先端企業の取り組み2.フィリップス:新規事業立ち上げの6ステップ

このコラムでは前回に引き続き、ナインシグマが開催する「グローバル・オープンイノベーション・フォーラム」から、世界の先端企業の取り組みを紹介します。今回は連載の第2回として、フィリップス元最高技術責任者(CTO)のHidalgo氏の講演内容を、参加した日本企業幹部の方々とのディスカッションも交えながらお送りします。

 

新規事業を立ち上げる6つのステップ

 

私はフィリップスでコア事業の転換と成長を担当してきました。プロジェクトを通じて、スピーディかつ適切に次のステップの選択肢を絞り込み、実行に移す重要性を感じています。本日の講演内容は、次の一手をより早く、より適切に選択するためのアドバイスを、私のフィリップスでの実体験も交えて紹介します。

 

決断して何かを大きく変えるためには、組織的な仕組みが必要です。多くの会社は新しい取り組みを始めるとき、体制や仕組みを作るところスタートします。しかし、フィリップスの場合は、まず実践し、効果的な施策の再現性を高めるための「仕組み化」を最後に行うスタイルをとっていました。

 

私がこれまでフィリップスで実践して効果を上げてきた、新規事業の立ち上げプログラムは「①戦略構築」「②目標設定」「③新製品アイデア創出」「④パイロット」「⑤社内展開」「⑥仕組み化」、6 つのステップからなります。

 

 

既存事業からの転換における自社の本当の「強み」

 

「①戦略構築」は、まず「従来の主力事業であったコンシューマーエレクトロニクスから脱却し、新規主力事業としてコンシューマーヘルスを選択し、その周辺事業においても事業を広めていくことを決める」という大きな事業方針の策定から始めました。

 

この戦略が定まった上で、具体的な活動の柱を決めていきます。例えば、「既存事業のうち、コンシューマーヘルスに近い既存事業をパートナーと組んで徹底強化する」、「周辺技術は持っているが、マーケットに関する知識もチャンネルもない分野にパートナーと組んで参入する」といった具合です。

 

新規事業を考えるとき、新領域に知見などがなくても、レバレッジできる強みは活用します。日本企業のみなさんは「強み」というと自社技術に固執しがちですが、「強み」には流通チャンネル、ブランド力なども含まれます。

 

 

事業転換時の人員配置と社外技術の活用

 

<参加者A氏(エレクトロニクスメーカー幹部)からの質問>

日本と同様、特に欧州は大胆な人員削減はできないと認識していますが、大きく事業の方向性を転換する場合、既存の従業員はどのように扱えばよいでしょうか?

 

<Hidalgo氏>

欧州でも日本と同様に、大胆な人員削減はできません。そこで、何か一つの分野や領域だけに特化した知見を持つ専門家を、普段から優遇はしないようにします。得意なコアのスキルを持ちつつも、その周辺領域に関して多くの知識を有するT型人材を多く育てることによって、人材を大きく入れ替えることなく事業の転換が可能になります。

 

「①戦略構築」の次に行うのが「②目標設定」ですが、事業創造・事業転換を図る上では、「何ができるか」ではなく「何が必要か」の視点でアグレッシブな目標を立てます。

 

フィリップスの場合は、「製品開発の時間を従来比で30%以上加速する」「3年後に75%の新製品でトップシェアを獲得する」といった商品開発の目標に加え、「新製品の差別化要因となる技術の50%以上を外部から導入する」というオープンイノベーションに関する具体的な目標を設定しました。

 

これは今後進出するコンシューマーヘルスという知見のない領域でアグレッシブな目標を達成するためには、オープンイノベーションを通じて外部の専門家組織との協業していく必要があると考えたからです。

 

 

社外の技術とネットワークを活用したアイデア創出

 

<参加者B氏(化学メーカー役員)からの質問>

オープンイノベーションを推進する会社の多くが「差別化技術の50%を外から持ってくる」という技術導入の目標を設定していますが、その意図はどこにあるのでしょうか?

 

<Hidalgo氏>

私は以前、製薬業界に関する資料を見ていて、製薬会社でインパクトのあるイノベーションは、ベンチャーなどの小さな会社、社外からもたらされているものが多いと感じました。そのことをきっかけに、大企業が作ったアイデアより、小さな組織のアイデアのほうが大きなインパクトを与えるものが多いと感じるようになりました。そのためフィリップスでは社外技術の導入目標を50%とし、社内の人間に積極的に社外の技術を取り入れるように促したのです

 

「②目標設定」の後で、新事業における具体的な数字に沿ってアイデアを作り出す「③新製品のアイデア創出」のフェーズへ移ります。このフェーズは英語でIdeationと表現され、①②の2ステップで策定された戦略をドライブする燃料のような位置づけにあります。ここで重要なことは、「技術起点」ではなく「顧客起点」でアイデア創出をすることです。

 

フィリップスでまず行ったのが「自社が興味のある新事業分野の開示」です。さまざまな企業が中期経営計画などで開示している「環境・エネルギー・ヘルスケア」などの漠然とした分野ではなく、「人を健康にする空気」のように、興味のある事業領域を具体化して社外に向けて発信します。

 

社内の知見やノウハウを保護するよう訓練された技術者の中には、こうした具体的な情報の開示はとても抵抗があります。しかし、優れたアイデアを持った外部の人々に本気で協力してもらうためにも、自分たちが本気でアイデアを求めていることを示す必要があります。社外に情報を発信することによって、「この領域でオープンイノベーションを積極的に行うべき」というメッセージを社内に明確に伝える効果もあります。

 

 

アイデアを創出する3つの方法

 

日本企業では「新製品アイデア創出」の起点として、自社技術から考えることが多いかと思いますが、顧客ニーズを中心に考えて行うことが重要です。このように関心のある領域を明確にした上で、実際にアイデアを創出する方法として3つの方法を活用しました。

 

第1に、「クラウドソーシング」です。イノベーションコンテストとも呼びますが、具体的なテーマを決め、懸賞金を提示した上で、一般大衆から広く商品に関するアイデアを募る方法です。

第2に、「クラウドシェーピング」です。これは異なるバックグラウンドを持つ専門家や一般の人々と、商品開発の方向性について議論し、意見を出してもらう法です。参加者の選定をうまく行うと多様な意見が飛び交うようになり、とても効果的な議論ができるようになります。

第3に、「技術スカウト」です。フィリップスには技術スカウト専門のスタッフがいて、新事業に必要な技術や、新事業のシーズになる技術を持った企業を社外から探し出します。

 

オープンイノベーションを推進する上で、自社に利益をもたらす技術が「どこで生み出されたか」は重要ではありません。社外を活用した「新製品アイデア創出」を積極的に進める上では、「社外の技術やアイデアも社内と同様に評価する」ことを、しっかり外部に伝えることも重要です。

 

 

フィリップス・Hidalgo氏の講演とディスカッションの前半部分は以上です。第2回では、実際にどのような事業領域に方向性を設定するのか、その後の目標設定とアイデア創出に関するフィロソフィーや具体的な事例を交えてお話いただいた内容についてレポートしました。

 

講演内容の後半となる次回の第3回では、重要な事業アイデアの社内検証フェーズである「パイロット」以降のプロセスをご紹介します。