組織

先端企業の取り組み8. シーメンス:「Picture of the Future」とバックキャスティング

前回は、シーメンスの技術開発で将来的なトレンドを予測する活動「Picture of the Future(PoF)」の概要と意義を紹介しました。今回は実際の講演内容から、Wenisch氏と参加者とのディスカッションの前半部分をレポートします。

 

社会の将来像からのバックキャスティング

 

Wenisch

「将来をどのように見通し、予測をどのように自社の研究開発に活かすか?」

おそらくこのことは製造業に携わる方々の共通の悩みではないかと思います。将来が見えて、取り組むべき重点項目が手に取るようにわかれば、CTOや研究開発部門のトップから小さな開発チームを率いるリーダーまで、すべての研究開発担当者は楽になることでしょう。

 

今回は、将来の社会の動きを予測し、それを自社の研究開発テーマに落とし込んでいく、シーメンス独自の取り組みとそのポイントを紹介します。

 

みなさんは自社内での研究開発活動で、どのようにしてテーマを策定していますか?

前年やそれ以前から進めてきたテーマを、なんとなく生かさず殺さず進めている会社も多いのではないでしょうか?

 

シーメンスでは、将来の社会の予想図を大胆に構想することで、現状をあらためて分析し、事業シナリオを作り出す活動をしています。

 

これはエネルギー、建築、交通、ヘルスケアなど、あらゆる業界のトレンドをフォローして、将来のシナリオを可視化する取り組みです。社会経済や技術動向や政策など、さまざまなトレンドや相乗効果も含めて検討します。シーメンスではこれを「Picture of the Future(PoF)」と呼んでいます。

 

Picture of the Futureの作り方

 

<参加者A(自動車関連メーカ役員)からの質問

PoFとは具体的にどのような取り組みなのでしょうか? またどのように将来のシナリオを作っているのでしょうか?

 

Wenisch氏>

PoFの目的は、さまざまな事業分野の「将来像」を予測する取り組みです。

 

最初に社内のメンバーで、自動車産業や社会インフラなど、ターゲットとする領域の未来図をシナリオとして作成し、世界的規模で初期トレンドに基づいた仮説を立てます。

 

仮説は「将来の自動車はどのような姿か」「スマートグリッドによるイノベーションが起こった場合、社会がどのように変わるか」「ネットワークの高度化によって、研究開発活動のあり方はどう変わるか」というキークエスチョンの形にして、社外の専門家にインタビューで質問をぶつけていきます。

 

インタビューを通じて得た専門家の見解から、仮説の確実性を検証します。このとき、精度の高くない仮説は再構築をしたり消去したりすることで、将来像の予測の精度を高めていきます。

 

<参加者B(材料メーカ役員)からの質問>

PoFを作成する社内のメンバーはどのような方々でしょうか?

 

Wenisch氏>

社内における仮説作成は、PoFのプロジェクトチームがあり、そこに所属するメンバーが担当しています。しかし、案件によってはシーメンスのCTO自身が作成したり、エネルギーの未来図を描くプロジェクトではエネルギー戦略専門家とシーメンスの技術部門のメンバーで協力して作成したり、ケースバイケースです。

 

Concept / Future

 

正確な未来の予測は誰にもできません。しかし、PoF作成した将来の社会の予想図は、自社技術を理解するための叩き台を作成するときや、事業部と研究開発部門の間で特定領域の開発の方向性を共有するときに用いられます。このような活動によって、各部署がよりよい開発プロジェクトを推進できます。

 

今回は、シーメンスのWenisch氏の講演とディスカッションから前半部分を紹介しました。取り上げた内容は、Picture of the Futureの概要とその作り方です。

 

次回は、このPicture of the Futureをどのようにシーメンス内部で役立てているか、その目的や活用方法をお話いただいた講演の後半部分をレポートします。

 

先端企業の取り組み7. シーメンス:社会の将来像から研究開発の方向性を決定する

本コラムでは、オープンイノベーションに取り組む先進的な世界的企業3社の活動を紹介しています。フィリップス、モンデリーズ・インターナショナルに続いて最後に取り上げるのは、欧州を代表する多国籍企業、シーメンスです。

 

シーメンスは電力設備、医療機器、家電製品など、多岐にわたる事業を手がけるコングロマリットです。昨今は欧州のインダストリー4.0のムーヴメントでも中心的な役割を果たし、次世代に向けた活動にも積極的です。

 

フィリップスやモンデリーズのような新規事業や特定の事業を成長させるためのオープンイノベーションとは異なり、シーメンスでは、社内外の組織を巻き込んで社会の将来像に関する大胆な予測を立てるという活動にオープンイノベーションを活用していました。そしてその結果を、次世代の研究開発における自社のテーマ策定に役立てていました。

 

この具体的な内容について、シーメンスでHead of Corporate Technologyを務めるHelmut Wenisch氏の講演内容を3回にわたってレポートします。

 

将来の研究開発の仮説を立てる「Picture of the Future」

 

シーメンスでは2003年から、エネルギーや石油化学、ヘルスケアなどさまざまな分野の将来像を予測し、その結果を自社の研究開発テーマにフィードバックする「Picture of the Future(PoF)」という活動を行っています。

 

例えば「世界のデジタル化の進展により、ロジスティクスや交通はどう変わるか」「情報のオープン化が進むと、世界の企業や大学の研究開発体制はどう変わるか」などの問いを設定し、社内外の専門家と議論を深めて、さまざまな分野の将来像を構想します。そして、PoFを通じて得られた将来像から、自社の研究開発で力点を置くテーマを検討しています。

 

シーメンスのPoF活動は、単に社会の趨勢を見定めるだけでなく、下記のような2つの大きな効果があるとWenisch氏は述べています。

 

  1. 事業シナリオの創出
  • 特定のテーマに関する将来予想図を描くとともに、現状分析によって、不確定な将来像について予測の精度を高めることができます。

 

  1. 社内における方向性の共有

 

  • Wenisch氏は「PoFはあくまでも社内コミュニケーションのための取り組み」とも語っています。つまりPoFには、スタッフ間の隔たりを埋めるコミュニケーションの機能もあります。PoFの作成プロセスで将来像を描きながら、社員や有識者が活発なコミュニケーションを推し進めることで、モチベーション向上の効果が期待できます。

 

  • 事業部門と研究開発部門が合意して長期的な予測やビジョンを描くことは、一般的な企業では意外に困難です。特に具体的な将来のビジョンがない状態で、研究開発計画を策定し、かつそれを実現可能なプランにすることは難しいといえます。社内メンバー内で将来像を共有し、具体的な計画に落とし込むためにPoFは役立っています。

 

将来的なビジョンの構想や、社内外のコミュニケーションを活発にする取り組みは簡単にみえますが、実は多くの日本企業が実践に苦労しているのではないでしょうか。

 

holding future in sky

 

 

PoFは将来の研究テーマの発掘という戦略的な側面に重きを置かれた取り組みに見えがちです。ところが実際には、ビジョンを持つ、コミュニケーションを深めるというコミュニケーション活性化の効果が大きい点において、とても興味深い活動と感じました。

 

次回はPoFの取り組みの詳細について、Wenisch氏の講演と参加者とのディスカッションを紹介します。

 

先端企業の取り組み6.モンデリーズ:オープンイノベーションによる製品化事例

世界的な食品メーカーである米国・モンデリーズ社のオープンイノベーション取り組みについて、前回は講演の前半部分を紹介しました。同社最終回のでは、後半部分にお話いたいだいた企業文化を変革するときのポイントや、実際にオープンイノベーションを通じた製品化の事例をレポートします。

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先端企業の取り組み4.モンデリーズ:ささやかな報酬とパワー・クエスチョン

前回まで3回に分けて、フィリップスのコンシューマーライフスタイル部門、元CTOのAntonio Hidalgo氏による講演内容を紹介しました。引き続いて今回は、モンデリーズ・インターナショナル(以下、モンデリーズ)のオープンイノベーションに関する取り組みや成功事例を紹介します。モンデリーズは、日本でもお馴染みのオレオ、リッツ、クロレッツといったスナック事業を世界中で展開している企業です。

 

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ゼロからはじめるオープンイノベーション

現在、オープンイノベーションが空前ブームのような印象を受けますが、私は、言葉だけが先行していると感じています。そのような状況下では、トップダウンで任されたオープンイノベーション推進チームが、「一体何をすれば良いのか」と戸惑っているというのが、日本企業の現状と言えるのではないでしょうか。“ブームのトップダウン”では上手く機能していきません。

本コラムでは、私が大阪ガスでオープンイノベーション室をゼロから立ち上げた経験から、オープンイノベーションをはじめるうえで重要だと思った事を記述します。

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