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先端企業の取り組み5.モンデリーズ:イノベーションに必要な3つの改革

オープンイノベーション
体制作り
成功事例

世界的な食品メーカーモンデリーズのオープンイノベーションの取り組みについて、前回は概要と特徴的な取り組みを紹介しました。今回は、モンデリーズAbraham氏に講演いただいた具体的な内容と事例を紹介します。

 

イノベーションに必要な3つの改革

<Abraham氏>

モンデリーズは、ナビスコやクラフトフーズなど、50社以上の会社が買収と合併をして成立した企業です。これまで、どのような方法で、多様なバックグラウンドのある研究者を取りまとめ、オープンイノベーションを実践してきたのか紹介しましょう。

 

オープンイノベーションに限らず、イノベーションを起こすためには、「カルチャー」「プロセス」「ツール」の3つの観点から改革が必要になると考えています。

 

第一の「カルチャー」は、社員の意識改革です。モンデリーズも以前は自前主義の企業文化が強く、オープンイノベーションに消極的な傾向がありました。このような内向きの企業文化から、オープンイノベーションに適した外向きの企業文化に変えていきました。つまり、リスクを取ることを奨励し、多様な意見が尊重される企業文化への転換です。

 

第二の「プロセス」は、付加価値を生まない作業をなくし、各作業の承認プロセスを簡略化するなど、イノベーションを生みやすい体制作りに注力することです。

 

第三の「ツール」は、プロセスを促進する具体的な道具を拡充させることです。例えば、オープンイノベーションの促進に役立つソフトウェアの開発や、社内の情報を共有するアプリケーションの導入を行っています。

 

社内のオープンイノベーション文化の醸成

 

<参加者A(計測機器メーカー役員)からの質問>

オープンイノベーションを始めようとしても、研究者が自分の仕事がなくなるのではないかと危惧して、うまく浸透しないことが多くなっています。モンデリーズでは、どのようにオープンイノベーションを推進したのでしょうか?

 

<Abraham氏>

モンデリーズでも当初はオープンイノベーションに反対する社内の声が少なからず存在しました。そのような社員にオープンイノベーションを理解してもらうには、企業文化の醸成がまず重要だと考えています。

Many Hands Holding the Colorful Word Culture, Isolated

では、どのように「文化」を醸成したらよいかということですが、モンデリーズでは、適切な報酬システムを作り上げることで課題をクリアしました。外部組織とのコラボレーションによって得た成果も、自社内で行った成果と同等の報酬を与える工夫を行ったのです。

 

報酬制度は「企業が何を重視し、評価しようとしているか」という従業員へのメッセージです。報酬制度に関する工夫は、オープンイノベーション推進の場面で社内に対するよいメッセージとして受け止められました。

 

ここでいう報酬の変更には、公式と非公式があります。「公式」の報酬とは、社内で整備された給与しシステムや成果の評価制度を作り上げることです。しかし、一般にこうした全社的な制度の整備には時間がかかります。そのため最初は「非公式」な報酬という形で、外部と協業したプロジェクトが上手くいったときに、チームメンバーでお祝いに行くような、ささやかなことから始めるとよいでしょう。

 

報酬以外にも、経営層が研究者に対して「オープンイノベーションは研究者を代替するものではなく、補完するものである」というメッセージを送り続けることも重要でした。

 

オープンイノベーションという取り組みが、決して社内の研究者の置き換えではないことを正しく理解してもらうためです。オープンイノベーションの推進においては、たくさんの優秀な研究者が自社内でも働いていることを認めた上で、社外にも多くの優れた人たちが生み出した技術がある事実を理解すべきです。

 

モンデリーズは特許の取得数は食品業界内でトップクラスですが、それでも世界の食品の関する特許の99%はモンデリーズ外で取得されています。すべての優れた研究者がモンデリーズのために働いているわけではないため、社外の研究者たちを巻き込んでいかなければ、昨今の熾烈な競争環境を生き抜けないのです。

 

社内技術情報の整理

 

<参加者B(食品メーカー幹部)からの質問>

オープンイノベーションの推進のためには文化の醸成だけでなく、社内での技術情報の共有が重要といわれています。モンデリーズでは、どのように情報の収集と共有を行っていますか?

 

<Abraham氏>

モンデリーズでは、社内の情報共のために専用ツールを使っています。モンデリーズは世界中に11の研究施設がありますが、ある研究所での実験結果は、世界中のその他の研究所から閲覧できるようにシステムを使って整備しています。

情報共有に関しては、セキュリティ面の懸念をよく指摘されます。しかし、ある研究者だけが知っている実験結果が、転職と同時に他社に流出する不利益と比べると、全社で共有したほうが結果的に利益は大きくなると考えています。

加えて、社内SNSなど社内の協業性を高めるツールや、専門知識やノウハウにアクセスできるツールも導入しています。

 

<参加者B(食品メーカー幹部)からの質問>

多くの企業が社内のナレッジを整理するために巨大なシステムを構築しますが、情報を登録する負荷などが大きくなり、うまく使いこなせていないと感じます。システムを有効に機能させるマネジメント上のポイントはありますか?

 

<Abraham氏>

重要なことは、システムを社内のプロセスに合わせることです。多くの会社では作ったシステムのためにプロセスを変更しようとしますが、プロセスを変えて「追加でやるべきこと」が従業員に増えると、誰もそのシステムは使わなくなります。社員には、追加作業が必要なシステムではなく、現在のプロセスを補完してくれるシステムが必要なのです。

 

 

今回はモンデリーズ、Abraham氏の講演とディスカッションの前半部分を紹介しました。オープンイノベーション定着のために文化の変革が必要であること、そのために報酬制度が効果的であることをお話いただきました。

 

次回は、企業文化を変革するもう1つのポイントとして「パワー・クエスチョン」に関して講演いただいた後半部分をお届けします。