前回、広くアイデアを出させるタイプのオープンイノベーションの使い分けについてお話をしました。今回は、どうすれば結果を出せるのか、その成功の鍵について説明していきます。
まずは重要なのは、アイデアを持っていそうな人たちに広く参加を働きかけることです。ハッカソンやコンテストは、やろうと思えば誰にでもできます。しかし、アイデアを持った人に対して参加を促せていないと「毎年、同じような学生ベンチャーから、代わり映えのしないアイデアしか来ない」という状況に陥ってしまいます。
特に重要なのが信用とインセンティブです。特許で守れるテクノロジーと違い、アイデアは自分の権利を主張しにくいものなので、なかなか開示したがりません。伝えた後に、自分たちも考えていた、と言われて使われてしまったらそれまでですから。そこで、依頼企業が信用の証として社名を開示し、アイデアの選定の基準や方法を明確にした上で、「採用するアイデアはあらかじめ設定した懸賞金と引き換えに使わせてもらう。採用しないアイデアは、非公開のままお返しし、使わないこと約束する」と明確に伝えるのです。ここまでやることで、事業価値の高いアイデアを出してもらいやすくなります。
インセンティブに関しては、コンテストなどのイベントや、その主催者の知名度や求めるアイデアの性質とのバランスも重要です。認知度の高いコンテストの受賞がその後のキャリアに大きくプラスに働くデザインの分野や、例えばNASAのような機関が「月や火星などの地球外探査において建設に使える、現地で構造物に変換できる材料のアイデア」を集めるとなると、これは選ばれるだけでも名誉になるので、懸賞金が100万円以下でも実績のある個人や組織も多数参加してきます。知名度の高い大手企業が本業の分野で募集をし、受賞者を自社のホームページで発表することで、受賞後の協業を約束することもキャリア上のPRになりやすいので参加者は集まりやすくなります。
一方で、あまり知名度の高くない会社が、IoT×ヘルスケアでのコンテストで100万円の賞金で募集をかけたとしても、本当に優れたアイデアを持っている人からすれば、自分で資金を集めて自分で事業化した方が良い、と考えてしまうので、求めるアイデアは集まりにくくなります。
最後に重要なのが、イベントの開催期間とインセンティブのバランスです。よく「ハッカソンをやっても、出てくるアイデアが小粒で...」という話を聞きますが、例えば1日で作れるのはせいぜい小さなアプリぐらいで当然です。試作を伴う作りこまれたアイデアが欲しいのであれば、コンテストの認知期間、アイデアの構想期間、そして試作製作期間まで考慮したコンテスト開催期間の設定が必要となります。また、参加する側にとっては、アイデア構想や試作製作にかかる工数や材料などコストがかかります。特に実績のある相手に参加してもらうためには、その期間の彼らへの委託費や材料費を大きく上回る受賞者への賞金規模が必要となります。
そこまで投資するメリットが、アイデア収集型オープンイノベーションにあるのでしょうか? こちらについては次回お話します。