自前主義(NIH)の克服

NIHという単語を聞いたことはありますか。NIHは「NOT INVENTED HERE」の略であり、ウィキペディアでは以下のように記載されています。

「ある組織や国が別の組織や国(あるいは文化圏)が発祥であることを理由にそのアイデアや製品を採用しない、あるいは採用したがらないこと。また、その結果として既存のものとほぼ同一のものを自前で再開発すること」

端的に言いますと、自社が開発していない技術(つまり社外が開発した技術)は採用しないし、自社が開発していない製品は売らないという考え方です。一昔前までであれば、製品の上市のための研究開発は全て自分たちで行うことが当然であったかと思いますため、このNIHという考え方も納得がいくところはあります。

しかし、近年は状況がガラリと変わりました。顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短縮化、中国などの新興国メーカーの台頭による競争構造の変化などから、モノづくりに対する要求レベルは高まるばかりです。つまり、すべての製品開発を自社のみで行うやり方では市場ニーズにキャッチアップすることが出来なくなっている時代となっているのです。
このようなことを背景に、欧米やアジア企業では特に2000年以降、よりスピーディに製品開発を行うため、自社のみならず、既存のネットワークの外にある技術を活用するというオープン・イノベーションが浸透してきております。

ただこのオープン・イノベーションという手段を、どのように社内に取り込むか、逆に言えば、いかに社内のNIHの考え方を取り除くかということについては、非常にハードルは高いものとなっております。特に、既存事業に従事する組織からは「オープン・イノベーションを行うと、社内の研究開発力が落ちてしまうのではないか」という声が、研究者からは「オープン・イノベーションは自身の研究を否定するものではないのか」などと言った声が聞こえてくることも事実です。これらの声に対しナインシグマは以下のように考えております。

オープン・イノベーションと聞いて技術の「アウトソーシング」をイメージし、結果として上記のように「社内の研究開発力の空洞化を懸念」する方も多いです。しかし、それは大きな誤解です。既存のネットワークの外にある技術を活用する場合のオープン・イノベーションは「インソーシング」の考え方となるものです。
自社の製品開発をよりスピーディに行うため、社外の技術を導入しようとした際、当然のことではありますが、社外技術を持ってきて足し合わせるだけでは1+1=2以上にはなりません。それを2以上とし、より多くの価値を獲得するためには、何かしらの追加開発が必要となります。そのような追加開発を経て確立した技術は自社の用途に特化した「オンリーワンの技術となる」ものです。そういった観点から、技術探索型のオープン・イノベーションはアウトソーシングどころか、むしろインソーシングと呼ばれるものと考えています。

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次に、研究者からの「オープン・イノベーションは自身の研究を否定するものではないのか」という声への対応についてですが、ここではオープン・イノベーションをうまく機能させている企業の例を見ていきましょう。

オープン・イノベーションの先進企業として知られているP&G社では、トップが研究開発のスピードを最重要視させることで社員の意識改革を行っています。そこに社員の研究を否定する、否定しないなどの概念は入ってくることはなく、移り変わりが激しい消費財業界において、「他社に先駆けて製品を上市すること」をゴールとしているのです。年間約20億ドルという巨額の研究開発費を用い、研究開発部門には8,000名規模の研究者を擁し、世界トップレベルの研究開発を行っています。それでもオープン・イノベーション(P&Gではコネクト・アンド・ディベロップメントと呼ばれる)によって、社外技術を世界中から集めているのは、まさしくスピードを最重要視しているためなのです。

また、オランダの電機・家電製品のメーカー、PHILIPS社のように、開発プロジェクトの立案や進捗確認を行う会議にて、トップや役員がいつも「なぜ、自ら行う必要があるのか?オープン・イノベーションで得られる知見で代替できないのか?」などという質問(パワークエスチョン)を行うことで、社員のオープン・イノベーションに対する意識を常日頃から高めている組織体制も見受けられます。

このように見てくると、NIHという考え方から脱却するためには、いかに「トップの掛け声が重要」であるかを理解して頂けるかと思います。先述のように、一昔前までであれば、製品の上市のための研究開発は全て自分たちで行うことが当然でありました。そのため、NIH症候群が根付いてしまっているのはある意味当然でしょうし、一朝一夕に変えられないのも理解できます。しかしながら、社内一本やりでは、社内と社外を自由自在に使いこなす組織には太刀打ちできないもの理解いただけるところはあるかと思います。これを変えられるのは、また変えなくてはいけないのは、やはり会社のトップの役目であると考えております。

このブログをご覧になっている方は、そのような会社のトップの意識改革にも腐心しているかと思います。そのはじめの一歩として、まずは上記のようなオープン・イノベーション先進企業のP&G社やPHILIPS社の事例や取り組みについて、トップに紹介してみてはいかがでしょうか。