で、貴重なお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。

浦田こちらこそ、ありがとうございました。

(2013年6月14日)
PROFILE: 浦田 尚男(うらた ひさお)

1984年3月 東京工業大学 総合理工学研究科博士課程 修了
1984年4月 財団法人相模中央化学研究所 入所
1991年1月 三菱化成株式会社(現三菱化学株式会社)入社
2000年5月 筑波研究所 合成研究室長
2003年7月 (株)三菱化学科学技術研究センター R&TD事業部門、有機合成・錯体触媒研究所長
2010年4月 経営戦略部門経営企画室長
2011年6月 執行役員(現任)、株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員(現任)
2012年4月 経営戦略部門長(現任)
     株式会社三菱ケミカルホールディングス
     グループ基盤強化室R&D担当、グループ基盤強化室知的財産担当(現任)