先端企業の取り組み7. シーメンス:社会の将来像から研究開発の方向性を決定する

本コラムでは、オープンイノベーションに取り組む先進的な世界的企業3社の活動を紹介しています。フィリップス、モンデリーズ・インターナショナルに続いて最後に取り上げるのは、欧州を代表する多国籍企業、シーメンスです。

シーメンスは電力設備、医療機器、家電製品など、多岐にわたる事業を手がけるコングロマリットです。昨今は欧州のインダストリー4.0のムーヴメントでも中心的な役割を果たし、次世代に向けた活動にも積極的です。

 

フィリップスやモンデリーズのような新規事業や特定の事業を成長させるためのオープンイノベーションとは異なり、シーメンスでは、社内外の組織を巻き込んで社会の将来像に関する大胆な予測を立てるという活動にオープンイノベーションを活用していました。そしてその結果を、次世代の研究開発における自社のテーマ策定に役立てていました。

 

この具体的な内容について、シーメンスでHead of Corporate Technologyを務めるHelmut Wenisch氏の講演内容を3回にわたってレポートします。

 

将来の研究開発の仮説を立てる「Picture of the Future」

 

シーメンスでは2003年から、エネルギーや石油化学、ヘルスケアなどさまざまな分野の将来像を予測し、その結果を自社の研究開発テーマにフィードバックする「Picture of the Future(PoF)」という活動を行っています。

 

例えば「世界のデジタル化の進展により、ロジスティクスや交通はどう変わるか」「情報のオープン化が進むと、世界の企業や大学の研究開発体制はどう変わるか」などの問いを設定し、社内外の専門家と議論を深めて、さまざまな分野の将来像を構想します。そして、PoFを通じて得られた将来像から、自社の研究開発で力点を置くテーマを検討しています。

 

シーメンスのPoF活動は、単に社会の趨勢を見定めるだけでなく、下記のような2つの大きな効果があるとWenisch氏は述べています。

 

  1. 事業シナリオの創出
  • 特定のテーマに関する将来予想図を描くとともに、現状分析によって、不確定な将来像について予測の精度を高めることができます。

 

  1. 社内における方向性の共有

 

  • Wenisch氏は「PoFはあくまでも社内コミュニケーションのための取り組み」とも語っています。つまりPoFには、スタッフ間の隔たりを埋めるコミュニケーションの機能もあります。PoFの作成プロセスで将来像を描きながら、社員や有識者が活発なコミュニケーションを推し進めることで、モチベーション向上の効果が期待できます。

 

  • 事業部門と研究開発部門が合意して長期的な予測やビジョンを描くことは、一般的な企業では意外に困難です。特に具体的な将来のビジョンがない状態で、研究開発計画を策定し、かつそれを実現可能なプランにすることは難しいといえます。社内メンバー内で将来像を共有し、具体的な計画に落とし込むためにPoFは役立っています。

 

将来的なビジョンの構想や、社内外のコミュニケーションを活発にする取り組みは簡単にみえますが、実は多くの日本企業が実践に苦労しているのではないでしょうか。

 

holding future in sky

 

 

PoFは将来の研究テーマの発掘という戦略的な側面に重きを置かれた取り組みに見えがちです。ところが実際には、ビジョンを持つ、コミュニケーションを深めるというコミュニケーション活性化の効果が大きい点において、とても興味深い活動と感じました。

 

次回はPoFの取り組みの詳細について、Wenisch氏の講演と参加者とのディスカッションを紹介します。