The Next Move 1『 CVCを新規事業創出の鍵とするには?』

新トップ対談シリーズ『The Next Move』

日々オープンイノベーションの課題に取り組まれている日本企業の皆様にむけ、CEOの諏訪暁彦がさまざまな視点から変革につながる新たな鍵をお届けできればと、新しい対談シリーズを企画いたしました。どなたにどのようなお話を伺うのかも、諏訪独自の切り口で企画いたします。月一回程度の不定期更新ですが、ナインシグマならではコンテンツをお楽しみ頂ければ幸いです。

編集部 

The Next Move1

CVCを新規事業創出の鍵とするには?

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今、ベンチャー企業の活力を取り込んだ新規事業創出の手段として、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が注目を集めています。しかし、これまでの多くのCVCは財務的な視点を重視したものが多く、戦略的な新規事業創出に役立つ仕組みとしては不十分な点も多かったとも言われています。

そこで、これまでGPとして数々の経験と実績のおありになる古我知史様より、CVCをご検討されている企業様に向け、CVCの現状や成功のための鍵について、また先日発表いたしましたナインシグマとFVC様との業務提携に関しましてもご期待やご懸念をざっくばらんにおうかがいできればと思います。

 

 

諏訪 従来の「技術探索型」に加えて「テーマ創出型オープンイノベーション」で、新しいアイデアや技術を持ったスタートアップ企業との協業で新規事業を創出する「テーマ創出型オープンイノベーション」の需要も拡大してきました。

ナインシグマ・ホールディングスCEO 諏訪暁彦

ナインシグマ・ホールディングス CEO 諏訪暁彦

本日は、国内において数多くのCVCに携わってこられ、また海外の事情にも精通していらっしゃる株式会社チームクールジャパン代表取締役古我 知史様に、日本の大手企業にとってのCVCの役割、そして成功の鍵についてお伺いします。

最初に、読者の皆様に古我さんのバックグラウンドについて、ご説明いただけませんか?

 

古我 モンサント、シティバンクを経て33歳のときに起業し、その後、マッキンゼー&カンパニーに2年半在籍したのち、1997年に2度目の起業をしました。

その後始めたのが、独立系ベンチャーキャピタルのウィルキャピタルマネジメントです。以来、自分が起業で苦労をした経験がありますので、スタートアップ企業への支援事業を数多く手がけてきました。

 

新しいビジネスモデルへの、成長投資が可能な仕組みがCVC

諏訪 さて早速ですが、本日の主題であるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)についてお伺いします。特に新規事業創出の手段として、注目を集めていますが、CVCとはどのようなものでしょうか。 

古我 コーポレートベンチャーキャピタルは、ベンチャーキャピタルの一形態です。事業会社が戦略目的の投資のためにつくるベンチャーキャピタルです。従来、新規事業創出の際によく取られる手法といえば、社内でR&Dを行うか、M&Aでベンチャーを買い取るか、アライアンス方式で外部提携するかですね。

しかしながらM&Aは日本ではベンチャー側が敬遠しがちなので成立しづらい、アライアンスは複数の企業と契約されやすく得るものが限定されやすいといった難点があります。その点CVCならば間接的に出資する株主の立場でアライアンスを結び、企業と出資先が双方補完し合いながら連携できます。

 

諏訪 つまりCVCによる投資はM&Aとアライアンスの中間的な、技術を持つベンチャーにとっても資金や仕組みをもつ大企業側にとっても受け入れやすい形態というわけですね。企業側は、外部のスキルにほどよい距離感でアクセスできる仕組みとして、うまく活用できそうですね。具体的にどのようにCVCを作ってゆくのか、その仕組みについてもう少しご説明頂けますか?

古我 大きく分けると、ジェネラル・パートナー(以下GP)を子会社に置いて子会社でCVCをつくる直接投資の形と、外部にGPを任せて意思決定まで権限委譲する、二つの形態があります。*編集注 GPは、無限責任を負ってファンドを運営し、ベンチャーへの投資や支援への業務執行を行う無限責任組合員。一方で、出資だけして業務執行までしない有限責任組合員をLP(リミテッドパートナー)という。

 

株式会社チームクールジャパン 代表取締役社長 古我智史 様

株式会社チームクールジャパン 代表取締役 古我知史 様

前者の形態は、子会社の形でもGPが自由な意思決定をしやすい組織風土や人材調達スキルを持つ企業には有効です。Googleキャピタル、Intelキャピタルなどが典型だといえるでしょう。

後者のメリットは、組織的な意思決定の縛りを回避できることです。事業分野や狙いを共有したうえで、外部のプロに任せることで新しい投資へのポートフォリオを組めますから。

 

 

既存事業を脅かす、新しいビジネスモデルにも投資を可能に

諏訪 企業はCVCを主にどういった目的、領域で活用しているのでしょうか。

古我 一つは、新しい事業やビジネスモデルを探して投資する目的です。もう一つは、既存事業を補完する領域で、新しい人材やリソースを増やす場合もあります。

既存のビジネスモデルに影響を及ぼす事業への投資は、社内の組織的な意思決定では避けられがちです。しかしCVCを通じて外部のパートナーと組むのであれば、従来は投資できなかった既存事業を良い意味で破壊する可能性のある事業、つまり既存事業の延長でない事業に関与できるメリットがあります。

 

 

諏訪 まさにディスラプティブなモデルの実現ができるわけですね。確かに、自分たちだけで戦略を決めていると既存事業の成功体験が邪魔をして、落とし穴に嵌まることがあります。そのような時にも外部のパートナーを使うことで、既存事業を脅かす可能性のある新しいビジネスモデルへも、広く網をはっておくことができますよね。

昨今は多くの市場が右肩あがりでなくなってその中での取り合いが激化し、かつ環境の変化がものすごく大きく早くなっています。自社のリソースだけだと変化に対応できないというリスクがあるので、ある程度フレキシブルに動かせる外部リソースを活用する考え方は、リスクを小さくするのにも有益でしょう。180409_020 (1)

古我 また全く別の視点なのですが、CVCを通じて出資先のベンチャーに人材を置かせてもらうと、全く違った分野の知見や、異なるワークスタイルや考え方を持つ人と働く経験を得られるので、人材開発の機会にもなります。同時に、修羅場体験ともなるでしょうが。

加えて、辞めよう、独立しようと思っている人を留まらせるというような使い方もあります。技術シーズが豊富な人材や起業家精神が旺盛な人材をCVCという形で潜在的に抱えるやり方は、日本の企業にはお勧めだと思います。

 

 

コミットメントは、金額ではなく年数

諏訪 CVCの規模としては、どの程度のものが適切なのでしょうか?

古我 営業利益の5%以内が一つの目安といわれていますが、私は日本の場合は特に額の大小よりも、継続的にコミットしてこそだと考えます。アメリカの企業が一説にR&D予算の4割をCVCに充当するとのデータもありますが、R&D予算規模の1~2割や、マーケティングリサーチ、コンサルティングの費用の一部をCVCの原資に当てる考え方もあるでしょう。180409_002

CVCが最も進んでいるアメリカでは、年間のフローの投資額はすでに1兆円を超えているのに対し、日本では以前からすると劇的に増えてはいますが、まだ1000億円は超えてはいないでしょう。日本の大手企業の内部留保は約400兆円もあるにも関わらず、です。リスクマネーに対するネガティブな日本の企業社会風土が背景にあるようで、残念ですが日本では、新しいテクノロジーやビジネスモデルの創出にかける投資や費用が圧倒的に低い。特にスタートアップの段階での投資には消極的です。

アメリカではシーズ(スタートアップ)からレイトまで、様々なステージの技術やベンチャー企業へ、目的に応じて多様なCVC投資を展開しているのに対し、日本の会社でこれまでCVCを手がけた事例の中心は、実装に近く時間も読め、成功比率も高いと考えられる、レイトステージに偏っているとの指摘もあります

諏訪 それは同時に技術の選択肢を狭めることになりますし、投資金額が膨らむことにも繋がります。そのような企業風土の違いもあって、シリコンバレーでは、日本の大企業はあちらのコミュニティになかなか受け入れられることが難しいという話も聞きました。企業側はベンチャーに選ばれる立場になり得るか、その視点がないとダメですね。

 

パートナー・オブ・チョイスを大前提として 

諏訪 オープンイノベーションにおいても「Partner of choice」という考え方―選ばれるパートナーに自分たちがならなければならない、という大前提があります。CVCをむやみにつくっても良い候補先に受け入れてもらえなければ、本末転倒になってしまいますよね。その視点は、意思決定をしない、遅い、投資規模が小さい、と思われがちな日本の大企業にとっては重要なポイントでしょうね。

古我 世界経済の関心が”日米欧”から”中米欧”になりつつあるなか、日本の大企業は本当に目覚めないといけません。直接投資もM&Aとともに、オープンイノベーションにもコミットしていかないと変われない時代です。まさに、今やらないでいつやるのかと思います。CVCはそのきっかけとなる一つの仕組みだとも言えるのですよ。

 

 

諏訪 日本の企業でCVCを運営していくうえで、プロからご覧になって現在、一番欠けている『成功の鍵』とはどういったことでしょうか。

古我 まず、CVCを設立した後、無用な議論や意思決定の振り返りをせず、必要な経営資源を惜しまずに対象となるベンチャーに対して、直接的もしくは間接的に継続投入をすることです。統治せず、もっぱら支援すると良い成果を得られるのですが、そこをはきちがえる傾向が日本の大企業に見られます。

もう一点は、繰り返しになりますが、コア事業領域や自社の戦略的意思決定の基準に決してこだわってはいけない、ということです。ビジョン、戦略、投資対象分野をしっかりと決めておくことは大事ですが、個別のインキュベーションに関しては、外部から招聘した人材やプロの意思決定や事業育成手法に委ねることが肝要ですね。

 

 

諏訪 ナインシグマは、これまでベンチャーと大企業のマッチングを多数手がけてきて、世界中の技術を持ったベンチャーとネットワークを持っていますが、CVCへはその価値をどう活かせるでしょうか? 180409_027

古我 従来は企業の既存事業の延長線上にあるニーズからマッチングを図ることが多かったと思いますが、今後はCVCの潮流である新しいビジネスモデルにテクノロジーをどう落とし込むかといった視点でベンチャーへのアクセスを増やしていくことが価値につながっていくと思います。

諏訪 昨年から始めた「ディスラプティブ・イノベーション・ピッチ」の選定の基準は、企業が進出したい新規事業分野において、とにかく革新的かどうかなんです。革新的なテクノロジーを持ったベンチャーを多数開拓しています。

古我 ナインシグマさんが日本の企業に対して貢献できることは、海外企業の開発の進め方の大きな変化を伝え、日本企業の成長への変化を喚起すること。その一つとして大企業の既存事業に代わる新たな仕組みをつくるために、大企業と挑戦的なベンチャーをつなげていくことが重要な役割になってくると思います。

諏訪 弊社は世界最大のグローバルな技術者・において研究者ネットワークを駆使して、一歩進んだ「技術の目利き」として、今後も世界中からシナジーを生む最適なベンチャーを見出し、オープンイノベーションに取り組んでまいります。

本日は、CVC×オープンイノベーションという新しい分野のトピックスに、古我さん、大変有益なお話を誠にありがとうございました。

 

 

 

180409_013古我知史様 プロフィール

モンサント、シティバンク、マッキンゼー&カンパニーを経て、ウィルキャピタルマネジメント株式会社並びに株式会社チームクールジャパンの代表取締役を兼任。京都大学産官学連携本部フェロー、龍谷大学経済学部客員教授。独立系キャピタリストとして累計70社を超える起業や事業開発、投資育成の現場に独立取締役などの立場で参画。関与先にアニコムホールディングス株式会社、株式会社フォリフォリ・ジャパン、株式会社卑弥呼、AHBインターナショナル株式会社(現・イオンペット株式会社)、株式会社フィルカンパニー、株式会社エボラブルアジア、株式会社セルムなどがある。表に出ず縁の下からスタータップベンチャー支援に特化してきた孤高のキャピタリスト。